労働時間・休日規制の 例外 10
『高度プロフェッショナル制度』って何?
『高度プロフェッショナル制度』(略して『高プロ』)は、みなし労働時間制の一種ではない。
『違反にならない』という意味で強いて言えば、労働時間・休憩・休日の例外(「53.『管理職=管理監督者』ではない」)で登場した第1次産業(林業を除く)に従事する労働者・管理監督者・機密の事務を扱う者(『41条該当者』という。)等の方々の扱いと似ていて、労基法の条文上も、41条『の2』と、41条のとなりに割込んできたものだが、これは全くの別物だ。
まず、上記『41条該当者』の場合、1日8時間・週40時間を超えて働いても、また1週間に7日働いても
・ 違法にならない
・ 割増賃金は発生しない
というだけだ。もちろん深夜割増は普通に支払われる。
これが、『高プロ』になると、この『労働時間』という概念そのものが外される。つまり『残業』の概念もなくなる。
これまで述べたように労働者の給与は基本的にその労働時間によって計算されるので、これを根底から覆したのが『高プロ』ということになる。そのため、2018年の制定時には反対の声も多かった。
『高プロ』導入の条件
・労使委員会の議決事項
この『高プロ』導入の要件は、『企画業務型裁量労働制』の場合と似ていて、次の10目を、労使委員会の5分の4以上の多数により議決することになる。
① 対象業務(高度の専門知識を要し、時間と成果の関連が薄いと省令で定めた業務)
・金融商品の開発
・ファンドマネージャー・トレーダー・ディーラー
・証券アナリスト
・経営コンサルタント
・新たな技術,商品,役務の研究開発
② 対象労働者の範囲(対象業務に従事し、次の要件を満たすこと)
・業務内容,責任の程度,求められる成果につき、使用者と書面で合意している
・確定している給与が1年あたり1075万円以上
③ 健康管理時間の把握
④ 休日の確保
・4週間を通じ4日以上
・年間104日以上
⑤ 健康管理時間に係る選択的措置(次のいずれかを実施)
・勤務間インターバル11時間以上+深夜業月4回以内
・週40時間以上の労働を、月100時間以内または3ヶ月240時間以内にする
・年1回以上連続2週間(本人請求時は年2回以上連続1週間)以上の休日
・臨時の健康診断(週40時間超労働が月80時間超、または申出による)
⑥ 健康管理時間に応じた健康・福祉確保措置(次のいずれかを実施)
・⑤のうち、選択したもの以外のいずれか
・医師による面接指導
・代償休日又は特別休暇の付与
・心と体の健康問題についての相談窓口の設置
・適切な部署への配置転換
・産業医等による助言指導または保健指導
⑦ 同意の撤回に関する手続
⑧ 苦情処理の措置
⑨ 不利益取扱いの禁止
⑩ その他
ア・決議の有効期間の定め(自動更新はダメ)
イ・労使委員会の開催頻度・開催時期
ウ・労働者の健康管理を行うのに必要な知識を有する医師の選任
エ・記録の保存(当分の間、有効期間中及びその後3年間)
・報告義務
さらに、『企画業務型裁量労働制』と似て、この決議を届け出た使用者は、対象労働者の健康管理時間・休日実施した選択的措置及び健康確保措置の状況を、決議から6ヶ月以内ごとに1回、監督署に報告する義務がある。
『1075万円』はどこから?
『高プロ』を導入するには、『要件②』にあるように、必ず支給される給与だけで1年あたり1075万円の給与を保障しなければならないが、この金額はどこからきたのか。
労働基準法をちょっとかじった方なら割と初めの方に出てくるので見覚えのある方もいると思うが、この金額は、労働契約期間の上限のところで出てくる。
期間の定めのある労働契約については、長期人身拘束防止の観点から3年以内と定められているが、例外として5年まで認められる場合がある。その1つに
『システムエンジニア等の業務に就こうとする者のうち一定の学歴・実務経験を有し、年俸額が1075万円を下回らない者』
という基準がある。
『高プロ』の収入要件もこれを前提にしたことは2015年1月16日の労働政策審議会配布資料にも書かれていて、議論の中でも『法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で規定することが適当』とされているが、面倒くさかったのかどうかは知らないが、そのまま『高プロ』の基準になった。
ただ、『高プロ』の1075万円の根拠は明示されていて、
『基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額』
となっている。
1075万円の3分の1というと360万円弱だ。日本の平均給与がこんなに低かったっけか?と思う方もいるだろうが、この『基準年間平均給与額』というのは、『毎月勤労統計』における毎月決まって支給する給与の額の1月分から12月分までの各月分の合計額とされている。賞与等は入らない。
ちなみに22年度の『基準年間平均給与額』は320万円程度なので、これが350万円程度まで上昇すれば、さすがに省令の変更が必要になるだろう。
『高プロ』の導入実績
この高度プロフェッショナル制度、どの程度利用されているかというと、2022年3月時点で、22事業場(21社)・665人となっている。
同年、日本の企業数は385万・就業者数は6723万人となっているので、『高プロ』を導入している企業は0.0005%・『高プロ』で働いている方は0.0010%で10万人に1人程度となる。
鳴り物入りで法定された制度にしては、導入割合は低い。
次 ― 67.『1ヶ月単位変形』は、1ヶ月以内なら可 ―
※ 訂正
『高度プロフェッショナル制度』って何? 3行目
(適用除外) ➡ (「『管理職=管理監督者』ではない」) '23.07.18