53.『管理職=管理監督者』ではない

労働時間・休日規制の  例外 3
      労働時間・休憩・休日の適用除外
 

 以下の方々については、労働基準法の規制のうち、労働時間(1日8時間・週40時間)・休憩(6時間超45分・8時間超1時間)・休日(週1休)について、その職種の特徴から適用除外となっている。

 ただ、これらの方についても深夜の割増賃金規定は適用されるので、労働時間の把握についてはきちんとやっておく必要がある。
 もちろん、年次有給休暇の規定も適用される。

① 第次産業(林業を除く)に従事する方
② 管理監督者
③ 機密の事務を扱う者
④ 監視・断続的労働に従事する者
 

① 第一次産業(林業を除く)に従事する方


 ①林業以外の第一次産業の場合だが、本来、労働時間にも休日にも休憩にも制限がない。しかし、心身の健康を損なわないよう、監督署は週の労働時間を48時間以内に抑えるように、また週1回の休日の確保を指導しているようだ。

 第一次産業は天候の影響を大きく受けることが適用除外の理由とされる。

 ただ、第一次産業といっても職種は幅広いので一概には言えないが、自然相手の仕事で職務内容によっては危険と隣り合わせという側面がある一方、長時間労働による精神的ストレス・過労死や精神疾患の発症等のケースが少ないことも、適用除外がずっと続いてきた隠れた理由ではないかと個人的には考えている。

 そういった事件が頻発するようなら、将来的に、国が法改正に向けて動き出すということも考えられるので、この監督署の指導には従っておいた方が良い。

 ちなみに週48時間とすると、年間所定労働時間の最大は、
  平年)48時間 × 365日 ÷ 7日 = 2502.857…時間
  閏年)48時間 × 366日 ÷ 7日 = 2509.714…時間
                              となる。
 

② 管理監督者


 ②管理監督者は、『管理職』であることは前提として、経営者と一体的な立場にあることが必要だ。労働時間・休憩・休日等の規制の枠を超え活動することが要請されざるを得ない一定の条件が備わった方限定の措置で、具体的には次の要件が必要とされる。

㋐ 職務内容が、最低、ある部門の総括的な立場にある。
㋑ 部下に対する人事権等、労務管理上の決定権を持ち、機密事項に接している。
㋒ 管理職手当などで、時間外手当の不支給を十分補っている。
㋓ 出社退社等について厳格な制限を受けない。

 ここで、㋐と㋑は、『経営者と一体的な立場』という点から外せない要件だろう。㋒の『管理職手当』等による給与面の優遇は、判例上重要なウェイトを占めていて、もし、その管理職の給与が、同様の残業をした部下の割増賃金を含めた給与と大差ないようであれば、『管理監督者』とは認められない。

 ㋓の『出社退社の制限』については、元々は俗にいう『重役出勤』の類いを想定していたようだが、1988年に要件の1つとしては公式には通達から削除されている。

 しかし、その後も裁判の傾向としては『自己の勤務時間についての自由裁量権を有すること』が管理監督者の要件の1つとする裁判判決が相当数見られるので、あえてここに入れてある。
 

・部下の数は無関係


 ここで触れていない『部下の数』についてはどうかというと、少々古いが徳洲会事件(1987.3.31・大阪地裁)では、1人も部下がいなくても管理監督者と認められているし、日本マクドナルド事件(2008.1.28・東京地裁)では部下70人以上でも管理監督者とは認められていないので、部下が何人以上いたら管理監督者という基準はないと考えてよい。

 以前問題になった『名ばかり店長』とは、ほとんど『部下を持つ管理職である』ことだけを根拠に『管理監督者』扱いしていたもので、他の要件はほとんど備わっていない事件だった。

 いずれにしても、『管理監督者』扱いしていた管理職が必ず管理監督者に当てはまるわけではないので、その場合は後になってから追加の残業代の支払い等で大変なことになる例も多い。
 管理監督者として扱おうとするなら、上記㋐~㋓に沿った十分な吟味が必要だ。

 余談だが、労基法は強行法規なので、本人が納得していたかどうかは全く関係がない。
 

③ 機密の事務を扱う者


 ③ 機密の事務を扱う者とは、各国の機密情報を狙うスパイ映画に出そうなエージェントとかの怪しいやつではない。秘書などが典型だ。しかし、単純にスケジュール管理を行っているだけのような場合は該当しない。
 

     ④ 監視・断続的労働に従事する者
            (監督署の許可が必要)


 ④ 監視・断続的労働に従事する者は、寮監や集合住宅の管理人等が該当する。
 ここで監視労働では、
 ・監視することを本来の業務とし、身体又は精神的緊張の少ない業務

 断続的労働では、
 ・通常は業務閑散であるが事故に備えて待機するもの
 ・寄宿舎の賄人等で、手待ち時間が実作業時間を超えるもの
                           が、許可の対象となる。

 宿日直業務については、
 宿日直が本業ではなく、本来の業務外において、付随的に宿直・日直業務を行う場合が許可の対象になる。

④については、監督署の許可が要件となっている。

 

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※ 訂正

②管理監督者 14行目
  事故の ➡ 自己の

・メインタイトル変更                      '23.07.18
残業代不要の管理職は『管理監督者』だけ ➡ 『管理職=管理監督者』ではない

2023年05月23日