みなし労働時間制の中でも(前回の)②『専門業務型裁量労働制』と③『企画業務型裁量労働制』の2つについては、『使える』要件が限られていて、運用もそれなりに大変だ。
ここではザっと説明するが、導入を考えている場合には綿密な準備が必要だということは覚悟しておいた方が良い。
② 専門業務型裁量労働制
②専門業務型裁量労働制というのは、『専門的な業務』について、その業務に就く労働者の労働時間を、1日当たり、労使協定で定めた時間労働したものとみなす制度で、みなされた時間が法定労働時間に収まっていても労使協定が必須。監督署への届出も必要になる。
この『専門的な業務』については、『業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な業務』として省令で定められた次の業務のいずれかに限定されている。
・専門業務型裁量労働制が可能な業務
ア 新商品.新技術の研究開発・人文科学.自然科学の研究業務
イ 情報処理システムの分析・設計の業務
ウ 新聞.出版の記事の取材.編集・放送番組制作の取材.編集の業務
エ 被服.室内装飾.工業製品.広告等の新規デザイン考案の業務
オ 放送番組.映画等制作のプロデューサー・ディレクターの業務
カ コピーライター・システムコンサルタント・インテリアコーディネーター・ゲーム用ソフ
トウェアの創作・証券アナリスト・金融商品の開発の業務
キ 大学における教授研究(主として研究)の業務
ク 弁護士・公認会計士・税理士・弁理士・不動産鑑定士・中小企業診断士・建築士の業務
これらの業務に就いては、次の事項を労使協定で定めることで、労使協定②で定めた時間労働したものとみなされる。
8士業のうち、司法書士・行政書士・土地家屋調査士・社会保険労務士・海事代理士が入っていない理由はよく分からない。この省令が定められたのが1997年なので、時代的背景が関係しているのかもしれない。
・労使協定で定める事項
① 対象業務
② 労働時間として算定する1日当たりの時間
③ 業務遂行の手段・時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこと
④ 労働時間の状況に応じた健康確保措置
⑤ 当該労働者からの苦情の処理に関する措置
⑥ ④・⑤に関する個人ごとの記録を、有効期間中及びその後3年間保存すること
⑦ 労使協定の有効期間
③ 企画業務型裁量労働制
③企画業務型裁量労働制というのは、事業運営の中枢的業務(企画・立案・調査・分析の業務とされる)に携わる労働者について、1日当たり『労使委員会』(これについては次回述べる)で5分の4以上の多数により決議した時間労働したものとみなす制度。
『専門業務型裁量労働制』と違って業務内容が限定されていない分、より厳格な要件を満たす必要がある。
また、この企画業務型裁量労働制は、『労使委員会の決議』を監督署に届け出ることによって効力が発生する。つまり、36協定のときの『労使協定』と同じで『届け出てナンボ』だ。決議だけしても届け出なければ効力はない。
・労使委員会で決議しなければならない事項
① 業務遂行の手段・時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととす
る『対象業務』
事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務で、業務の
性質上、これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ね
る必要があるものに限る。
② 『対象労働者の範囲』
対象業務を適切に遂行するための知識・経験等を有する労働者に限る。
③ 労働時間として算定する1日当たりの時間
対象業務に従事するときの対象労働者に限る。
④ 労働時間の状況に応じた健康確保措置
⑤ 当該労働者からの苦情の処理に関する措置
⑥ 対象者の同意が必要であること・及び不同意者に対する不利益取扱いの禁止
⑦ ④~⑥に関する個人ごとの記録を、有効期間中及びその後3年間保存すること
⑧ 決議の有効期間
・労働時間と『健康確保措置』の報告義務
さらに、この決議を届け出た使用者は、④で決議した対象労働者の『労働時間の状況』と『健康確保措置』(正式には『健康及び福祉を確保するための措置』)の実施状況を、6ヶ月ごとに1回、監督署に報告する義務がある。
これは、法律上は最初の6ヶ月後は『1年以内ごとに1回』となっているが、『当分の間』6ヶ月以内ごとに1回となっていて、これがずっと続いているよくあるパターンだ。
みなし労働時間制を適用できない労働者
なお、これら『みなし労働時間制』は、36協定と同様、妊産婦(妊娠中および産後1年未満の女性)が請求した場合と18歳未満の者には、法定労働時間を超えるか否かに関わらず適用できない。
また、③の企画業務型裁量労働制については、派遣労働者については適用できない。
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