20.代替休暇と給与計算

 

 さて、ここで久しぶりに月給の月影さんに登場してもらい、時間外60時間超の場合に代替休暇を取得したときと取得しなかったときの給与計算例を示すことにする。

 月影さんの給与〆日は月末・休日は土日祝日・法定休日は日曜日・週の初日は決めていない・所定労働時間は月~金9:00~18:00(休憩1時間)。半日は4時間で、半日・時間単位年休も認められているものとする。

 給与については、
 固定的給与は、基本給と各種手当で259,700円(欠勤がない月)となっている。
 賃金単価は以下の通り。
 ・基礎賃金     1,423円/h
 ・時間外労働単価  1,779円/h
 ・ ” (60時間超) 2,135円/h
 ・休日労働単価   1,921円/h
 ・深夜労働割増単価  356円/h

 大変忙しいある月、月影さんの時間外労働等の時間数は次のようになった。
 1時間単位に四捨五入すると、右のようになる。

 ・法定時間外労働   81h24m   ➡   81h
 ・休日労働       8h43m   ➡   9h
 ・深夜労働      12h25m   ➡   12h
 

① 代替休暇を取得する希望がない場合

 すべて普通に割増賃金を支払うことになるので、

 ・時間外労働     1,779円/h × 60h = 106,740円
 ・時間外労働(60h超)2,135円/h × 21h =  44,835円
 ・休日労働      1,921円/h ×  9h =  17,289円
 ・深夜労働       356円/h × 12h =  4,272円

  固定的給与   割増賃金計   総支給金額
  259,700円 + 173,136円 = 432,836円  となる。
 

② 代替休暇を半日取得する希望があった場合

 ・時間外労働     1,779円/h × 76h = 135,204円
 ・時間外労働(60h超)2,135円/h ×  5h = 10,675円
 ・休日労働 + ・深夜労働           21,561円

 この場合は、固定的給与と合わせて総支給金額 427,140円 となる。

※ ここまでが、代替休暇の取得にあたって会社が当然にできる措置だ。以下の運用は、時間単位年休権の行使という一身専属の権利行使と関わってくるので、強制できるものでないことはもちろん、会社にとっても一般に義務ではない。
 ここでは、就業規則上も労使協定上も認められ、本人が希望している場合として記す。
 

③ 時間単位年休を3時間取得し、
     これと合わせて代替休暇を1日取得する希望があった場合

 ・時間外労働     1,779円/h × 80h = 142,320円
 ・時間外労働(60h超)2,135円/h ×  1h =  2,135円
 ・休日労働 + 深夜労働            21,561円

 この場合は、同様に、総支給金額 425,716円 となる。
 

④ 時間単位年休を2時間取得し、
     代替休暇を1日取得する希望があり、会社が認めた場合

 ・時間外労働     1,779円/h × 81h = 144,099円
 ・時間外労働(60h超)2,135円/h ×  0h =     0円
 ・休日労働 + 深夜労働             21,561円

 この場合は、同じく 425,360円 となる。

 これは、本来代替休暇が5h15mとなるところ、会社が無償で任意に45mの労働を有給で免除したもので、
 代替休暇分  時間単位年休分  労働免除分
  5h15m  +  2h  +  45m  =  8h

で、代替休暇1日分としたものだ。
 

時間単位年休の1時間未満分割はNG


 または、『18. 60時間超の割増賃金引き上げと代替休暇』で述べたように、年休とは別に、15分単位以下で取得可能な会社独自の『有給休暇』を創設し、これを45分充当しても可能だ。

《そんな面倒くさいことをしなくても、時間単位年休を、15分単位で取得できるようにすれば…》と思う方がいるかもしれないが、それはムリだ。

 『時間単位年休』の『時間』は、timeでなくhour。あくまで法定の年休の一部をhour単位にしたもので、1時間未満に分割することは許されない。労働者に有利な扱いで問題ないと思われるかもしれないが、労基法上は『有利』とはみなされない。

 年次有給休暇は、元々1日単位が原則だが、労使の希望もあり、会社ごとに認めれば半日の取得が認められ、労使協定で定めれば『5日分まで』という条件の下で時間(hour)単位も認められるようになったという歴史的経緯がある。

 が、さすがにそれ未満は認められていない。細切れの休暇は年次有給休暇の趣旨に反し、労働者に不利ともみなされるからだ。
 なので、1時間未満の休暇でこれを埋めるには、独自の休暇の創設が必須になる。
 

※ 代替休暇の取得希望があったが、取得できなかった場合は…


 その場合は普通に、①の、代替休暇を取る希望がなかった場合との差額を、翌月分か翌々月分かの給与に加えて支払うことになる。
 この場合の追加支給額は、①から、先に支払った給与金額を引けばよい。

 ここで『換算率』が0.25の場合、たまたま深夜労働の割増賃金率と同じなので、その場合『差額単価』は、『深夜労働単価』(この場合は356円/h)に一致する。従って、

        『差額単価』 『代替休暇に振替予定の     代替休暇不取得時の
                   60h超過時間数』      追加支給額
②の場合     356円/h  ×     16h     =     5,696円
③の場合     356円/h  ×     20h     =     7,120円
④の場合     356円/h  ×     21h     =     7,476円

でも算出できる。
 ただ、時間外労働等を四捨五入しない場合は誤差が生ずることがあるので、原則通り引き算で確定すべきだ。

 

次 ― 21.代替休暇と出勤率 ―

 

※ 数字を訂正しました。('23.01.18)

『 ④時間単位年休を2時間取得し、… 』8行目  5h45m ➡ 5h15m

※ 字句訂正です。('23.01.23)

『時間単位年休の1時間未満分割はNG』1行目 60.60時間超… ➡ 18. 60時間超…

2023年01月17日