2023年4月より中小企業も、時間外労働が月60時間を超えた分の割増賃金率が1.25倍から1.5倍になったこともあって『代替休暇』にも関心が集まっている。
元々割増賃金の趣旨は、法律の原則を超えた長時間労働に対する補償で、そうした長時間労働の縮減を目的として定められたものであることは前に書いた。
・代替休暇とは
それが月60時間ともなると健康を害する恐れも顕在化してくる。そこで、60時間超の時間外労働については、さらに25%の割増率を課してこれを防ごうという考えだ。
同時に、その分の休暇を与えて健康への悪影響を防ぐ施策を取った場合には、プラス25%の割増を免除しようというのが『代替休暇』と考えてよい。
なお、『16.休日出勤の残業代は4通り』のところで触れたが、この『60時間』には休日労働は含めない(単なる所定休日の労働は含める。)。
1時間の25%は15分。ざっくり言うと、月60時間超の時間外労働1時間あたり15分の休暇を与えれば、割増賃金のプラス25%部分は免除ということだ。
ただ、15分で疲労回復できる人はいない。ある程度まとまった休暇が必要だということで、代替休暇の付与単位は1日または半日とされている。
ただ、これだと一般的には、月60時間超の時間外労働が16時間以上の場合(時間外労働月76時間以上の場合)にしか代替休暇を取得できなくなってしまう(法律の枠組み上は2ヶ月分を1回の代替休暇にまとめることは可能)。
『一般的には』とことわったのは、『半日』の定義は、『半日年休』の場合と同様、ある程度企業サイドに任せられているからだ。以下同様に、半日が4時間の場合で考える。
年次有給休暇との合わせ技もOK
そこで、年次有給休暇と組み合わせて1日・半日となる場合には、これを認めることになっている。
例えば、月64時間の時間外労働があった場合、60時間超が4時間となるので、0.25をかけて1時間。3時間の時間単位年休と組み合わせて4時間とすれば半日となるので、代替休暇と認められる。
月65時間だったらどうするか。3時間の年休では15分余ってしまう。すべて代替休暇で消化しなければならない決まりはないので、1時間分は普通に1.5倍の割増賃金を支払うことになる。
もちろん、1時間15分の代替休暇と2時間の年休を合わせて半日とするのであれば、労働者に有利な扱いなので、これは構わない。ほぼ同じことだが、15分単位等で取得できる任意の有給休暇を創設し、これを45分加えてもよい。
ただ、こうした運用は、『時間単位年休』を労使協定で取り決めた事業所に限られる。
代替休暇は、労働者の意向が大前提
代替休暇は、労働者保護の施策なので、労働者に代替休暇を取る意向がなければ普通に1.5倍の割増賃金を支払うしかない。
代替休暇を与える時期についても、『月60時間超の時間外労働があった賃金計算期間の末日の翌日から2ヶ月以内』という限定条件がついている。
本人が代替休暇取得に同意したとしても、万一期間内に取得できなかった場合には、その時点でプラス25%を支払わなければならない。
この代替休暇の制度を自社に取り入れるためには、労使協定の締結が必要になる。これも単なる代替休暇の前提条件で、労使協定を結んだからといって、代替休暇の取得が義務になることはない。あくまで取得には本人の同意が必要だ。
ちなみに現在、建設・運輸などの業種を除いた場合、時間外労働の限度は原則月45時間・年360時間となっているので、この『代替休暇』を使う可能性があるのは、特別条項(後述)を協定していて、実際に延長した月(年6回以内)の場合のみとなる。
なお『年次有給休暇』の項で詳しく述べるが、代替休暇を取得し終日出勤しなかった場合は、年休付与要件の『出勤率』に影響するので、8割ギリギリという場合は注意したほうが良い。これはめったにないとは思うが。
・ 代替休暇には、結構ハードルが…
こう見ていくと、代替休暇の制度を機能させるには、結構色々なハードルがある。
多くの中小企業にとって、こうした代替休暇の制度を苦労して構築するよりは、基本に立ち返って、その努力を時間外労働の縮減に振り向けた方が現実的と言えるかもしれない。
次 ― 19.代替休暇の労使協定 ―
※ 脱字等、訂正します。('23.01.11)
『・代替休暇とは』13行目 1回の代替休暇を ➡ 1回の代替休暇に
『年次有給休暇との合わせ技もOK』12行目 限られれる ➡ 限られる
『代替休暇は、本人の意向が大前提』13行目 年次有休暇 ➡ 年次有給休暇
『・代替休暇とは』1行目 60時間以上 ➡ 60時間超('23.01.13)