『年次有給休暇』と代替休暇
前に書いた『代替休暇は出勤率に影響する』とはどういうことか。
『年次有給休暇』のところで詳述するが、年次有給休暇(以下『年休』)付与の重要な要件が『出勤率8割以上』だ。ここで『出勤率』とは、『全労働日』に対する『出勤日』の率である。『出勤日』や『全労働日』には、年休期間や労災・出産・育児休業など『出勤とみなす日』も含む。
代替休暇について、厚労省の説明では、
『労働者が代替休暇を取得して終日出勤しなかった日については、正当な手続により労働者が労働義務を免除された日であることから、年次有給休暇の算定基礎となる全労働日に含まないものとして取り扱うこととなります。』
となっていて、他の休暇同様『労働義務を免除された日』という認識だ。素直な方だと、何となく分かったような気にさせられてしまうところだが、これが本当なら、『年休期間や労災・出産・育児休業などで労働義務が免除されるのは、正当な手続によるものではないので、全労働日に含める』ということになる。ちょっと変なのだ。
・社労士廣田の解釈
『代替休暇』については、休暇ではなく、どちらかというと『休日』の扱いになると考えた方が良い。
他の休暇ならその間の労働の義務が『免除される』のだが、代替休暇取得時は、代替休暇を取得して有給になった期間分の給与を含めて、60時間超労働の割増賃金率が1.5倍以上になったものなので、その期間は(免除ではなく)『当然に』労働の義務が『なかった』ことになる…と捉えるのが一番分かりやすいのだ。
少なくとも『正当な手続だから』というよりは、『全労働日』や『出勤日』から除かれる理由が納得できる。
これは、あくまで社労士廣田の解釈だが、以下、この前提で書いていることはお断りしておく。
出勤率8割ギリギリの場合は注意
一般に、a,b,x 共に自然数で b > a , a > x の条件なら
a / b >( a - x )/( b - x )
が成立する。ここでは
a =『出勤日』、b =『全労働日』(代替休暇を想定しない場合)
x =『代替休暇を取得し終日出勤しなかった日』
の場合で、a / b の分母と分子から x ずつ引くと、a / b より小さくなるという当たり前の理屈だ。
元々の年間の全労働日が245日であり、私用中の大ケガでの休職期間があり、出勤日が196日と想定される方がいたとする。このままいけば出勤率は
196日 ÷ 245日 = 80%
で、年休が付与される要件ギリギリである。
ここで、この方が、休職期間の仕事の遅れを挽回しようと必死に働き、ある月92時間の時間外労働をし、代替休暇の対象となり、翌月代替休暇を1日取得したとしよう。すると、『全労働日』からも『出勤日』からも1日分引かれるので、出勤率は
195日 ÷ 244日 = 79.918…%
となり、8割を切ってしまう。つまり、次期の年休付与は『なし』となる。
もちろん、ここで『ほぼ8割出勤』として年休を付与するのは労働者に有利な扱いなので、労基法上は問題ないのだが、それまで8割を切った場合に誰にも年休付与していなかった場合には、恣意的な扱いと取られてしまう危惧はある。
前にも書いた通りめったにないケースだが、8割ギリギリの場合は、気を付けるに越したことはない。
・出勤や他の『休暇』がある日は『休日』でない
『社労士廣田の解釈』で『どちらかと言えば休日』という煮え切らない表現にした理由は、代替休暇を取得した期間は確かに労働義務がなかった期間として扱うのだが、『休日』は1日単位だからだ。
丸々1日代替休暇を取った場合や、半日代替休暇を取って後の半日欠勤した場合は文句なく『休日』だが、代替休暇を半日取得して半日出勤する場合もあるし、年休や独自の有給休暇と合わせて1日・半日の代替休暇を確保する場合もある。
出勤時間がある日はもちろん、代替休暇以外の『休暇』(会社が独自に付与した分単位等の休暇も含む。)が存在する日も、1日にわたって『労働義務がなかった』とは言えないので、そうした日は『全労働日』にも含まれるし、『出勤日』にも含まれる。その場合は、年休の『出勤率』に影響することはない。
なお、後で述べるが、『休日出勤』(所定休日も含む。)の場合も、『全労働日』にも『出勤日』にも含まれない。
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※ 条件式を訂正します。('23.01.21,23)
『出勤率8割ギリギリの場合は注意』1行目
a,b,c 共に自然数で b ≥ a , a ≥ x の条件なら
➡ a,b,x共に自然数で b > a , a > x の条件なら