60時間超の時間外労働、要は代替休暇を適用する可能性のある月はそう多くないはずだ。
まず、普通の36協定しか結んでいない場合、時間外労働の上限は月45時間なので、そもそも60時間超というのはあり得ない。
特別の場合に年6回まで45時間超を認める『特別条項』を36協定に付帯している場合で考える。
何回か述べたように、法定時間外労働と法定休日労働の扱いは基本的には別物で、代替休暇取得が可能な『月60時間超の時間外労働』にも法定休日は含まれない。
・100時間未満・80時間以内の基準は法定休日分も含む
しかし、2020年から中小企業にも適用されている残業時間の上限規制では、時間外労働と法定休日労働の合計時間も規制対象となった。脳・心臓疾患の労災認定基準が元となっている健康確保のための規制だからというのが理由だ。
具体的には、この合計時間が単月100時間以上(ここだけ『超』ではない)で一発アウト。2~6か月平均で80時間超でもアウトだ。この2~6ヶ月平均は、同じ理由で、36協定期間をまたぐ場合も通算する。
『20.代替休暇と給与計算』の月影さんの例では時間外と法定休日の合計90時間なので、翌月は合計70時間以内、2~4ヶ月後は、各月限度ギリギリまで働いた場合は月ごとの合計80時間以内にしなければならない。
その場合、法定休日労働が、翌月は10時間・2~4ヶ月後は20時間以上になると、時間外労働の限度は60時間以内となるので、代替休暇の出る幕もなくなる。
逆に、時間外労働だけで限度ギリギリということになると、特別条項がある場合の時間外労働の年間上限720時間も気になってくるところだ。
年6回以内であっても、上のそれぞれの制限にかかると代替休暇を使う余地はない。
今回対象となった『中小企業』とは
さて、今回の時間外労働60時間以上の割増賃金率引き上げもそうだが、中小企業は、政策的な意図もあって大企業より数年遅れで対象となることが多い。ここで出てきた『中小企業』とはそもそも何か。
『中小企業』の定義は業種によって、資本金額(または出資金額)と常時使用従業員数が次のように決まっている。これは『中小企業基本法』による定義だが、労働基準法もこれによっている。もちろん税法等他の法律では別の基準もあるが、ここでは触れない。
・中小企業の定義
業種 資本金額または出資総額 常時使用従業員数
小売業 5000万円以下 または 50人以下
サービス業 5000万円以下 または 100人以下
卸売業 1億円以下 または 100人以下
その他 3億円以下 または 300人以下
総務省統計局によると、規模別事業所数・従業員数は、少し古いが2016年で次のようになっている。
従業員数 事業所数 構成率 従業員数 構成率
出向・派遣のみ 28,762 0.54%
1~4人 3,047,110 57.04% 651.6万人 11.46%
5~9人 1,057,293 19.80% 694.1万人 12.20%
10~19人 649,836 12.17% 876.8万人 15.41%
20~29人 232,601 4.36% 553.1万人 9.73%
30~49人 163,074 3.05% 613.4万人 10.79%
50~99人 100,428 1.88% 686.5万人 12.07%
100~199人 39,002 0.73% 529.2万人 9.30%
200~299人 10,454 0.20% 252.4万人 4.44%
300人以上 12,223 0.23% 830.2万人 14.60%
計 5,340,783 5687.3万人
ただし、この統計では、個人経営の農林水産業は除かれていて、小売・卸売・サービス業の単独の数字もなく、人数の区切りも微妙にずれていて、資本金額も分からず、そもそも『事業所』の統計であって『企業数』は分からないが、おおよその傾向は見ることができる。
別の統計では、日本国内の99.7%が中小企業。そこで働く従業員は全労働者の68.8%とされている。大体それ位だろうな…というのは上の表からも想像できる。
時間外労働60時間超の割増賃金率引上げと代替休暇についても、ほとんどすべての企業と3分の2以上の従業員が、この新しい制度に直面したことになる。
先行実施されていた0.3%の大企業なら社内に労務管理専門のブレーンもいるはずなのでそれほどの混乱も聞かなかったが、日本経済の屋台骨を支える中小企業もしっかり対処したいものだ。
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