給与等からの控除 Ⅰ 給与にかかる社会保険料
さて、当Blogは『給与計算Blog』として始め、ー 4.『差引支給額』が決まるまで ー では、給与計算の大きな流れとして、まず先に
『総支給金額』= 基本給 + 各種手当 + 割増賃金 ー (欠勤控除等)
で総支給金額を確定し、そのあと税・社会保険料・協定控除等の控除額を引いて
『差引支給額』 = 『総支給金額』 ー 『控除額合計』
で差引支給額を決定することになっていることはお話しした。
前回までで『総支給金額』を求めるところまでの話はひとまず終わり、ここからは『控除額』の話になる。もちろんこの『控除額』には、総支給金額を決定する前段階に登場する『欠勤控除』は入らない。
もちろん前段の『総支給金額』がイコール『差引支給額』となることもないわけではないが、実際には給与全額払いの例外としての控除が複数ある場合がほとんどだ。
控除項目とその対象
ここでは一般的な場合について、控除の対象と目安をまとめた。
・ 給与から控除する項目
控除項目 対象 給与25万円の場合の目安
① 健康保険料 ~74才 13,273円
② 介護保険料 40~64才 2,080円
③ 厚生年金保険料 ~69才 23,790円
④ 雇用保険料 被保険者 1,500円
⑤ 源泉所得税 全員 5,130円
⑥ 住民税 特別徴収対象者 13,700円
⑦ 協定控除 対象者
ここで、給与25万円の場合の目安を付けておいたが、税金については独身で特別な控除がない場合だ。さらに住民税については前年の所得で決まるので、これは前年も同様の収入で(税金の)控除も最低だった場合なので、本当に『目安』として見てほしい。
ザックリ言うと、月収25万円で6万円近くは税・社会保険料で控除されることになる。今回はこのうち(広義の)社会保険料控除について取り上げる。
① 健康保険料
(狭義の)社会保険では法人の場合、たとえオーナー社長でも『法人に使用される者』として被保険者になる。
会社が保険料を控除するのは74才までで、75才以上になると全員が『後期高齢者医療保険』の方に移行し、自治体が徴収する。
2024年度の健康保険料率は協会けんぽで全国平均10%。新潟県の9.35%が最低で、最高は佐賀県の10.42%となっている。各都道府県別の保険料は『協会けんぽ保険料率』で検索すればすぐに出てくる。北海道なら10.21%。これを労使折半するので、各々5.105%ずつとなる。
・ 標準報酬 × 保険料率 = 保険料
ここで、『何の』5.105%かというと、『標準報酬』の5.105%だ。この計算方法は介護保険・厚生年金保険も同じ。
標準報酬とは、月額給与を標準化したもので、標準報酬に保険料率をかけると保険料が算出できる。この『標準報酬』は、現在5万8000円から139万円まで50段階に分かれていて、刻み幅は次のようになっている。
5万8000円 ~ 9万8000円 1万円刻み
9万8000円 ~ 11万円 6,000円刻み
11万円 ~ 15万円 8,000円刻み
15万円 ~ 20万円 1万円刻み
20万円 ~ 38万円 2万円刻み
38万円 ~ 71万円 3万円刻み
71万円 ~ 83万円 4万円刻み
83万円 ~ 103万円 5万円刻み
103万円 ~ 139万円 6万円刻み
この『標準報酬』は、基本的には4・5・6月に支払われた給与で決まるが、基本給が増減したときなど例外もある。よく間違われるが、あくまで支給日が『4~6月』にある給与で決まるのであって、『4~6月分』の給与で決まるのではない。
② 介護保険料
介護保険料は40才以上全員が対象だが、65才以上の方(『第1号被保険者』という)は各自治体から徴収されるので、会社が控除するのは40才~64才までの方(第2号被保険者)の分ということになる。
介護保険料率は全国一律で、2024年度は1.6%。労使0.8%ずつになる。
介護保険料は健康保険料と一緒に徴収するので、協会けんぽの『保険料額表』も、40才~64才の方の分については健康保険料と合算した金額で記されている。
保険料も、介護保険料も含めて『健康保険料』として徴収する場合が多く、これはこれで問題はない。
また、この『保険料額表』の下の方に細かい字で書かれているように、給与から控除する金額は、計算した金額に0.5円以下の端数があるときは切捨て・0.5円超の場合は切上げる(特約がないとき)。この端数処理は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料も同じ方法になる。
普通の四捨五入とはちょっと違うので、Excel等で計算する場合や給与ソフトの設定のときには注意が必要だ。
この『介護保険料』は、上の純粋な『健康保険料』と合わせて徴収する場合を想定して、40才~64才の方の分については『健康保険料+介護保険料』の金額が『保険料額表』に書かれているので、これも手計算や給与ソフト設定時に注意すべき点だ。
③ 厚生年金保険料
厚生年金保険料の控除対象は原則69才までで、保険料計算の基礎となる『標準報酬』については、健康保険の標準報酬が8万8000円以下はすべて8万8000円、65万円以上はすべて65万円になる。
従って、健康保険の標準報酬が8万8000円から65万円までの多くの方にとっては健康保険も厚生年金保険も『標準報酬』は同じになる。
この厚生年金の標準報酬に18.3%をかけたものが保険料額になり、これも労使折半なので各々9.15%ずつになる。標準報酬は1,000円未満の端数はないので、現在は厚生年金保険料の計算結果に円未満の端数が出ることはない。
介護保険料を含めても健康保険の標準報酬が98万円以下なら、すべての場合で厚生年金保険料が健康保険料を上回るので、給与所得者のほとんどの方にとって『厚生年金保険料』が事実上、給与からの最大の『控除項目』になるはずだ。
④ 雇用保険料
雇用保険は広義の社会保険の1つだが、労働保険なので加入する義務も権利も『労働者』だけになる。雇用保険料については労使折半部分と事業主負担分のみの部分に分かれるが、ここでは、労働者負担分だけに話を限定する。
雇用保険料は以前は割と低額だったが、ー 40.社会保険・労務の23年4月の変更点 ー で書いたように、コロナ関連の給付金・助成金の急増で保険料率が引上げられ、23年度からの保険料率は、労働者負担分が一般事業(牧場も含む)で0.6%、農林水産・建設業で0.7%となっている。
(狭義の)社会保険と違って『標準報酬』というものはないので、実際に支払った『総支給金額』に保険料率をかけて保険料を算出する。『0.5円以下は切捨て』というのも『社会保険料』と同じだ。
・ 雇用保険料が厚生年金保険料以上になる人って?
標準報酬がないということは完全に青天井ルールで給与に比例して保険料が徴収されるので、月収(年収ではありません)1000万円になれば、雇用保険料(60,000円)が厚生年金保険料(59,475円・標準報酬65万円で頭打ち)を凌駕することになるが、労働者でそれだけもらっている方は滅多にいないだろう。
※ メインタイトル変更
給与からの社会保険料控除 ➡ 給与からの控除 ー 社会保険料 '24.04.21
※ さらに変更
➡ 給与等からの控除① 給与にかかる社会保険料 '24.05.07