給与等からの控除Ⅱ 給与にかかる税金
税の専門家は何といっても税理士なので、詳細については税理士の先生に聞いて頂くのが一番いいが、毎月の給与計算は社労士に委託している場合も多いと思う。社内でやっている場合でも、担当者は最低でも月々の源泉所得税の計算だけは避けて通れない。
⑤ 源泉所得税
所得税について普通(『給与所得者の扶養控除等申告書』の提出のあった人)は、次のような流れになる。まずは、
① 社会保険料等控除後の金額 = 総支給金額 ー 非課税金額 ー 社会保険料
で、『社会保険料等控除後の金額』を出す。
ここで『非課税金額』は『通勤手当』のうち非課税枠に収まる金額等で、『社会保険料』は広義の社会保険料なので雇用保険料も含まれる。
次に、
② 社会保険料等控除後の金額 扶養親族等の数
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『給与所得の源泉徴収税額表』
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源泉所得税額
つまり『社会保険料等控除後の金額』と『扶養親族等の数』から税額を算出する。
元々個人の所得税は年単位で確定するが、そのためには様々な情報が必要だ。毎月そんな細かい作業はやっていられないので、月々の給与からの源泉所得税については、これら2つのファクターだけを国税庁の『給与所得の源泉所得税税額表』に照らして税額を決めることになっている。
この税額表を見ると分かるように、その月の『社会保険料等控除後の金額』が74万円(月収でおおよそ85万円程度)を超えるとちょっと計算が必要だが、それ以下なら表の縦横さえ見間違わなければ一発で税額が出る。
給与ソフト使用の場合はほぼ心配ないが、設定間違いと言うこともあるので、特にソフトを使い始めたころには間違いがないかしっかり確認する必要はある。
・ 『扶養親族等の数』は『扶養親族の数』ではない
けっこう間違いが多いのが『扶養親族等の数』で、これは実際の『扶養親族の数』とは全く違う。詳しく説明してある書籍がたくさんあるのでここでは詳細には立ち入らないが、よく見る例として、この数に中学生以下のお子さんの数を含めている場合がある。これは間違いの場合が多い。
中学生以下のお子さんは『児童手当』の対象ということで『扶養親族等の数』には入れない。
正確に言うと、その(給与を支払った)年の12月31日現在で16才未満である扶養親族(年少扶養親族)は『扶養親族等の数』には入れないことになっているので、『15才の誕生日後の最初の3月31日まで』という児童手当の支給期間とは若干のずれがある。
給与ソフト使用の場合、毎月定額の給与の方が1月支給の給与からポコンと所得税が下がる場合はこれが理由のことが多い。
つまり扶養している15才の子がいる場合、年を越すとその時点で『年末の年齢が16才』となるので、1月支給分から『扶養親族等の数』が加算され、所得税が下がったのだ。
もし、毎月の給与計算で『扶養親族等の数』を過剰に設定していたら、年末調整でかなりの不足額を徴収することになる場合が多い。
最近、銀行金利も上向いてきていることもあり、そこまで考えれば理論上は全く逆の結論になるが、人間は感情の動物なので、たとえ各月の計算の誤りの結果であっても、後で税金が戻ってくる分には文句はないが、追加徴収は不満の元になるということは多いので、十分注意したい。
・ 『電算機特例』は過去の遺物?
さて前述の『社会保険料等控除後の金額』と『扶養親族等の数』から税額を求めるための『給与所得の源泉徴収税額表』だが、例外的に『電算機計算の特例』を使用して計算することも認められている。
昔々、どこの会社も手計算で『給与所得の源泉徴収税額表』から税額を算出していたころ、コンピュータは非常に高価でメモリーの単価も高かった。こうした時代に『給与所得の源泉徴収税額表』をすべて取り込むのは不可能もしくは非常に効率が悪かったのだろう。
比較的簡単ないくつかの計算式を入れておけば一発で税額が算出できるというのは当時としては画期的だったに違いない。
スマートフォンでも5ギガ10ギガ当たり前の時代からすると隔世の感はあるが、今でも、逆に給与ソフトの設定で『税額表』と『電算機計算』のどちらかを選択できるものが多い。今となってはこの『特例』も、過去の遺物と言っていいかもしれない。
ちなみに、『税額表』と『電算機計算』では、当然だがわずかながら税額が異なる。
数十円から百数十円程度だが、『税額表』はある程度細かいところまで加味していることと、『社会保険料等控除後の金額』74万円以下の場合、1,000円~3,000円の刻み値の中央値で計算しているせいだ。
例えば特別な控除のない独身者の源泉所得税の徴収は、『税額表』では社会保険料等控除後の金額88,000円(130円)からだが、『電算機計算』では85,932円(10円)からになる。
いずれにしても、年末調整や確定申告で修正されるので、年間トータルの損得はない。
⑥ 住民税
住民税とは、ご存じの通り都道府県税と市町村民税の総称だ。税率は一律10%(都道府県4%+市町村6%)と、最高税率45%の所得税と比べると低そうだが、所得税が住民税を超えるのは、単身で基礎控除しかない人でもおおむね給与年収750万円以上の場合だ。
そのため、個人が直接納める税金としては、住民税が一番高額という方が多い。
住民税は、会社が翌年1月に市町村に提出する『給与支払報告書』、もしくは給与所得者が確定申告した場合はそれが市町村に回ってくるので、これをもとに自治体が計算し、月ごとの支払額が毎年5月頃に通知される。
これによって会社が個人の給与から控除して支払うことになる。従って、退職時など特別な場合を除いて会社側で算定する部分はない。
これを『特別徴収』と言って、現在は特別の事情がなければこれが原則になっている。つまり従業員が個々に市町村に納める『普通徴収』は、特別な場合ということになる。
※ メインタイトル変更
給与からの控除 ー 税金 ー ➡ 源泉税は『扶養親族等の数』で変わる
➡ 所得税を左右する『扶養親族等の数』 '24.05.29