賃金の端数処理は『認められている』というだけで、必ずやらなければならないものではない。必ずやらなければならないのは給与計算だ(当たり前)。まあ、『差引支給額』の円未満の端数処理は、やらないと給与が支払えないので物理的にやらざるを得ないが。
端数処理③⇛⑤⇛④が給与計算の順序になることは前々回書いた。整理すると次のようになる。
・1時間当たりの賃金単価や時間外・休日・深夜賃金単価を求める。(③)
⇛・1ヶ月の時間外労働・休日労働・深夜労働について、それぞれ合計時間を求める。(⑤)
⇛・1ヶ月の時間外労働・休日労働・深夜労働について、それぞれ賃金総額を求める。(④)
時給・日給・月給等の基本給に毎月定額の手当・精皆勤手当・他手当等を加え、ここで出した割増賃金の総額を合計して足し、(さらに、欠勤等で減額する分があればそこから引いて)『総支給金額』を算出。そこからもろもろの控除額を引いて『差引支給額』を求める。
というのが、一般的な給与計算の順序になる。
『差引支給額』=『総支給金額』ー『控除額合計』
『総支給金額』= 基本給+各種手当+割増賃金ー(欠勤等控除)
※ 前にも書いたが、1行目と2行目の『控除』は、意味が違う。
法定時間外労働や法定休日労働・深夜労働に対する割増賃金の元になるのがそれぞれの賃金単価。特にその大元が『基礎賃金』ということになる。
そこで、差し当たっての目標はこの『基礎賃金』を求めることになる。
基礎賃金が分かれば、それぞれ乗率をかけて法定時間外労働等の賃金単価はすぐ決まる。この乗率は法律で最低乗率が決まっているのは皆さんご存じと思うが、一応載せておく。
・法定時間外労働 1.25倍
・法定時間外労働(月60時間超分) 1.5倍
・法定休日労働 1.35倍
・深夜労働割増 0.25倍
『基礎賃金』は、『基本給に各種手当(一部を除く)を加えた1時間当たりの賃金額』ということになっている。後で述べるが、時給とは似て非なるものなので、注意したい。カッコ内の除かれる一部の給与については後述する。
時間外労働・休日労働は原則禁止
ところで、割増賃金というものの意義は何なのか。
『法定時間外労働・法定休日労働』については、原則として禁止されている。違法行為なので罰せられる。それを回避するには36協定が必要だ。
こうした、法律の原則を超えた長時間労働に対する代償として、割増賃金が法定されていると考えてもらえばよい。
『深夜労働』(22時~5時の労働)は禁止されていない。従って36協定は不要。大体、時間外労働や休日労働は人員の増員や最近やたらと推奨される生産性向上など解消の手段は考えられるが、深夜労働が禁止されていたら社会生活が成立しない。
以前は女性の深夜労働は原則禁止だったが、1999年から解禁された。現在深夜労働の規制があるのは、妊産婦が請求したときと、年少者の場合である(例外はあるが一般的でないので省く。)
では、禁止されていない深夜労働に対する割増賃金の趣旨は何かというと、人間本来の一般的な生活時間帯からの逸脱により、労働強度が増すことに対する補償と考えられる。
いかに夜型人間でも、緊急事態でもなければ、深夜に他人の家を訪問しないだろう。一般的な活動時間帯でないとみんな思っているからだ。
深夜労働は、時間外労働・休日労働と重なる場合があるので、重なった場合には、普通の『深夜割増賃金』を、時間外労働・休日労働の割増賃金に加えて支払うことになる。
たまに勘違いする人がいるが、法定休日には『法定労働時間』がないので、時間外労働もあり得ない。従って時間外労働と休日労働が重なるということはない。
また、法定労働時間が月60時間以上の場合、2023年4月から中小企業も1.5倍となっている(代替休暇によって、1.25倍に抑える手はある。➡18. 60時間超の割増賃金引上げと代替休暇)。
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