5. 基礎賃金と除外賃金

 

 さて、ここからようやく実際の給与計算に入る。
 割増賃金の元になる所定労働時間内の時間単価『基礎賃金』を出す計算は、月給者なら次のようになる。

『基礎賃金』= Ⓐその月の職務関連給与 × 12 ÷ Ⓑ年間所定労働時間

Ⓐ 職務関連給与

 まず、月給者の月影さんの職務関連給与を考える。
    月影さんの定額の給与は次のとおりである。
・基本給  180,000円(定額)     ・住宅手当 15,000円
・役職手当  30,000円(定額)     ・家族手当  8,000円
・資格手当  17,500円(定額)     ・通勤手当  4,200円
・皆勤手当  5,000円(欠勤がない月)     合計 259,700円

 名前を月影さんにしたのは、この方には今後度々ご登場願う予定なので、月給の方だということを瞬時に思い出していただくため、月で始まる苗字を考えていたら浮かんだだけで、ガラスの仮面のファンというわけではない。
 

・基礎賃金からの除外賃金

 割増賃金の基礎になる『基礎賃金』は、『職務関連給与』で計算するのだが、法律上は、これから除外していい下記の『除外賃金』をリストアップし、これに含まれない賃金は基本的にすべて含めるホワイトリスト方式となっている。

除外賃金
・家族手当   ・通勤手当   ・別居手当   ・子女教育手当
・住居手当 ・臨時の賃金 ・一か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 頭文字をとって『カツベシジュリー』と覚えることになっている。意味は知らない(というか、ない!)。仕事に関係ない手当で残業代が変わるのは不合理という趣旨である。

 ただ、手当の名前ではなく、実態で判断する。『住居手当』といいながら家族の人数によって決めていたり(この場合には実態として家族手当であるとして除外する余地はある。紛らわしいが。)、『家族手当』といいながら独身者と妻帯者にしか区別していなかったりの場合は除外できない。

 逆に『単身赴任手当』でも、実質的に別居手当の趣旨なら除外して良い。
 

皆勤手当は含める

 除外賃金リストにない『皆勤手当』は当然含める。
 ただ『皆勤手当』は、まじめな方ならほぼ毎月支給されるだろうが、そうでない方はそれなりにバラバラだろう。その場合は?

 これは、支給されない月は除いていいのは当然だ。つまり、基礎賃金は月ごとに異なることになる。これでは計算上わずらわしいということであれば、いつも皆勤手当を含めて計算するしかない。

 これは、労働者に有利な取り扱いなので、普通文句は出ない。実際、大体の会社はこの方法で計算しているようだ。
 

一か月を超える期間ごとに支払われる賃金って何?


 典型は普通の賞与だ。あと、年俸は?そう思った方は素直な方だ。私も周りに年俸などもらう人がいないので、社労士の勉強前は、年俸は年1回払いだと思っていた。しかし、賃金には『月1回以上払い』という原則がある。

 つまり、年俸だろうと時給だろうと給与は月1回以上支払うことになっている。確かにプロ野球の一流選手など、年俸を1度にドンと払うのは、払う方も大変だろう。
 普通は、年俸の12分の1を毎月支給しているようだ。

 では、年俸の18分の1を毎月支給し、3か月分を盆暮2回、賞与として支給する場合はどうか。
 

・確定している賞与は除外賃金ではない


 こうした、初めから支給額が確定している賞与は何と『一か月を超える期間ごとに支払われる賃金』として扱われない。即ち、除外賃金ではないことになっている。

 つまりこの場合は、月ごとの支給額・賞与額が全く同じ普通の月給者に比べて法定時間外等の割増賃金が格段に(この場合だと、単純計算で1.5倍!)高くなる。

 このように何でもかんでも『一か月を超える期間ごと』に支払えば除外賃金になるわけではない。大体『月1回以上払い』の原則があるので、それが出来ないものも多い。

 実は、除外賃金になりうる『一か月を超える期間ごとに支払われる賃金』は、『1か月を超える期間にわたる事由によって算定される精勤手当・勤続手当・奨励手当・能率手当』と限定されている。

 これ以外の手当を『一か月を超える期間ごと』に支給しても、除外賃金にはならない。

 

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2022年11月01日