月影さんの例からは離れるが、契約を1本取ったら5000円の『営業手当』が支給される場合、これは除外賃金(割増賃金の基礎にならない賃金)中の『臨時の賃金』になるか。
『臨時の賃金』は、『臨時的・突発的事由に基づいて支払われるもの』または『支給条件はあらかじめ確定しているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ、非常にまれに発生するもの』とされている。
上記の『営業手当』が臨時の賃金に該当すると言い張るのは無理がある。その社員が契約を取ってくるのが非常にまれだったとしてもである(それは、どこかの事務所の話か…)。
実は、この『営業手当』の支給の仕方は、売上に応じて支払われるタクシー運転手等の給与支給方法と同じ『歩合給』の一種となる。
これは割増賃金の基礎から除外されない職務関連給与には違いないが、そのままほかの手当等と同様に計算する必要はないことになっているため、この扱いについては後で述べる。
また、営業手当という用語は法律用語でないため、実態として様々な意味に使われている。この項の『営業手当』と実態が異なる場合は、それによって扱いも当然異なってくるので、ご注意願いたい。
他にも出来高払制の手当が給与に含まれる場合には『歩合給』として扱う。
基礎賃金と割増賃金単価
というわけで、月影さんの職務関連給与は次のようになる。
基本給 役職手当 資格手当 皆勤手当
180,000円 + 30,000円 + 17,500円 + 5,000円 = 232,500円
Ⓑ年間所定労働時間
1日8時間で、土日・祝日等が休みで、その年度の年間所定労働日数が245日とすると、
8時間/日 × 245日 = 1960時間
が、年間所定労働時間となる。
ちなみに、労働基準法にのっとった場合の標準的な最大値(祝日休みなし)を計算してみると、次のとおり。
平年) 365日 ÷ 7日 × 40時間 = 2085.714…時間
閏年) 366日 ÷ 7日 × 40時間 = 2091.428…時間
これは、年間法定労働時間の最大値となり、法定労働時間を超える『所定労働時間』は法律上設定できないので、事実上、年間所定労働時間の最大値と言える。
月影さんについて、実際の年間所定労働時間1960時間で計算すると、
232,500円/月 × 12月 ÷ 1960h = 1,423.469…円/h
これが基礎賃金となる。要は、職務関連給与を月平均所定労働時間で割ったものだ。
ここで、前の端数処理通達③『1時間当たりの賃金単価や時間外・休日・深夜賃金単価の1円未満の端数を四捨五入する』(のは可)により、円未満を四捨五入して、
基礎賃金 1,423円/h
と確定する。この段階で、1,424円と、円単位に切上げている会社もあり、これは労働者に有利なので全く問題ないが、法律はそこまで要求していない。
・割増賃金単価の計算
次は、割増賃金単価の計算だ。通達にはこの四捨五入した基礎賃金1423円を元にして割増賃金単価を求めてよいとは書いてない。
1,423.469…円を元にしなければならないかとも思うが、ここは『簡便処理』として1,423円を元にしてよい(と、都道府県労働局が言っているので信用してよい。)。
従って、基礎賃金及び割増賃金単価は、次のようになる。
・基礎賃金 1,423円
・時間外労働単価 1,423円 × 1.25 = 1,778.75円 ⇛ 1,779円
・ ” (60時間超) 1,423円 × 1.5 = 2,134.50円 ⇛ 2,135円
・休日労働単価 1,423円 × 1.35 = 1,921.05円 ⇛ 1,921円
・深夜労働割増単価 1,423円 × 0.25 = 355.75円 ⇛ 356円
しつこいが、最終的な割増賃金単価を四捨五入せず、例えば『時間外労働単価』の場合、1,778.75円/h等をそのまま割増賃金単価とするのは全く問題ない。
また、皆勤手当がつかない月なら、職務関連給与が227,500円なので、
227,500円/月 × 12月 ÷ 1960h = 1,392.857…円/h
で、1,393円/hを基礎賃金として計算することもできる。
ただし、ほとんどすべてに通じることだが、今まで常に皆勤手当込みで計算していた場合は、後で述べる『不利益変更』になるので、突然一方的に変更することはできない。
次 ― 7.総支給金額を確定する ―
※ 数値の訂正
・割増賃金単価の計算
7行目 時間外労働単価
1778.25円 ⇛ 1778.75円 ('22.11.25)
※字句の訂正
Ⓑ年間所定労働時間 ('23.02.03)
1行目 土日・祝日休みならば、2023年度だと、年間所定…245日となるので、
➡ 土日・祝日等が休みで、2023年度の年間所定…245日とすると、