3.本当は難しい100円未満四捨五入

 

 賃金の端数処理について、①の100円未満四捨五入など、「エッ、そんなことやっていいの?」という人も多いだろう。私もあまり見たことはない。

 ②の1000円未満の端数翌月払いも、実際にやっている話はあまり聞かない。基本に忠実に現金払いにこだわっているところは、硬貨の取り扱いがない分、最近有料化が著しい銀行の払戻し手数料の関係とか、金種計算の簡素化等で意味がありそうではある。

 これらとは違うが、1000円未満の端数切上げという太っ腹な会社はある。

 ①・②は、パッと見ずいぶんアバウトに見えるが、実際に運用することを考えたら、なかなか一筋縄ではいかない。

 今回の話題は、給与計算担当者の『業界用語』が絡んでくるので、それ以外の人にはちょっと難しいかもしれないが、毎月もらう給与明細のことを思い出してもらえば、少しは理解の助けになると思う。

 給与関係で控除と言ったら、大きく2つの意味がある。1つ目は『欠勤控除』など、総支給金額を確定するために、その前に行う控除だ。

 2つ目が総支給金額が確定した後、そこから分けて引いていくという意味の控除で、雇用保険料など総支給金額に比例するものもあるし、所得税など段階的なものもあるし、住民税などほぼ定額のものもある。いずれにしても事理明白なものだ。

 ①・②でいう『控除』は、2つ目の意味だということは文脈からもはっきりしている。
 月8万円程度以下のアルバイトの方の場合などでは、総支給金額がそのまま差引支給額になることもある。これなら『総支給金額』を、そのまま四捨五入したり切捨てて翌月に加算したりすればいいので簡単だ。
 

その月だけでは終わらない

 
 大多数と思われる『賃金の一部を控除する場合』を考える。
 要するに『差引支給額』を100円・1000円単位の切りのいい金額にするということだ。

 実際に給与ソフトでやるとしたら、『支給項目』に『四捨五入調整』とか『翌月に繰越』『前月から繰越』等の項目を作って、『差引支給額』が切りのいい金額になるよう『総支給額』を調整することになろう。

 ①であれば、『差引支給額』がたとえば50円半端が出たら支給項目『四捨五入調整』に『+50円』を入れ『総支給金額』を50円増やすことになる。

 このとき、反射的効果として雇用保険料が上がることがある。

 控除額である雇用保険料が1円上がったら、そのせいでまた(マイナス)1円半端が出る。
 このままさらに半端の1円を足すと、都合51円増やすことになる。これは、労働者に有利なので違法ではないが、端数処理原則①からは外れる。四捨五入なのだから、その場合は調整額を『-49円』にしなければならない。しかし、そうすると雇用保険料は絶対に下がる。また半端が出る…

 これでは無間地獄だ。

 確かにこの例は、たまたまそうなる例として出したのだが、『滅多にない』と言えるほど少ない頻度ではない。何十人かの給与計算を何か月かやればほぼ必ず出てくる。

 さらに所得税は、雇用保険料と違って『社会保険料等控除後の額』月額表のランクが1000~3000円おきになっているので(22万円以上だとほぼ3000円おき)、たまたまその境目を超えると普通100円以上の変化が出てくる。こうなると、もはや『端数』処理ではない。

 実は、端数処理の原則①・②の表現が『(…控除後の額)の…未満の端数を…』となっている以上、最初の端数調整より後の調整処理は認めていないとも読める。…㊟

 そうなると、とりあえず所得税の誤差は年末調整があるので動かさず、雇用保険料等のズレ(この場合なら1円未徴収)も、翌月で調整するしかない。給与計算者としては単月でスッキリ終わらせたいところだが、そうはいかないようだ。②に至っては言わずもがなだ。

 なお、①・②の実施については、就業規則等の根拠が必要とされている。
 ほとんど行なっているところのない①と②についての話はここで終わる。

㊟ 原文は『(…控除した額)の…未満の端数を…』となっている。これだと控除額を端数処理するようにも読め、その場合『差引支給額』が半端な金額のままという無意味な処理を認めたことになるため、誤読を避けるため当blog収録の際、記載の表現とした。

 

次 ― 4.『差引支給額』が決まるまで ―

 

※ 訂正です。よろしくお願いします。
『その月だけでは終わらない』
4行目 『翌月から繰越』等の⇛『前月から繰越』等の ('22.11.18)

2022年10月25日