2.把握の単位は1分とは限らない

 

 ここまで労働時間にこだわるのは、それが基本的に賃金に直結するからだ(他にも理由はあるが1番はこれ)。たとえば1分という労働時間は、2024年10月からの北海道の最低賃金1010円から換算すると16円83銭になる。東京なら1163円で1分19円83銭だ。

 労働時間が賃金に直結するからこそ、労働基準法上、使用者には労働者の労働時間を把握する義務がある。基本的に、賃金はその全額を支払わなければならないから、『全労働時間を把握する』ことが必要になる。

 その時間の単位は、一部誤解があるようだが、1分と定められているわけではない。その把握する時間間隔の上限が1分という主旨と考えられる。

 秒ならもっと正確だが、陸上競技のように時間としてならともかく、時刻の単位として秒を使うことは、鉄道運輸関係や報道関係など時刻に非常にシビアな業界以外では一般的でない。ちょっと考えたら分かる通り、そんなことを押し付けられたら現場の負担は大変なものになる。

 1分より長い2分とか5分とかの時間間隔で管理するのは大雑把すぎてダメだが1分以内ならいいよということで、秒単位で把握が可能ならもちろん合法だ。

 0.01時間単位で処理している事業所も見かける。1時間は3600秒なので、36秒おきに0.01時間ずつ進む特殊なタイムカードや時計で処理しているなら法の要請よりさらに正確ということになり、問題は何もない

 ただ、日々の勤務時間を元々分単位で処理しているものを、計算の便宜上10進法に換算して、『1分⇛0.02時間・2分⇛0.03時間・3分⇛0.05時間・4分⇛0.07時間・5分⇛0.08時間・6分⇛0.1時間…』と0.01時間単位にしているだけなら少々問題がある。1分単位より正確とは言えないからだ。

 どうしても0.01時間単位にしたいなら全て切上げて『1分⇛0.02時間・2分⇛0.04時間・3分⇛0.05時間・4分⇛0.07時間・5分⇛0.09時間・6分⇛0.1時間…』とした方が問題がないだろう。もちろん、日々の労働時間を分単位のままにしておいて構わないのなら、『分』を1ヶ月分まとめてから処理した方がいい。

 ここでは、一般的な分単位の処理で考えることにする。
 

端数処理は1ヶ月か1時間

 
 端数処理については『切捨てはダメ』ということはよく知られているが、認められているのは次の5つである(出典は1988年基発(旧労働省労働基準局長通達)150号。そのままだと多少分かりにくいので、表現は変えてある。)。

 逆に言えば、それ以外の端数処理は、いかなる場合にも労働者の不利にならない方法を除いて全て違法ということに、原則としてはなる。
 

認められている賃金の端数処理

① 1ヶ月の賃金支払い額(賃金の一部を控除する場合には控除後の額)の、100円未満の端
 数を四捨五入して支払う。

② 1ヶ月の賃金支払い額(賃金の一部を控除する場合には控除後の額)の、1000円未満の
 端数を翌月の賃金支払日に繰越して支払う。

③ 1時間当たりの賃金単価や時間外・休日・深夜賃金単価の、1円未満の端数を四捨五入す
 る。

④ 1ヶ月の時間外労働・休日労働・深夜労働について、それぞれの総額の1円未満の端数を
 四捨五入する。

⑤ 1ヶ月の時間外労働・休日労働・深夜労働について、それぞれ合計時間の1時間未満の端
 数を、30分未満は切捨て、30分以上は1時間に切上げる。

 見ての通り、時間に関しては『1ヶ月の…』とか『1時間(当たり)の…』とかはあるが『1日の…』というのはない。ここは大事なポイントだ。
 実際の計算の順序は、③⇛⑤⇛④⇛①⇛②となると思う。

 

次 ― 3.本当は難しい100円未満四捨五入 ―

※ 10/21公開後、誤りを見つけましたので訂正しました。お詫びします。
上段13行目 監理⇛管理
  18行目 10進法の⇛10進法に
  20行目 1分単位とは⇛1分単位より正確とは

※ 最低賃金改定により一部変更 '24.09.17

2022年10月21日