40.社会保険・労務の23年4月の変更点

 

 さて、私も社会保険労務士の端くれなので、新年度ということで、2023年(令和5年)4月からの、社会保険・労務に関する変更点をまとめた。
 

時間外労働月60時間超は、中小企業も割増率1.5倍に

 これまで何回も書いてきたので、『給与の一策』を読んでいただいている方は先刻ご承知と思うが、これまで大企業だけに適用されてきた月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が、中小企業においても1.25倍から1.5倍になった。

 例として、当ブログのレギュラーである月影さん(基礎賃金1,423円/h)が、月80時間の時間外労働をした場合、法律上支払わなければならない時間外割増賃金は、

2023年3月までは、

1,423円/h × 1.25 × 80h ≒ 142,320円

だったが、2023年4月以降は

1,423円/h × 1.25 × 60h + 1,423円/h ×(80hー60h)≒ 149,440円

となっている。
 

雇用保険料が22年4月以降3度目の増額

 雇用保険料率については、22年4月以降、一般事業で0.9%⇛0.95%⇛1.35%と引上げられてきたが、23年4月分からさらに1.55%に引上げられた。被保険者負担分も0.6%になった。

 建設業では、1.85%・労働者負担分0.7%に増額された。
 雇用保険料の変更は、あくまで『4月分から』なので、例えば〆日が20日であれば、3月21日~4月20日分の給与分からということになる。

        22年3月まで 22年4月~  22年10月~  23年4月~
雇用保険料率
一般の事業    0.9%    0.95%    1.35%   1.55%
農林水産業    1.1%    1.15%    1.55%   1.75%
建設の事業    1.2%    1.25%    1.65%   1.85%

失業等給付分(従業員・事業主折半)
一般の事業    0.3%    0.3%     0.5%    0.6%
農林水産業    0.4%    0.4%     0.6%    0.7%
建設の事業    0.4%    0.4%     0.6%    0.7%

助成金(雇用安定事業・能力開発事業)分(事業主のみ)
一般の事業    0.3%    0.35%    0.35%    0.35%
農林水産業    0.3%    0.35%    0.35%    0.35%
建設の事業    0.4%    0.45%    0.45%    0.45%

 雇用保険料率急増の背景には、コロナ関連の助成金の急増があることは言うまでもない。雇用保険料は制度上、

・労働者に還流される失業等給付などは労使折半
・事業主に還流される助成金などは事業主のみ負担

とはっきり分かれている(ごく一部の例外はある。)。

 コロナ関連の助成金でいうと、『雇用調整助成金』の支給額だけでも2020年のコロナ拡大以降6兆円を超えた。確かに急増はしたが、こうした助成金については、前述の理由で、普通は『失業等給付』の方には影響しない。

 ただ、今回は助成金が急増しすぎて備蓄してきた積立金も底を尽いてきたので、『失業等給付』の方からも借入れ、さらに一般財源からも支出した。

 何しろコロナ前の助成金全体の支出額が年5000億円弱だったのだから、大変な事態だったのは間違いない。
 逆に、よく0.05%の値上げで済ませたものだと感心する。

 労使折半の『失業等給付』の方はというと、一般的な失業者がもらう『基本手当』受給者は、2020年の6月に一時的に前年同月比47%増を記録しているが、年間を通すと2割増に満たない。

 これを考えると、失業等給付分については、1年前までに比べて倍増というのは上げすぎのような気もする。

 ただ、助成金は事業主に還流とはいっても、事業主が労働者に支給したものの一部が後から事業主に支給されるものが多く、雇用を何とか維持したり、失業を阻止するのにつながったことは確かだ。

ここはどう評価するか、人それぞれというところだろう。

 なお、こうした労働保険料の上昇局面においては、概算保険料の算出の仕組みから、支払う保険料が予想以上に高額になることが多いので、早めに計算して心の準備をしておいた方がいい。
 

出産育児一時金が、42万円から50万円に増額


 これはうれしいニュースだ。
 仕事柄、出産育児一時金の申請代行もするが、これまでなぜか、請求金額(病院に支払った額の残り)は、数百円~数千円の場合が多い。なぜ病院代が限りなく42万円に近いのかは謎だった(これは、あくまで個人的感想です。地域によっても違うかもしれません。)。

 実際、経験上だが、10万円程度以上の『手取り』が残るのは、妊娠障害等で『医療費』がかかった場合に限られるのだ。

 この一時金が50万円になったので、正常出産でも増額分はほぼ手元に残ることになる。出産費用というのは病院代の他にも色々かかるので、8万円程度残るのであればありがたい話だ。ただ、そううまくいくのかどうかは分からない。
 

在職老齢年金の調整額が47万円から48万円に


 これも、働く高齢者にとっては歓迎すべき話だ。
 老齢厚生年金は、以下の式の金額が一定額を超えると一部~全部カットされる。

『 年金満額(月額)+標準報酬(注1)+ 1年以内の賞与額(注2)の12分の1
       注1 厚生年金の標準報酬・70歳以上の方は、同様に計算した額
       注2 1回150万円限度・1000円未満切捨て

 具体的には、この金額が一定額を超えると、超えた分の半額がカットされるのだが、この『一定額』(『支給停止調整額』といいます。)はこれまで47万円だったが、これが23年4月から48万円に増額された。前年の物価上昇などに伴うもの。

 例として、満額の老齢厚生年金月10万円・標準報酬41万円・賞与なしの場合、今までは

( 10万円 + 41万円 ー 47万円 )÷ 2 = 2万円 カット

だったものが、23年4月以降は、

( 10万円 + 41万円 ー 48万円 )÷ 2 = 1万5000円 カット

となり、実際の厚生年金支給額が月額8万円から8万5000円に5000円アップすることになる。
 なお、蛇足だが、基礎年金部分については、このような減額はない。

 

次 ― 41.就業規則に準ずるもの ―

 

※ 『支給停止調整額』は、'24年4月からさらに50万円に引上げられました。従って、最後の例の場合は5000円カットになります。  '24.04.30

 

 

2023年03月31日