39.最低賃金減額の実際

 

 まずは前回の続き。

④ 『軽易な業務』に従事する者

 『軽易な業務』に従事する者は、
 『最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の程度が最も軽易なものの当該負担の程度と比較してもなお軽易である』

 ことが条件で、『常態として身体又は精神の緊張の少ない監視の業務に従事する者』などが含まれる。

 具体的には、

 ・倉庫・駐車場・事務所等での物品の監視・電話受付等
 ・事務所内の植物の手入れ・簡単な用具を用いる清掃・片付け
 ・手工具による簡単な加工

等が例示されているが、

 ・通常の労働者の本来業務でない
 ・業務の進行及び能率についてほとんど規制を受けない
 ・他に同種の労働者がほとんどいない
 ・拘束時間は9時間以内

という条件が付く。
 

⑤ 『断続的労働』に従事する者


 『断続的労働』に従事する者とは、『常態として作業が間欠的であるため労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ない者』とされ、仕事と仕事の間の『手待ち時間』が『実作業時間』より長いことが前提となる。

 この『手待ち時間』と『実作業時間』は分単位で、減額率にも直結するため厳格に認定され、1日平均に換算する場合には、前回の『職業訓練期間中の者』同様、『手待ち時間』については秒単位切捨て・『実作業時間』については秒単位切上げとすることも規定されている。

 具体例は『マニュアル』での例示はないが、一般には寮監や集合住宅の管理人等の場合が想定される。
 減額率の上限は、以下の式で算出する。

減額率の上限 =( 0.4 × 手待ち時間 )÷( 実作業時間 + 手待ち時間 )
 

実際のところ、どうなの?


 ここまで述べた最低賃金減額の特例だが、実際の申請・許可数はどうなっているのか。ということで、2020年の申請件数と許可件数・許可率を調べた。

                 申請   許可   許可率
① …著しく労働能力の低い者  2957件  2885件  97.6%
② 試みの試用期間中の者      0件    0件   ?
③ 所定の職業訓練期間中の者    3件    3件  100.0%
④ 軽易な労働に従事する者     4件    4件  100.0%
⑤ 断続的労働に従事する者   9486件  9448件  99.6%

 やはり、要件について前回疑問を呈した②『試みの試用期間中の者』の減額については、申請も許可もゼロだ。

 ③と④は100%となっているが、申請自体がほとんどないのであまり参考にはならなさそうだ。

 それよりも、申請も許可も全体の99.9%以上が①と⑤に集中していることにまず気づく。他の年についてもほぼ似たり寄ったりだ。その①や⑤にしても、許可率は高いが、どちらも許可にならなかった事例は知っているので、ほとんど許可されるなどと思ってはいけない。

 それでも許可率が非常に高いのは、ここからは勝手な想像だが、最低賃金の減額許可申請というのは申請書類も証拠資料も膨大に必要で大変な手間がかかるので、監督署に相談に行った時点で、減額が無理そうなときは申請しなかったり取下げる方が多いのではないかと推察する。

 窓口となる監督署も親切なので、そういった事情は説明してくれるのではないか。
 もちろん、それでも敢えて申請するのは自由だが、そこまでする方もあまりいないのだろう。
 

就労継続支援事業の場合は?


 ここで『最低賃金減額の実際』というタイトルの中の1つとして書いていいものかどうかは若干躊躇するが、『就労継続支援事業』というものが存在する。この事業は、障害や病気のために一般企業等での就労が困難な方々を対象とした福祉サービスで、『働きながら能力を向上する場所』という位置づけである。

 これとは別に、『通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれ、企業等への就労を希望する』方を対象とする『就労移行支援事業』というものもある。
 

・ A型なら、最低賃金以上

 『就労継続支援事業』のうち、A型については、利用者と雇用契約を結び『労働者』の扱いなので、労基法に基づく『賃金』を支払うことになる。賃金ということになると、当然にその金額は最低賃金以上でなければならない。

 もし、その方が上記①または他のどれかに当てはまり、減額の許可を得たいと思ったら、当然これまで書いたような要件の充足と手順が必要になる。

 B型は、一般就労への移行が困難と判断された場合に利用される事業で、雇用契約は結ばない。『労働者』でないので、賃金ではなく『工賃』等を支払うことになる。なので最低賃金の適用はない。

 A型・B型・『就労移行支援事業』を含めると、一般就労への移行者の推移は、2013年に1万人を超え、2019年には2万人を超えている。就労支援という面での働きは非常に大きいといえる。

 

次 ― 40.社会保険・労務の23年4月の変更点 ―

 

※ 訂正です。

④『軽易な業務』に従事する者
2行目  業務の程度が ⇛ 業務の負担の程度が    '23.04.04

2023年03月28日