41.就業規則に準ずるもの

 

 ここまでさんざん『就業規則等』という言葉を使ってきた。数えてみたら8回もあった。何でそんなまどろっこしい言葉を使うのかと、いぶかしく思った方もいると思うので、ここで若干説明しておく。

《何となく就業規則っぽいものが『就業規則等』なのかな?》と思う方もいるだろう。

 また、就業規則もページ数が増えてくると、就業規則の他に人事規定・給与規定・安全衛生規定・福利厚生規定・育児休業介護休業規定・旅費規程・退職金規定…というように分けることもある。それらが『就業規則等』なのか? これらは全部まとめて正真正銘の『就業規則』である。

 さらに、正社員向けの就業規則とは別に、それ以外のパートタイマー等、一部の労働者が対象の、別の規定が存在することもある。これが『就業規則等』なのか? これも、正社員向けのものと合わせて普通に『就業規則』だ。

 はたまた、就業規則の内容と似たようなことが書いてあるということで、従業員に渡す『労働条件通知書』とか労使の契約書である『雇用(労働)契約書』とかを『就業規則等』というのか? これは、就業規則とは全く別物だ。
 

・ 10人未満は『就業規則に準ずるもの』

 話を引っ張りすぎて申し訳ない。単純に、事業所の従業員が

10人以上なら『就業規則』・10人未満なら『就業規則に準ずるもの』とみなされる。

 就業規則の策定・届出は従業員数10人以上の事業所に義務化されていて、従業員が10人以上いるのに『就業規則がない』とか『監督署に届け出ていない』というのはアウトだ。

 10人未満の事業所についてはどうかというと、策定も届出も義務化されていない。
 それでは、従業員10人未満の事業所が『就業規則』を策定し、監督署に届け出たらどうなるかというと、何のことはない。普通に受理してもらえる。ただ、正式には『就業規則に準ずるもの』という扱いになる。

 『準ずるもの』では大した意味はないんじゃないかと思う方もいるかもしれないが、それは大違い。いざ何か問題が起こったときに、10人以上の従業員がいる事業所の『就業規則』と、同じはたらきをしてくれる。このはたらきの中身については、いずれ項を改めて書くつもりだ。
 

就業規則等とは『就業規則』と『準ずるもの』の総称

こうした、『就業規則』と『就業規則に準ずるもの』の総称が『就業規則等』だ。

 実際、『就業規則』と『就業規則に準ずるもの』(以下『準ずるもの』)に、大した違いはない。
 ただ、『等』の説明からはちょっと離れるが、10人以上にしても未満にしても、内容を従業員に『周知』していなければ、『就業規則』も『準ずるもの』もまったく効力を持たないので、そこだけは気を付けた方が良い。

 事業主(法人なら会社)と従業員の権利・義務を根拠づけるものとして、①法令・②労働協約 の次にパワーを発揮するのが『就業規則』や『準ずるもの』だ。このパワーは労働契約に優先する。ただ、個々に結んだ労働契約の方が就業規則よりも有利なとき(従業員にとって)のみ、労働契約が優先されることにはなっている。

 『法令』は誰でもわかると思うが、『労働協約』とは、事業主と労働組合との契約である。『労使協定』は、労働組合がなくても労働者代表と結べるが、『労働協約』は、労働組合の存在が前提である。

 中小企業には、現状、労働組合があるところはほとんどないので、そういった事業所では、就業規則等は『事実上』、法令に次ぐパワーを持つ存在ということになる。労働裁判で『就業規則等』の取り決めが重視される理由もそこにある。

 その場合も、10人未満の事業場で『準ずるもの』があれば、それは『就業規則』と同様に扱われる。

・ 『準ずるもの』でも、パワーに遜色はない

 つまり、この呼び方の違いは、人数によって、策定・届出が義務化されているかどうかだけの違いで、パワーの違いはない。
 ちなみに、この力関係を図で表すと、次のようになる。

  法令
   ☟
 労働協約
   ☟
 就業規則 ☜ ━━━━━━━━━━━┓
   ☟       労働契約の条件の方が従業員にとって上回るとき
 労働契約  ━━━━━━━━━━━━━━┛

 ちょっと社労士業界の身内の話になって恐縮だが、『就業規則等』の作成については、10人以上のところの『就業規則』は社労士業務の1号業務・10人未満のところの『準ずるもの』は2号業務という違いはある。
 1号業務は申請書類の作成・提出代行、2号業務は帳簿書類の作成業務だ。

 就業規則のチェックや助言だけなら資格がなくてもやってかまわない。

 無免許医のブラックジャックのように、資格がなくても法律知識やら実務経験とかにおいて類いまれな能力と卓越した技術・豊富な経験を持ち、圧倒的な信頼を集める無資格コンサルタントもいないとは限らないので、そういう方が身近にいる場合には、その方に見てもらってもいいのだが、一般的には社労士にチェックしてもらうのが無難だろう。

 

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※ 誤字訂正

就業規則等とは『就業規則』と『準ずるもの』の総称
9行目  ここに ⇛ 個々に   '23.04.11

・ メインタイトル変更しました。
就業規則『等』って何? ➡ 就業規則に準ずるもの '23.05.09

2023年04月07日