今まで当『給与の一策』では、月給・時給・歩合給の3種類の給与支給形態しか紹介していなかった。実務上問題になることもまずないのであまり意識していなかったが、ここで使っているこうした言葉の一貫性を確認する意味もあって、給与の支給形態について調べてみた。
以下はその結果。
・日給
給与の日額が定められ、1日の労働時間数に関わらず、労働日数分の賃金が支払われる制度
・完全月給
給与の月額が定められ、労働月数分の賃金が支払われる制度
・日給月給制
給与の月額が定められ、不就労時の欠勤控除がある制度
・月給日給制
給与の月額が定められ不就労時の欠勤控除があるが、手当が減給の対象に含まれない制度
ということになっているらしい。私も初めて知ったことが多く、社労士としてはまったく恥ずかしいことだが、この定義を厳格に適用すると、『日給』や『完全月給』の事業所はほとんどなさそうだ。当事務所の顧問先に限らず、この中でいうと、『日給月給制』以外はほぼ見たことがない。
『日給制』の職場では、1日のうちのある時間だけ勤務したとしても1日分の給与が支給される。『完全月給制』の場合は、これがさらに1ヶ月分に拡大される。
会社役員の場合は税法上『定期同額給与』の縛りがあるのでそうならざるを得ない場合も多いが、『労働者』ではまず想定できない。
普通の企業が普通の社員にこんなことをやっていたら、生き残っていけないだろう。
また、本題からは脱線するので、ヒマがある方だけ読んでもらえばいいが、このうち『日給月給制』と『月給日給制』の定義が逆のような気がするのだ。
本来、こうした複合語は、『ウシガエル』が『カエル』であり『イトミミズ』が『ミミズ』であるように、後に付いた言葉がより包括的な意味を持つのが普通だ。
一般的にいうと『○○△△』は『○○の性質を持った△△』を表すことが多い。
だとすれば、『日給月給制』は月給の一種で、『月給日給制』が日給の一種を表すのが普通だと思うが、なぜかこの定義では、それが反対になっているようなニュアンスを感じる。
誤植かとも思ったが、複数の説明に当たってみたので間違いではないようだ。
どちらにしても、当blog『給与の一策』では、上記『日給月給制』を『月給』と表してきたことになる。また、俗にいう『日給』も、運用実態は『時給』であることがほとんどだ。
ただ、普通に使用する分には、あまり上の定義にこだわる必要はないとは思う。
・時給は、事実上『分』給
ここまで来ると、『時給』の意味についても言及しなければならない。誰もが知っているように、『時給』とは、仕事をした時間数によって賃金が支払われる制度だ。『時間給』とも言う。
ここで重要なのが、この『時間数』が、整数でなく、最大で『分単位』だということだ。
これは、『給与の一策 2.把握の単位は1分とは限らない』で書いたが、『分単位以下』なら可だが、分単位を超える時間間隔になると、基本的に違法だ。
『基本的に』というのは、その日その日の分単位の端数をすべて1時間単位に切上げる場合はOKだからだ。
ただ、そんなパラダイスのような(従業員にとって)『時給制』を取っているところはあまり聞いたことがないので、事実上『時給』制は『分』給制と心得ていた方が間違いない。
・年俸の途中減額は『欠勤』時のみ
さて、こうなってくると『年俸制』にも触れないわけにはいかなくなってくるが、『年俸』の定義は『契約によって年間の支給額が確定している場合の年間の給与』となっている。
この場合『契約』とは、当然『年間所定労働時間労働した場合の給与』なので、基本的に、いかに働きが悪くても途中の減額はあり得ない。
もちろん、月給(上記に従って記せば『完全月給以外の月給』)同様、欠勤で労務の提供がなかった場合には、ノーワークノーペイの原則で減額できるのは当然だ。
逆に残業が生じた場合は、その時間外労働分の賃金を支払わなければならないことは言うまでもない。
このときは、前にも書いたように、年俸の一部が賞与にも割り振られている場合、普通の月給の方よりは、割増賃金が高額になる。
・週給は、あまり聞いたことがないが…
さて、日本ではめったに聞かないが、『週給』というものもある。『1週間を単位として支給される給与』だ。週の法定労働時間は常に一定なので、労働時間を管理しやすいという面はあるようだ。
・実際の支給日は『月1回以上』
さて、このように時給・日給・週給・月給・年俸と色々あるが、どういう時間間隔を基準として支払う給与を決めるかという違いに過ぎないので、実際の支給のタイミングとは関係ない。
何回も触れたが、法律上『給与は月1回以上』支払わなければならないので、時給でも日給でも、または週給でも月給でも年俸でも、月1回以上支払うことになる。例えば、週給だからといって週1回支払う必要はない。それはまた別問題である。
・時給・日給・週給・月給・年俸を換算すると
最後に、ある時給のときの、日給・週給・月給・年俸を換算してみた。
ただし、年間所定労働時間はいつも登場する月影さんと同じ1960時間・1日8時間・週40時間・残業なし・賞与なしとする。
時給 日給 週給 月給 年俸
1,010 8,080 40,400 164,967 1,979,600
1,163 9,304 46,520 189,957 2,279,480
1,250 10,000 50,000 204,167 2,450,000
1,500 12,000 60,000 245,000 2,940,000
2,000 16,000 80,000 326,667 3,920,000
2,500 20,000 100,000 408,333 4,900,000
3,000 24,000 120,000 490,000 5,880,000
次 ― 労働時間・休日の原則と例外 ―
※ 誤字訂正しました。
『・月給日給制』
1行目 負傷漏示 ⇛ 不就労時
※ 最低賃金改定に伴い、時給額変更 '23.10.03 / '24.09.17