43.労働時間・休日の原則と例外

 

 順番からいうと、プロローグの次にこれを書くべきだったのかもしれないが、給与計算に携わる方に知っておいてもらいたいのが、労働法による時間外労働と休日労働の規制である。

・労働時間と休日の大原則
 

 これまでも度々触れてきたように、労働時間と休日の大原則は、

 1日8時間・週40時間・週1休

 これだけだ。まさかこれを知らない方はいないだろうが、原則、この8時間・40時間のどちらかを1分でも超えれば、また、1週間に7日働かせれば、違法ということになる。
 これまで書いたことは、36協定を結んだ場合を除き、ほぼすべてこの原則を元にしたものだ。
 

・労働時間制限の歴史

 興味のない方は読み飛ばしてもらっても構わないが、この原則も、ある日突然できあがったものではない。ここまで来るには過程には、戦前からの蓄積があった。

1872年 太政官布告
      芸妓等、封建的抑圧化の労働者についての『人身売買禁止』

1886年 甲府雨宮製紙場で(確認されている中で)日本初のストライキ

1916年 『工場法』施行
      15人以上を使用する危険・有害な工場の、15才未満・女子を対象に
        ・1日12時間労働
        ・午後10時~午前4時の労働禁止
        ・6時間超で30分・10時間超で1時間の休憩
        ・休日は月2回以上

1947年 『労働基準法』施行
        ・1日8時間  ・週48時間  ・週1休

1988年    ・週46時間

1991年    ・週44時間

1997年    ・週40時間  ・特例46時間

2001年    ・週40時間  ・特例44時間

 滅茶苦茶はしょって書いたが、今では常識となっている週40時間労働も、完全実施からは、わずか26年の歴史しかないことがわかる。
 

・労働時間と休日の原則の例外

 原則があるところにほぼ必ず例外がある。ここまでは、混乱を避けるため例外としてはほぼ36協定の場合だけを扱ってきたが、例外はこれ以外にも多岐に及んでいて、さらに例外の例外もたくさんあり、例外同士の組み合わせもあるので混乱が生じる。

 これを、この場合はこう、あの場合はそう、とハウツー式に覚えようとすると、小学校で習った順列組合せの『場合の数』の増え方の性質により、覚えなければならない分量が幾何級数的に増え、頭が爆発して結局訳がわからなくなる。

 エラそうな言い方になって申し訳ないが、考え方の基本を知らないとこういうことになってしまうのは、ある意味やむを得ない。
 

労働基準法を学ぶ

 給与計算に携わる方にも経営者の方にもお勧めするのは『労働基準法』を学ぶことである。何で社労士になる気もないのにそんなものを学ばなければならないのかと思うだろうが、これが一番効率がいいから ― というのがその理由だ。
 ただ、労基法を学ぶといっても、何を使ってどう学べばいいのか…
 

・労働者用のQ&A本

 労働者用のQ&A本は、働く人が緊急避難的に調べるのにはいいが、どこまで行ってもあくまでQ&Aであり、体系的とは言いがたい。そのために編集したものではないので、要は目的が違うので当たり前だ。そのため、先に述べた理由で全体としては訳が分からなくなる。

 ただ、『昭和の経営』をずっと踏襲している経営者の方などには、一度こうした本を読んでカルチャーショックを受け、問題意識を持ってもらうことはいいことだと思う。
 

・経営者用の労務知識本

 経営者用のものも、妙に脅迫的だったり(私も顧問先の社長に『あまり脅さないでよ』とたまに言われることはある。)、逆に都合のいい解釈だけつまみ食いしたようなものも見られる。
 最近はネット記事と違って(当Blogもネット記事でした。すみません。)、そうした書籍に明らかな間違いが書いてあることは少ないが、読者が誤解するだろうなあと思うことはある。

 その『誤解』の多くは、前提条件の違いによるものだ。確かに一定の条件の下ではその本に書いてある通りなのだが、前提の1つが違っただけで、全く正反対の結論になることも多い。その前提条件の1つに、普通あり得ないことが書いてある場合もある。しかも、そこは社労士でも見落としがちな箇所だったりする。

 これなどはまだ分かりやすい方で、本を書くほどの方だから本を読むのも好きで、判例集なども読み込んでいるのだろう。特定の判例を一般化しやすい傾向があるのだ。

 こうした本を読んだ向学心旺盛な事業者が遠くからお越しになり、さんざん現在の顧問社労士の『不勉強』を訴えられることもある。こういうときは、大体顧問を引き受けても同じことになるので、『今の顧問の先生に納得いくまで相談してください』と言って、丁重にお引き取り願うことが多い。

 誤解されても困るが、こうした本が無意味と言っているのではない。
 特に、ある特定の分野についての問題意識からその分野についての専門書で学ぶことは、目的がはっきりしている場合は有効だ。

 ただ、全般的な知識をこの方法で学ぼうとすると、考えたらわかる通り、莫大な数の本を買ってこなければならなくなるので、全て頭に入れることはほぼ不可能。さらに、せっかく頭に入った知識も、翌年には法律改正で役に立たなくなくなる…ということもある。

 どんな社労士もこうした『法改正』と常に闘っているが、これは仕事だからできるのだ。一般の方にはとてもお勧めできない。
 

・分厚い労働法の本

 また、ミニ百科事典かとも思える、学者の書いた分厚い労働法の本などは、読破するだけで精一杯。とても頭に残らないだろう。また、学者先生はやはりプライドがあるから(そのこと自体は当然だし、悪いことではない。)、現実の取り扱いを無視あるいは軽視して『こうあるべき』という自説にこだわりすぎる傾向はある。

 その学説に賛同するなら断固としてその通りに運用するのもいいが、学者がその責任を取ってくれるわけではないので、裁判闘争になった場合は、あくまで自己責任で闘う覚悟は必要だ。

 さて、どうしたものか…

 

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※ 脱字訂正
労働基準法を学ぶ
2行目  学ばなければならないか ➡ 学ばなければならないのか

2023年04月14日