₁₂₁.労基法の災害補償は6種類


平均賃金を使うとき④・災害補償



 前回述べたように、従業員数が4人以下で、個人経営の農業・水産業(一部除く)では、今も労災保険の加入が任意となっている。そうした事業で業務災害が発生すれば、労基法上の災害補償の義務が直接事業主に課せられる(任意加入していない場合)。
 

・ 災害補償の種類

 
 労働基準法で業務災害時の補償として規定されているのは次の6つだ。 

  ① 療養補償 (療養費の全額)
  ② 休業補償 (平均賃金の60%)
  ③ 障害補償 (平均賃金の50~1340日分)
  ④ 遺族補償 (平均賃金の1000日分)
  ⑤ 葬祭料  (平均賃金の60日分)
  ⑥ 打切補償 (平均賃金の1200日分)

 療養費以外はすべて平均賃金がもとになっているが、このうち『打切補償』は一定の条件を満たした後であれば、これを支払うことによって以後の補償を免れるというもので、支払いは使用者の意思に任せられるので、他の補償とは性格が違う。
 

① 療養補償

 
 要は医療費等で、業務災害の場合は健康保険が使えないので、全額事業主が支払うことになる。これは賃金には関係しない。
 健康保険との関係については、後で労災保険のところで扱う。
 

② 休業補償

 
 業務災害による負傷疾病のため『労働することができないために賃金を受けない場合』について、平均賃金の60%を補償しなければならない。

 月影さん(平均賃金9,295.68円)が4月1日、始業直後に業務災害にあって休業したときの4月分の休業補償費を計算すると、

9,295.68円/日 × 60% × 30日 ≒ 169,181円

となる。しつこいが、あくまで『労基法上の最低基準』だ。計算結果は以下の例でも円未満四捨五入とする。

 あと、災害補償の中で平均賃金を基に基に規定されているものについて、月影さんの場合で計算してみると、以下のようになる。
 

労災時の補償は、療養費・休業補償だけではない

 
③ 障害補償

 これは、治癒(症状固定)後に障害が残ったとき、障害等級別に平均賃金の50~1340日分を保障するもの。計算すると次のようになる。それぞれの該当例も入れた。

14級 9,295.68円/日 ×  50日 ≒  464,784円
        3歯以上に歯科補てつ・四肢の露出面の掌大の醜状・局部神経症状等
13級   〃     ×  90日 ≒  836,611円
        1眼の視力0.6以下・1眼視野狭窄・5歯以上に歯科補てつ等
12級   〃     ×  140日 ≒  1,301,395円
        1耳の耳かくの大半欠損・手の小指喪失・外貌に醜状等
11級   〃     ×  200日 ≒  1,859,136円
        両岸まぶたの著しい欠損・10歯以上に歯科補てつ・脊柱変形等
10級   〃     ×  270日 ≒  2,509,834円
        1眼の視力0.1以下・咀嚼及び言語機能の障害・下肢3cm以上短縮等
9級    〃      ×  350日 ≒  3,253,488円
        両眼視力0.6以下・両眼視野狭窄・1耳の聴力喪失・外貌に相当の醜状等
8級    〃      ×  450日 ≒  4,183,056円
        1眼の視力0.02以下・1足の指全喪失等
7級    〃      ×  560日 ≒  5,205,581円
        1眼失明かつ他眼の視力0.6以下・両睾丸喪失・外貌に著しい醜状等
6級    〃      ×  670日 ≒  6,228,106円
        両眼視力0.1以下・咀嚼や言語機能の著しい障害・脊柱の著しい変形等
5級    〃      ×  790日 ≒  7,343,587円
        神経や精神の著しい障害で、特に軽易なもの以外は労務不能等
4級    〃      ×  920日 ≒  8,552,026円
        聴力の完全喪失・両眼視力0.06以下・1上肢の肘関節以上の欠損等
3級    〃      × 1050日 ≒  9,760,464円
        神経や精神の著しい障害で終身労務不能・両手指全喪失等
2級    〃      × 1190日 ≒ 11,061,859円
        神経や精神の著しい障害で随時要介護・両上肢の手関節以上の欠損等
1級    〃      × 1340日 ≒ 12,456,211円
        両眼失明・神経.精神障害で常時要介護・両上肢の肘関節以上の喪失等

 ここで、『醜状』については、かつては下記のように男女で基準が分かれていたが、男女で外貌の価値が異なるのはよろしくないということで、2011年の改正で、男女差はなくなった。

                   改正前         改正後
                 男性   女性     現在(男女とも)
外貌に醜状を示すもの       14級   12級   ➡    12級
外貌に相当程度の醜状を示すもの            ➡    9級
外貌に著しい醜状を示すもの    12級   7級   ➡    7級
 

④ 遺族補償

 
 これは、業務上死亡した場合、遺族(配偶者・2親等内の親族)平均賃金の1000日分を補償するもの

9,295.68円/日 × 1000日 = 9,295,680円

⑤ 葬祭料

 
 業務上死亡の場合、葬祭の費用を補償するもので、平均賃金の60日分とされる。

9,295.68円/日 × 60日 ≒ 557,741円 

⑥ 打切補償

 
 これは、被災者が療養開始後3年を経過しても負傷や疾病が治らない場合、使用者は、平均賃金の1200日分を支払うことによってその後の労基法上の補償を行わなくてもいいというものだ。

9,295.68円 × 1200日 = 11,154,816円
 

そこから後は民事上の責任

 
 誤解されると困るが、労働基準法は当事者の意向に関わらず、最低限度を定めた法律なので、ここで示した金額等は、請求があってもなくてもこれだけは『労基法上』支払わなければ刑事罰の対象となる。

 言い方を変えると、民事上の損害賠償についてはまた別だ。大概の方が思ったと思うが、たとえば今どき人が1人亡くなって補償が1000万円程度ということはまず考えられない。普通は、労基法上の最低基準を上回る部分は民事上の問題になる。

 

次 ー ₁₂₂.休業補償に休日はない ー

 

 ※ 訂正です
打切保障 4行目
9,295,680円 ➡ 11,154,816円
②休業補償 3行目
4月のある日 ➡ 4月1日
③障害補償 2行目
保障 ➡ 補償
13級 1行目
歯科補てつ ➡ 歯科補てつ等
10級 1行目
2,309,834円 ➡ 2,509,834円   '24.02.27
メインタイトル変更
平均賃金を使うとき④・休業補償等 ➡ 労基法の災害補償は6種類  '24.03.13

2024年02月16日