定額残業制の限定的運用
前に述べたように、定額残業制は残業代の支払方法の1つに過ぎないので、限定条件が多いのは構わない。
たとえば、所定労働時間が1日8時間・土曜が所定休日・日曜が法定休日の会社で『土曜日はほぼ半日(4時間とする)出勤している』場合を考える(特例事業以外)。
この場合、『週40時間を超えた部分の法定時間外労働に対する割増賃金として、月20時間分、○万円を支払う』という定額残業制も考えられ、似たような形で実際に運用している会社もある。
当Blogのレギュラー月影さんの場合(基礎賃金1,423円/h)なら35,580円以上を定額残業代とすることになる。
つまりこの場合は、1日8時間を超えた分や法定休日残業・夜間割増賃金などは普通に労基法通り支払い、事実上土曜出勤の分だけ定額残業とする。
土曜日は月4~5回なので、各土曜が4時間以内であれば月20時間を超過することはない。給与計算の際には、これ以外の残業分だけ割増賃金を計算して支給することになる。
これはこれで給与計算担当者にも従業員にも分かりやすい優れた制度ではないかと思う。
基本給と定額残業代と残業時間の関係
ここでは、時間外労働時間だけを対象とした月給者の定額残業制の制度設計を考える。まず考えなければならないのは最低賃金で、これを下回ったら話にならない。ここでは月影さんと同じく年間所定労働時間1960時間として話を進める。
また、説明の便宜上、この方のそれ以外の給与は一切ないものとする。
『基礎賃金』= その月の職務関連給与 × 12 ÷ 年間所定労働時間
なので( ー 5.基礎賃金と除外賃金 ー )、この場合は『基本給』がそのまま『その月の職務関連給与』であり、かつ『最低賃金との比較に算入すべき給与』である。
基本給と年間所定労働時間から基礎賃金を出し(ここは、端数計算の原則から四捨五入でよい。)、まずはこの金額が各都道府県の最低賃金以上になっていることを確認する。
これを1.25倍すれば割増単価が出る(ここも四捨五入でよい。)。
ここで設定した定額残業代を割増単価で割れば(端数切捨て)、定額残業代に収まる時間外労働時間を算出できる。
こうして得たのが次の表だ。ここでは時間数の小数第2位以下を切り捨てて第1位までとした。
・基本給と定額残業代から求めた時間外労働の時間数
定 額 残 業 代
基本給 基礎賃金 割増単価 1万円 2万円 3万円 4万円 5万円 6万円
17万円 1041円 1301円 7.6h 15.3h 23.0h 30.7h 38.4h 46.1h
18万円 1102円 1378円 7.2h 14.5h 21.7h 29.0h 36.2h 43.5h
19万円 1163円 1454円 6.8h 13.7h 20.6h 27.5h 34.3h 41.2h
20万円 1224円 1530円 6.5h 13.0h 19.6h 26.1h 32.6h 39.2h
21万円 1286円 1608円 6.2h 12.4h 18.6h 24.8h 31.0h* 37.3h
22万円 1347円 1684円 5.9h 11.8h 17.8h 23.7h 29.6h 35.6h
23万円 1408円 1760円 5.6h 11.3h 17.0h 22.7h 28.4h 34.0h
24万円 1469円 1836円 5.4h 10.8h 16.3h 21.7h 27.2h 32.6h
25万円 1531円 1914円 5.2h 10.4h 15.6h 20.8h 26.1h 31.3h
26万円 1592円 1990円 5.0h 10.0h 15.0h 20.1h 25.1h 30.1h
27万円 1653円 2066円 4.8h 9.6h 14.5h 19.3h 24.2h 29.0h
28万円 1714円 2143円 4.6h 9.3h 13.9h 18.6h 23.3h 27.9h
29万円 1776円 2220円 4.5h 9.0h 13.5h 18.0h 22.5h 27.0h
30万円 1837円 2296円 4.3h 8.7h 13.0h 17.4h 21.7h 26.1h
このあと、実際の組み合わせを決めていくのだが、こうしておけば、たとえば基本給21万円の方に固定残業代として5万円支給した場合、『時間外労働31時間*分』になることが分かる。
実際には31時間分の時間外割増は49,848円となるが、これを上回っているので問題ない。
この場合には、実際の時間外残業が31時間以内であれば普通に5万円を支払い、これを超過する場合には、超過した分から31時間を引いた時間に1608円/hをかけた金額を追加支給することになる。
定額残業代の欠勤控除
定額残業制で働いている方が欠勤した場合、定額残業代の『欠勤控除』は可能か?
一般的に、欠勤控除についてはある程度各事業所の裁量に任されているので様々な方法があり、近いうちに詳しく述べるが、ここではよく見られる日割減額の場合とする。
さらに『日割減額』にも色々な型があるが、これについては、単純に月額の給与を月の所定勤務日数で割った分を1日分として控除する方法を取っているところで考える。
結論を先に言うと、定額残業代の欠勤控除は問題ない。ただし、注意すべき点がある。
前項の『基本給21万円で、31時間分の定額残業分5万円を支給されている』方で考える。所定勤務日数22日の月に1日欠勤した場合、
基本給分 210,000円 ÷ 22日 ≒ 9,545円
定額残業分 50,000円 ÷ 22日 ≒ 2,273円
を控除することになる。
ここで、基本給と定額残業代を合わせた26万円を基にして、控除額を
260,000円 ÷ 22日 ≒ 11,818円/日
としたいところだが(これが絶対ダメということではないが)、
『定額残業代の控除分2,273円』
は、はっきりさせておかなければならない。
・定額残業分をはっきりさせておかないと…
この場合は、1.4時間(31時間÷22日)分の定額残業代2,273円が控除されたことになるので、この月に支給された定額残業代は29.6時間分47,727円ということになる。
もし、この月に実際の時間外労働が30時間あったとすれば、これは減じられた29.6時間の定額残業代の対象時間には収まっていないので(0.4時間分未払いとなる。)、
1608円 × 0.4h ≒ 643円
を、定額分47,727円のほかに追加支給しなければならない。
実際には、ここで扱ったようなシンプルな給与体系のところばかりとは限らないし、欠勤控除の際には色々な手当の控除方法が錯綜して『定額残業代』の正確な金額が紛れてしまいそうだ。
しかし『定額残業代として何時間分いくら支給したか』だけははっきりさせておかないと、残業代計算の再現性が乏しくなり、前回触れたように『定額残業制』そのものが否定されかねないので、十分注意したい。
次 ー 79.細切れ休憩・長すぎ休憩はアリ? ー
※ 訂正(追加)
定額残業制の限定的運用
4行目 文末のカッコ内追加
・基本給と定額残業代から求めた時間外労働の時間数
1行目 表の1~6万円の上に文言を追加 '23.09.01
基本給と定額残業代と残業時間の関係
7行目 参入すべき ➡ 算入すべき '23.10.03