72.フレックスタイムの留意点



④ フレックスタイム制
 

 フレックスタイム制は一定の枠内で日々の労働時間を自由化するもので、『働き方改革』の一環で2019年には3ヶ月単位にまで拡大された。
 労働者の自由な働き方を認める制度として人気もあるようだが、自由度が大きいゆえに導入する場合考慮しておくべき事項も多い。

 フレックスタイム制を導入するには、その旨を就業規則等に規定し、労使協定で以下の事項を定めることになっている。『清算期間』というのは、その期間内を平均して週の法定労働時間等に収まるようにすべき期間のことをいう。
 

  1) 対象労働者の範囲
  2) 清算期間
  3) 清算期間の総労働時間
  4) 標準となる1日の労働時間
  5) コアタイム(任意)の開始・終了の時刻
  6) フレキシブルタイム(任意)の開始・終了の時刻


 1) の対象者の範囲については、『全従業員』でも『○○課職員』でも『AさんとBさんとDさん』でも、限定条件はない

 2) の清算期間は3ヶ月以内で定めることになるが、1ヶ月を超える場合は、定めた労使協定を監督署に届け出なければならない。

 3) の総労働時間は、清算期間内の総所定労働時間がその期間内の総法定労働時間に収まるように定める。『1ヶ月単位の変形労働時間制』と似ていて、次のようになる。

清算期間の総所定労働時間 ≦ 清算期間の歴日数 ÷ 7 × 40時間(一部44時間)

 ここで、特例事業1ヶ月以内でフレックスを運用する場合は週44時間で計算してよいことになっているが、1ヶ月を超える場合は特例事業でも週40時間が限度となる。
 

・1ヶ月以内・所定週5日の場合の特例


 特例として、期間が1ヶ月以内で週の所定労働日が5日の場合、労使協定に盛り込むことで、『清算期間内の所定労働日数×8時間』を、総労働時間として定めることができる。

 何のことかというと、たとえば清算期間が1ヶ月でその期間が31日の場合、上の式に代入すると総所定労働時間の上限は177.1時間(31日÷7日×40時間)となる(1ヶ月単位の変形労働時間制のときと同じ)。

 この場合、平日が23日あれば変形でない場合は184時間(8時間/日×23日)勤務が残業なしで可能なので、これに合わせることができるようになったということだ。

 まとめると、清算期間1ヶ月の場合の最大総労働時間は次のようになる。
 

   1ヶ月の日数 一般の事業  週所定5日(労働日)  特例事業
    28日    160時間   160時間 (20日)  176時間
    29日    165.7時間  168時間 (21日)  182.2時間
    30日    171.4時間  176時間 (22日)  188.5時間
    31日    177.1時間  184時間 (23日)  194.8時間
 

・清算期間が1ヶ月超の場合は、1ヶ月ごとの制限あり


 清算期間が1ヶ月を超える場合、1ヶ月ごとの労働時間は週平均で50時間を超えることはできない。このことから、1ヶ月の最大労働時間は次のようになる。
 

   1ヶ月の日数 一般事業・特例事業
    28日      200時間
    29日      207.1時間
    30日      214.2時間
    31日      221.4時間


 4) の標準となる1日の労働時間は、年次有給休暇を取った場合の給与支給額を確定させるために必要なもので、清算期間の総労働時間を所定労働日数で割ったものを基準に定める。月給の方の場合は、特に何もしなければ所定の給与を支払ったことになる。

 5) のコアタイム(労働しなければならない時間)・6) のフレキシブルタイム(労働してもいい時間)の設定は任意なので、4) までを定め、必要な届出をすればフレックスは導入できることになる。
 ただ、これだけ定めてフレックスタイムを始めたら、多分大混乱が勃発するだろう。
 

コアタイム・フレキシブルタイムを定めない場合


 事業場外労働等がない普通の職場で考える。
 ある人が21時に来て翌朝5時まで仕事をしたとする。
 

・深夜割増の発生

 この場合、当然深夜労働割増賃金25%の7時間分(22時~5時の分)が発生する。
 

・管理上の問題

 それ以前に、普通の会社で普通の職種の人にこんな働き方をされたら施設管理上も問題が生ずる。

 この方の職種が天体観測員とかなら職務上の必要もあると言えるが、わざわざ深夜に働く必然性がないなら「いいかげんにしろよ。」と言いたくなる。が、他に何も定めていない以上やむを得ない。
 

・休憩をどうするか


 さらに、この人は8時間働いたのに休憩を取っていない。休憩を『12時から13時まで』と定めていたとしても、その人のその日の始業~終業時刻までにこの時間帯が含まれていなければ、休憩にならない。それでは勝手に休憩を取ってもらうか…

 ただ、前にも書いたが休憩には『一斉付与の原則』がある。この原則は、運輸交通業・商業・金融広告業・映画演劇業・通信業・保健衛生業・接客娯楽業・官公署…と広く例外が認められているが、それ以外の業種では一斉に与えなければならない。そうしたくない、またはそうできないときは、労使協定を結ぶしかない。
 

・打ち合わせは?


 ほかにも、これでは打ち合わせもできないという問題がある。夫婦なら、しばらくすれ違いで顔を合わせていなくても心は通じ合っているという場合もあるかもしれないが、会社ではそこまで期待できない。その場にいない人にはZoomで参加してもらおうというなら、それはコアタイムになってしまう。
 

・休憩をはさんでコアタイムを


 これらの問題は、コアタイム・フレキシブルタイムを設定しないと解決は困難だ。1時間以上の休憩を挟んでコアタイムを設け、打ち合わせはその間に集中して行い、会社にいてもらっては困るという時間を外してフレキシブルタイムを設けるというのが最も一般的な解決策である。

 

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2023年07月28日