₁₅₆.国民年金免除の可否は1人ずつ



 前に書いたが、国民年金保険料の申請免除(全額~4分の1免除)は、

本人・配偶者・世帯主

の3者が共に免除基準を満たしていなければならない。こう書くとこの3者の免除の判断は一緒になされると思う方がいるが、免除の可否は、

1人ずつ判断する

ことになっている。
 

夫婦世帯の場合

 
 ここはなかなか難しいところだ。まずは夫婦2人世帯の場合を考える。この場合は当然どちらかが世帯主なので、この2者の所得等が基準を満たしているかどうかで判断することになる。ここでは夫が妻を扶養していて、共に免除を希望しているとする。それぞれの所得は次のようになっている。

       ・ 夫 100万円
       ・ 妻 70万円

ここで、全額免除の所得基準は

全額免除    (扶養親族等の数+1)× 35万円 + 32万円  以内
4分の3免除   88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等  以内

だったので、これに沿って計算してみる。
 この妻の所得は95万円以下なので『源泉控除対象配偶者』というやつになり、扶養親族等の数に入る。

・ 夫
    102万円(2×35万円+32万円)以下  ➡  全額免除基準内

・ 妻
    67万円(1×35万円+32万円)   ➡  全額免除基準外
    88万円以内             ➡  4分の3免除基準内

 これを『1人ずつ判断する』と、

・ 夫  本人は全額基準内だが、配偶者が基準以上   ➡  全額免除不可
     本人配偶者も4分の3免除基準内      ➡   4分の3免除可

・ 妻  配偶者は全額免除基準内だが、本人が基準超え ➡   全額免除不可
     本人配偶者も4分の3免除基準内       ➡   4分の3免除可

ということになり、夫婦ともに『全額免除はダメだが、4分の3免除は可』という結論にしかならない。
 

・ 専業主婦(主夫)の免除は配偶者次第

 
 この例では妻にも所得があったが、妻(夫)が専業主婦(主夫)ならその所得は必ず67万円以内なので必ず『全額免除基準』に収まるが、その場合は夫(妻)の所得と支払った社会保険料によってその夫婦が『全額~4分の1』免除のいずれの対象になるかまたはならないかが決まることになる。
 実際にはそういう場合が多い。

 ただし、この例のように、相対的に所得が高い夫(妻)が妻(夫)を扶養していても、扶養親族の数・社会保険料の負担などで妻(夫)の方の基準が厳しくなる場合には、妻(夫)の基準で夫婦の免除額が決まってくる。
 

世帯主が本人でも配偶者でもない場合

 
 世帯主が自分でも配偶者でもない場合は、世帯主の所得が審査される。
 

・ 夫婦と未婚の子

 
 この状況は、核家族化の進んだ現在では20才以上の未婚の子が親世代と同居している場合が多い。

 子が学生の場合は『学生納付特例制度』の対象で『免除』はそもそも申請できないが、無職や低収入のアルバイトで免除申請を考える場合には、親(世帯主)の所得が問題になってくる。親(世帯主)が60才以上で保険料納付の必要がない場合を含めてだ。

 50代の世帯主が妻と20才以上の子を扶養している世帯では、次の条件をクリアすれば家族全員が全額免除になる。

        所得
・ 世帯主  137万円(3×35万円+32万円)以内   本人・配偶者が基準内
・ 妻    67万円以内                本人・配偶者が基準内
・ 子    48万円以内               本人・世帯主が基準内

 ここで『子』については67万円以内であれば全額免除の基準内だが、48万円を超えている場合には『扶養親族等の数』の関係で世帯主の全額基準所得が35万円減って102万円になってしまい条件が変わってくるので、48万円以内の場合を想定している。
 言い換えると、子が48万円超~67万円でも、世帯主が102万円以内なら全員全額免除対象になる。

 また、この場合で世帯主の所得のみ150万円の場合を考えると、妻や子が単独ではそれぞれ免除基準に収まるが、妻にとっての配偶者・子にとっての世帯主が基準を超えていることになるので、誰も全額免除にはならない

 逆に、子が稼ぎ頭で世帯主と妻はそのまま・子の所得が200万円の場合(社会保険料控除額は35万円とする)では、子は全額免除の基準を大きくオーバーし、4分の1免除の基準(168万円+社会保険料控除額)を何とかクリアするといった水準になる。

 この場合は親が子のあおりを食って『全額免除不可』ということにはならず、世帯主も妻も全額免除可子は4分の1免除まで…という結果になる。
 

・ 親子2世帯同居

 
 次に、50代夫婦とその息子夫婦(20代)の2世代同居で、それぞれ夫が妻を扶養している場合を考える。この場合も家族全員保険料の納付義務があるが、それぞれの立場から全額免除の要件を考えると、次のようになる。

       所得要件

○ 息子
     ① 息子(本人)が    102万円以内で、
     ② 息子の妻(配偶者)が 67万円以内で、
     ③ 父(世帯主)が    102万円以内

○ 息子の妻
     ① 息子の妻(本人)が  67万円以内で、
     ② 息子(配偶者)が   102万円以内で、
     ③ 息子の父(世帯主)が 102万円以内

○ 父
     ① 父(本人)が     102万円以内で、
     ② 母(配偶者)が    67万円以内

○ 母
     ① 母(本人)が     67万円以内で
     ② 父(配偶者)が    102万円以内

この場合も、各人が①~③の条件をすべて充足することによって全額免除が可能になる。この場合も、親世代が世帯主の場合、親世代の免除には子の所得は関係しない。

 このように、申請免除については、家族でも1人ずつその『本人』『配偶者』『世帯主』について、所得基準等が審査されることになる。

 

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2024年07月09日