厚生年金保険料については以前から産前産後の保険料免除の制度はあったが、国民年金も2019年度から産前産後期間の保険料全額免除の制度が始まった。この制度は免除のデメリットが一切ないという点で、他の免除・猶予制度とは全く別物と考えた方がいい。
・ 出産予定月(または出産月)前月から4ヶ月間全額免除
この『産前産後期間の免除制度』といわれる制度は、以下のように届出日によって免除期間が変わってくる。
届出日 免除期間 免除期間(双子以上の場合)
出産日前 出産予定日の前月分から4ヶ月 出産予定日の3ヶ月前の月分から6ヶ月
出産日以後 出産日の前月分から4ヶ月 出産日の3ヶ月前の月分から6ヶ月
国民年金保険料は毎年4月分から改定になるので、出産が4月になるか5月になるか微妙な場合は数百円程度の違いが出ることはあるが、いずれにしても『4ヶ月分』というのは固定されているので、あまりこだわらずに早めに届出した方がいいだろう。届出は予定日6ヶ月前から可能だ。
たとえば予定日が5月2日で実際の出産日が4月29日だったのなら、届出が
4月28日以前なら 『予定日基準』で、4月分(双子以上なら2月分)~7月分
4月29日以降なら 『出産日基準』で、3月分(双子以上なら1月分)~6月分
の国民年金保険料が免除になる。要は免除期間が1ヶ月ずれるだけの違いだ。
なお出産とは、『妊娠85日(4ヶ月)以上の分娩』をいう。
無条件で全額免除
・ 全額納付したのと同じ扱い
この免除期間は『全額納付期間』として扱われる。すなわち、この期間の保険料は納付していなくても全額(16,980円×4ヶ月分=67,920円・2024年度)納付したのと同様に老齢年金が計算される。
これは他の免除・猶予制度とは全く違う点だ。
・ 他の条件はない
他の免除制度では所得等の要件があり、本人だけでなく配偶者や世帯主も基準を満たしていることが必要だが、出産時の免除に関しては『出産』の事実以外の条件は一切ない。
・ 前納していても返還される
国民年金保険料は前納すると保険料の割引があるので、半年から1年・2年分前納していることもあるだろう。
半年ならともかく、1年・2年先の出産が予言できるはずがない。こうした保険料を前納している期間内に出産した場合(正確には、その期間内に『産前産後の免除期間』がある場合)は、その分の保険料は請求により還付されることになっている。
・ 付加保険料の納付も可
これもまだ書いていないが『付加保険料』といって、規定の保険料に月額400円を上乗せして支払い、老齢基礎年金額を増やせる制度がある。
他の免除の場合は付加保険料の納付は認められていない。『そんな余裕があるなら、まず規定の保険料を全額払ってからにしてよ』ということだ。
これについても、産前産後の免除期間については『付加保険料』のみの納付が可能だ。
他の免除・猶予制度より優先される
・ 法定免除・申請免除より優先
『産前産後の免除』については、法定免除や申請免除の対象となる期間にあってもそれらより優先して取り扱われる。
つまり、ずっと法定免除や申請免除期間でも、『産前産後期間』はこれらに優先して免除が適用になるので、出産予定日(または出産日)の前月から4ヶ月間は『全額納付期間』として扱われる。
特に法定免除や、申請免除の中でも『全額免除期間』は、もともと保険料を納付していないので《自分には関係ない…》と思うかもしれないが、法定免除や申請による全額免除とは、将来の老齢年金額に与える影響は全く違うので、忘れず届出しておこう。
・ 学生納付特例期間・納付猶予期間でも可
また学生納付特例期間や、まだ書いていないがそれ以外の『納付猶予期間』よりも優先されるので、たとえば学生納付特例期間中に出産した場合でも、そのうち産前産後の4ヶ月間は『産前産後の保険料免除期間』になる。
このことは、前項の『全額免除期間中に出産した』場合よりもさらに大きな意義がある。
なぜかというと、普通の全額免除期間(法定免除期間も含む)なら『国庫負担分』だけは老齢基礎年金の原資となるが、『学生納付特例期間』や『納付猶予期間』は『資格期間』にカウントされるだけで、老齢基礎年金の金額に全く貢献しないからだ。
つまり、学生納付特例期間や納付猶予期間の方が産前産後の免除となる場合は、老齢基礎年金の原資が『0%から100%』になるので、法定免除や申請免除の方が出産する場合より届出の効果が2倍になるのだ。
それでも届出は必須
・ 周知度は14%程度
厚労省の調査では、産前産後の国民年金保険料の免除制度の周知度は14%程度と低い。
学生納付特例制度については学生の周知度は85%程度ある。これは学生の中だけの調査なので、比較の対象にはならないが、14%というのは相当の低さだ。出産した方の中には制度を知らずにそのままになっている方もいるのではないかと勝手に危惧している。
・ 免除は『届出』がないとダメ
この免除も『届出』がないと免除の扱いにはならない。出生届が出されれば自治体は出生の事実を確認できるし、産前産後の免除については本人にとって全く不利益がないので本人の同意も不要だろう。それこそ自動的に免除してくれてもよさそうなものだがそうはなっていない。
こういう、役所のいかにも『お役所仕事』的な対応の改善こそ、デジタル化の前にやってほしいことだと個人的には思う。ただ、複雑な事情でプライバシーに配慮する必要がある場合を想定しているならやむを得ない対応とは思うので、その分余計に『届出』は重要になる。
特に法定免除や全額免除・学生納付特例・納付猶予といった制度の対象になっている方の場合は、放っておくとその間の老齢基礎年金の原資が『国庫負担のみ』や『0』になってしまうことになるので、届出だけは忘れないようにしたい。
ただ、『届出』は出産予定日の6ヶ月前からだが、『届出期限』はなく、納付期限から2年以上経過してから届出しても、産前産後の期間分の保険料はさかのぼって免除になる。
・ 経費は被保険者が1人100円負担
実務上は関係ないが、産前産後の保険料免除に要する費用は2019年度から国民年金保険料を月額100円引上げたことによって賄われている。
国民年金第1号被保険者の数は2022年度で1405万人(任意加入者含む)なので、原資は年間170億円(100円×12ヶ月×1405万人)程度になる。双子以上の出生率は2019年度で2%程度なので、出産者1人当たり68,800円程度の免除になる。約25万人分だ。
日本の出生数は2023年で75万8631人。このうち第1号被保険者は20万人程度ということなので、まだまだ余裕はある?
※ 訂正
・付加保険料の納付も可
3行目 申請免除 ➡ 他の免除 '24.07.19