₁₅₈.国民年金 納付猶予制度の使いみち


保険料納付猶予制度とは



 国民年金の『納付猶予制度』は、学生以外の50才未満の方を対象に、本人と配偶者の所得等を要件に『納付を猶予』する制度だ。『学生納付特例制度』と同様、この期間は後から(同じく10年以内に)保険料を納付しない限り、老齢年金の金額には全く貢献してくれない。

 ただ『学生納付特例制度』と同じく、国民年金保険料を納付あるいは免除された期間のように国民年金の『資格期間』としては扱われる。
 

・元々は『若年者納付猶予』制度

 
 この制度は、以前は30歳未満の学生以外を対象にした『若年者納付猶予制度』として2005年に発足したが、その後2016年に50才未満まで年齢要件が拡大されたものだ。49才で『若年』とは本人がいくら頑張ってもちょっとムリがあるので、今では単に『納付猶予制度』と呼ばれることが多い。
 

・ 猶予の要件は『全額免除』と同じ

 
 気になる要件だが、これは申請による『全額免除』と同じで、かなり厳しい。すなわち

① 所得が( 扶養親族等の数+1 )× 35万円 + 32万円 以内
② 生活保護法による生活扶助以外の扶助を受ける
③ 地方税法に定める障害者・寡婦・ひとり親であって、所得が135万円以内
④ 保険料を納付することが著しく困難である場合として天災その他厚生労働省令で定める事由がある

ことのいずれかだ(詳しくは ー ₁₅₅.国民年金ー保険料免除の目安 ー 参照)。

 それなら

『全額免除申請をして、半分国庫からもらった方がいい』

と思う方が多いと思う。『猶予』では後から追納できなかった場合にはその期間の老齢年金の原資はゼロになるからだ。
 

・ 世帯主の所得要件はない

 
 ただ、全額免除が『本人・配偶者・世帯主』の所得等で制度利用の可否が決まるのに対して、納付猶予は『本人・配偶者』の所得等で決まる。
 つまり『世帯主』の所得は問われないので、本人の(配偶者がいる場合は配偶者も)所得は基準以下だが世帯主の所得が高額で『全額免除はムリ』という場合には選択肢に入ってくる。

 特に世帯主の所得がある程度高額なら、本人や配偶者がいかに低所得でも『4分の3・半額・4分の1』といった一部免除も受けられないので、そういう場合には利用価値がある。
 

・ 納付猶予のおすすめは限定的

 
 ということで、納付猶予をお勧めするのは、どうしても納付が困難で、かつ、次の3つの条件をすべて満たす場合に限られる。

① 本人が50才未満
② 本人も、配偶者がいる場合はその方も、所得が全額免除基準以下
③ 本人・配偶者以外に世帯主がいて、その所得が全額免除基準を超える

場合がそれだ。この場合は納付猶予しかない。

 本人(または配偶者)が世帯主の場合は①・②の条件だけで納付猶予は可能だが、その場合は必ず全額免除の要件も満たしていることになるので、確かに全額免除の方がいい

『絶対にあとで追納するという強い意志を内外に表明する』

といった特殊な動機でもなければ利用価値はない。
 くどくなるが、納付猶予だと、あとで追納できなかったときには国庫負担分はゼロ。年金額への反映が全くなくなってしまうからだ。
 

保険料免除・猶予と社会保険料控除

 
 ここまでは、保険料の免除・猶予の要件等に的を絞って論じてきたが、状況によってはもう1つ『社会保険料控除』の影響が大きくなる場合があるので、ここに書いておく。

 『国民年金保険料』はいうまでもなく『社会保険料』なので、税法の『社会保険料控除』の対象になる。
 

・ 国民年金保険料は全額控除

 
 『社会保険料』にも色々あるが、たとえば『生命保険料』だと、保険料が年間2万円までは全額控除になるがそれを超えると控除額が段階的に抑えられ、8万円を超えると一律『4万円』で固定される。『介護医療保険料』も民間の『年金保険料』も同様だ。

 これに対して国民健康保険料や国民年金保険料は青天井で、支払額が全額『社会保険料控除』の対象になる。つまり、所得税の計算上は、それだけ保険料の支払者の『所得が減少』したのと同じことになる。

 ここで、世帯主の所得が全額免除基準を超え、扶養する子のアルバイト所得が48万円の場合を考える。
 

・ 子が払えば控除はゼロ

 
 この場合、子は世帯主の所得の関係で免除申請はできない。
 『納付猶予制度』は世帯主の所得は関係ないので猶予申請は可能だが、この子はムリして自力で満額年間20万3760円(2024年度価額。以下同じ)の保険料を納付したとする。

 子の所得が48万円ということは給与収入なら103万円なので、はじめから所得税はかからない。つまり『社会保険料控除』は全く意味がない。
 

・ 世帯主が払えば最大約9万円減税

 
 ここで、世帯主が子の国民年金保険料を支払った場合を考える。この場合は世帯主の課税所得(所得から所得控除額を引いた金額)によって減税額は変わり、次のようになる。

 この場合、支払った保険料自体も所得控除額に入り、それによって課税所得も変わってくるので、それも織り込んだうえでの『課税所得』と考えてほしい。また、復興特別所得税については考慮していない。

世帯主の課税所得    税率 社会保険料控除による減税額

     0円               0円
     0円超      5%   1万0188円
    195万円超    10%   2万0376円
    330万円超    20%   4万0752円
    695万円超    23%   4万6864円
    900万円超    33%   6万7240円
  1800万円超    40%   8万1504円
  4000万円超    45%   9万1692円

 つまり、最大で約9万円の減税になる。この場合、普通に満額(20万3760円)払っても、実質的には11万3千円程度の負担で済むわけだ。

 社会保険料控除との関係では『誰が』納付するか以外にも、猶予された保険料を『いつ』納付するかも重要になる。何年か後に所得が急増する年があることが分かっている場合には、その年に一気に納付し、ついでに2年分前納するという方法もある。

 2年前納にするとほぼ1ヶ月分の保険料が割引になるので、前納による割引と減税の相乗効果でかなりの負担減が可能だ。

 前納の割引については、厚労省のサイトを参照していただく方が分かりやすい。

 

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2024年07月16日