・思ったより門戸が広い?
国民年金保険料の納付は国民の義務ということになっているので、これを免除してもらうにはかなり厳しい制限があるのではないかと勝手に思っている方は多い。
厳しいか厳しくないかはそれこそ個人の感想なので一概には言えないが、相談に来た方に目安を示すと、特に一部免除に関しては『思ったより門戸が広い』と感じる方が多いようだ。
全額免除の要件
保険料を全く払わなくていい『全額免除』の要件は次のいずれかとなっている。
なお、今回『所得』や『収入』と言ったら特に断りがない限り、1~6月分は前々年・7~12月分は前年の分を指す。
① 所得が 『(扶養親族等の数 + 1 )× 35万円 + 32万円 』 以内
② 生活保護法による生活扶助以外の扶助を受ける
③ 地方税法に定める障害者・寡婦・ひとり親であって、所得が135万円以内
④ 保険料を納付することが著しく困難である場合として天災その他厚生労働省令で定める事由がある
ちなみにこの②~④は、そのまま以下に出てくる4分の3・半額・4分の1といった一部免除の要件にもなっている。
どういうことかというと、『②~④に該当する方も、希望すれば一部免除可能』ということもあるが、申請免除は『本人・配偶者・世帯主』の全員が要件を満たしたときに認定されるので、その中に②~④に該当する方がいれば、その方の所得要件は不問。ということだ。
・ 生活扶助以外の扶助
②の『生活扶助以外の扶助』は、生活保護法による生活扶助以外の、住宅扶助・教育扶助・医療扶助・介護扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助の7つの扶助をいう。ここは法定免除のときの『生活扶助以外の援助』と違って、常識通りつなげて読んでよい。
・ 障害者
③ の『障害者』については、2級以上の障害年金の受給権者は法定免除で申請不要なので、それ以外の身体障害者手帳所持者等をいう。
・ 納付が著しく困難な場合
④の、納付が著しく困難な『厚生労働省令で定める事由』とは、
1 震災・風水害・火災・その他これに類する災害
2 失業等
3 DV防止法に規定する配偶者からの暴力を受けたとき
4 その他1~3に準ずる事由により保険料を納付することが困難と認められるとき
となっている。
一部免除の要件
全額免除以外の要件は、前記②~を除きすべて所得要件で、次のようになっている。
免除の種類 ー 所得 ー
4分の3免除 88万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等 以内
半額免除 128万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等 以内
4分の1免除 168万円 + 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等 以内
ここで『扶養親族等控除額』は、被扶養者1人につき
0才 ~ 15才 0円
16才 ~ 18才 38万円
19才 ~ 23才 63万円
24才 ~ 69才 38万円
70才以上 48万円
同(同居の親) 58万円
となっている。『社会保険料控除額等』に至っては人によって千差万別なので、例示することも難しい。それぞれ源泉徴収票とにらめっこしてもらうしかない。
・ 社会保険料には『国民年金保険料』自体も入る
加えて、この『社会保険料』には今問題にしている当の『国民年金保険料』も入ってくるので、Excelでごちゃごちゃと計算式を組んでいるときによく出てくる『循環参照』のような現象が発生してしまうのだ。ヘビが自分のしっぽに嚙みついたような状態だ。
つまり、ある年に満額の国民年金保険料を支払ったとすると、翌年7月以降には免除の制限となる所得がかなり高めに出る。そこで支払う保険料を可能な限り下げると、今度は社会保険料控除額が少なくなり、基準所得が低めになってしまう。
・ 平衡状態に達したとしたときの目安
それでも免除申請のための収入の目安がほしいという方もいるだろうから目安を示そうと思うが、全国社労士会連合会の一員としてはあまり適当なことも言えない。
しょうがないので、ここでは自然科学でいうところの『平衡状態』に達した場合で考える。つまり数年間所得や他の状況に変化がないと仮定して、最大限国民年金保険料の免除制度を利用した場合の免除基準に収まる最大値だ。
所得から収入を逆算するのは、個人事業者等は必要経費の関係で不可能なので、次の場合とした。
・ 社会保険に加入していない個人事業の従業員で給与収入のみ
・ 国民健康保険・国民年金・雇用保険加入。国民年金は最大限の免除制度を利用
・ 生命保険料控除・地震保険料控除・医療費控除・雑損控除等はなし
申請免除 所得・収入の目安
・ 1人世帯の場合
給与収入 所得 国保料 国民年金 雇用 基準所得
全額免除 1,220,000 670,000 670,000
4分の3免除 1,675,999 1,103,200 163,800 50,940 10,056 1,104,796
(40才以上) 1,739,999 1,141,600 201,300 50,940 10,416 1,142,656
半額免除 2,431,999 1,619,600 224,600 101,880 14,616 1,621,096
(40才以上) 2,503,999 1,670,000 274,200 101,880 15,024 1,671,104
4分の1免除 3,171,999 2,137,600 285,800 152,820 19,032 2,137,652
(40才以上) 3,259,999 2,199,200 347,200 152,820 19,560 2,199,580
一部免除は、それぞれ所得(青字)が88万円~168万円+社会保険料(基準所得・赤字)以内であれば可能ということになる。その時の収入の最大値が左端の列だ。
それぞれ40才以上の方が基準額が増えるのは、国民健康保険料には『介護分』という40才以上の方からのみ徴収する部分があるからだ。また、国民健康保険料は自治体間格差がかなりあるのでここでは筆者在住の自治体の例を使った。あくまで目安としてほしい。
・ 夫婦2人世帯の場合
夫婦2人世帯(配偶者は専業主婦または専業主夫)の場合は『扶養親族等控除額』が38万円増え、4分の3免除が126万円・半額免除が166万円・4分の1免除が206万円(+社会保険料)となるので、次のようになる。
なお、ここで40才以上とは夫婦とも40才以上の場合だが、所得者のみ40才以上でもほぼ同額になる。
給与収入 所得 国保料 国民年金 雇用 基準所得
全額免除 1,570,000 1,020,000 1,020,000
4分の3免除 2,459,999 1,639,200 265,000 101,880 14,700 1,641,640
(40才以上) 2,547,999 1,700,800 325,800 101,880 15,300 1,702,980
半額免除 3,283,999 2,216,000 333,000 203,760 19,704 2,216,464
(40才以上) 3,387,999 2,288,800 406,900 203,760 20,328 2,290,988
4分の1免除 4,039,999 2,788,800 400,700 305,640 24,264 2,790,604
(40才以上) 4,149,999 2,878,400 488,300 305,640 24,900 2,878,840
個人事業者については、前述の理由で例示はできないが、所得と社会保険料が同程度なら同程度の『基準所得』になるので、目安にはなると思う。
こうして見ると、独身で326万円程度・配偶者を扶養していれば415万円程度の収入があっても一部免除可能なので、ちょっと納付が大変と感じたら、未納にするよりは役所や社労士に相談した方が絶対にいい。
しかも、ここでの想定は、生命保険や民間の介護保険・地震保険等には一切加入しておらず、医療費控除もゼロ・前年や前々年も可能な限り免除申請していた場合なので、それらの控除がある場合やそれまで国民年金を満額納付していたという場合は、さらに所得が高くても免除の対象になる可能性が高い。