労働者以外を労働者として扱っていたら
ここまで述べたような『労働者でない』方を、知らずに労働者として扱っていたらどうなるか。
時間外労働に対してはきちんと割増賃金を払い、年休も最低年5日与えているのだから、結果的に労働者でなくても別にいいことではないかと思うかもしれない。
・保険料を支払っていてもダメ
問題は、何かあったときだ。
この方が労働災害によって被災しても、離職しても、補償は何もない。
毎年7月10日(労働保険料の申告・納付期限)までに、その方の分を含めて労災保険料と雇用保険料を申告・納付し、雇用保険料については、毎月の給与や賞与から労働者負担分を徴収し続けていたとしてもだ。
この場合は、『間違って払い続けていた』ことになるので、その分の保険料は、直近2年分は戻してもらうことは可能だが、逆に言うと救済措置っぽいものはその程度しかない。
気付いた方は気付いたと思うが、『48.「業務委託契約」でも労働者?』の『業務委託のつもり』だった場合でいえば、『労働者性が強まる』要素としての『労働保険料の適用対象』という事実は、メインの『使用従属性』の下のサブ項目『補強要素』4項目の最後にある『その他』の項目の中のそのまた5項目の中の1つに過ぎない。優先順位は低いのだ。
そもそも『保険』というものは、保険料を支払い、それ故に保険事故が生じた場合に保険給付を受け取るというのが基本だ。民間の保険で保険料を支払っているのにイザというとき給付がないというのは、支給条件違反を別とすると、故意・重過失・犯罪行為や病歴詐称など特殊な場合に限られるだろう。この基本は労働保険においても違いはない。
しかし労働保険においては、保険料の支払いと保険給付との関係は、民間の保険ほどには重視されない。保険料を支払っていても『労働者性』がなければ支給されないのだ。
・雇用保険は入口に関門
それでも雇用保険の場合は、役員や『事業主』(法人代表も含む。以下同じ)の同居の親族を加入させようとする際に、先に述べたように資料審査があり、そこの関門を問題なく通過しているのだから、その後も労働様態がそのままなのであれば、雇用保険の給付についてはまず間違いはない。
この場合は、『保険料を払っていた』ということよりも、保険者たる国の機関であるハローワークが『労働者と認めていた』という事実が大きいのだと言える。
労災保険も保険者は同じく国だが、雇用保険の被保険者だからといって無条件で労働者と認められるわけではない。これは、ハローワークと監督署の仲が悪いわけではなく(個人的にはそういう場合もあるかもしれないが)、監督署長は監督署長で独立して労働者性を判断するからだ。
以前、法人代表の別居の親族という関係の労働者(当然、雇用保険の被保険者)が、就業中に目のケガで病院を受診した労災があった。病院代を請求する〝労災5号様式〟という書類を普通に病院に送り、それが監督署に届くと、姓が同じだったため、その関係性を詳しく聞かれた。
幸い問題なく労災適用となり、間もなく回復したが、目のケガなので、最悪の事態を想定すれば監督署がこだわるのも無理はない。
このときは、聞かれなかった『雇用保険の被保険者』という事実についても説明したが、労働者認定の傍証の1つにはなるだろう。
同居親族のアルバイトは要注意
問題は、役員の場合はちょっと考えられないが、人手が足りないときに事業主の同居の親族(高校や大学の休み中のお子さんなど)をアルバイトで1日だけ雇い、ケガをしたような場合だ。
この場合は、雇用保険はそもそも適用の余地はない。
また、ケガをしたアルバイトがお子さんの友達など赤の他人なら、たまたま初めて来た人が現場に入ってすぐにケガした場合でも、問題なく労災は適用になるが、これが同居の親族となると原則としては労働者でないので労災保険の適用はない。
『46.事業主の隣の息子は労働者』で触れたように、他の労働者がいることを前提として、労働条件が他の『労働者』と一緒であり、待遇面でも優遇されている状況になければ、例外として『労働者』として雇うことも可能な場合もあるが、『労働者性』の証明は結構大変なことになってくる。
事業主たるもの、その辺の準備は事前に怠りなくやっておくべきだ。
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