51.労働者以外のつもりが労働者!

労働者を労働者以外として扱っていたら

 

 逆に、会社役員や、業務委託や家事使用人など労働者以外として扱っていた人が、労働者であった場合はどうなるだろう。
 

業務災害の場合


 まず、業務中にケガをした場合を考える。

 労災保険は強制保険であり、条件が合致している限り直ちに被保険者であり、もし、保険料を支払っていないならそれは単なる未納状態で、被保険者の資格には関係ない。

 労災保険では、保険料を支払っていなくても『労働者』であれば給付がある。
 強制保険でも、たとえば国民年金のように、保険料の納付が支給条件となっているものもあるが、これは本人に保険料の支払い義務があるからだ。

 労災保険に限って言うと、保険料の負担も納付も事業主だけにその義務があるので、働いている人にとっては、会社が保険料を支払っているかどうかは分からない(事務担当だと分かるだろうが)。
 本人に責任のないところで未納があったとしても、保険給付に影響が及ぶことはない
 

・保険料は追加で支払い

 まず、労働者と認識していなかったのなら、普通その方の分の労働保険料は計上していないだろうから未納状態だ。時効にかかっていない過去2年分の労働保険料は再確定して追加で支払わなければならない。

 後で詳しく述べるが、万一労災適用事業にもかかわらず労災加入手続きをしていない期間に労災があった場合、事業開始から1年経過後なら保険給付の40%、行政機関から加入の指導を受けていた場合は保険給付額全額を事業主から徴収する。そのままだが『費用徴収』という。

 まっとうな事業主の感覚なら、労災加入せずに労働者を働かせるというのは、無保険車を商売で走らせるようなもので、まずあり得ない。

 労働者以外として扱っていた方が思いがけず労働者だった!という場合、その事業として労災加入はしているだろうから、こうした『保険給付の○○%を徴収』という費用徴収の対象にはならない。
 

・民事上の責任


 ということで、ほぼ間違いなく労災の給付対象にはなる。ただ、喜ぶのはまだ早い。
 業務上の災害があったとき『労働者』であれば労災保険が適用になるのだが、ものの順序としては…

『労働者』であればまず事業主に労働基準法上災害補償の責任が生じ、これをカバーするために労災保険が使われる

     …ということになる(誤解を恐れず超ザックリと説明すると、こうなる。)。

 労災保険がカバーしない受傷後最初の3日間の休業補償給付を別とすれば、労災保険の補償範囲は労基法上の補償範囲を大きく超えるので、労災保険が適用になれば労基法上の災害補償の責任はほぼ免れる。

 ただ、補償責任はこれに留まるわけではない。
 業務災害となると、使用者は、民事上の使用者責任も問われることになる。

 理論上厳密にいえば、使用者が『被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をし…中略…ても損害の発生を免れなかったこと』を立証しきれるときは、責任を免れることになるが、現実には不可能に近い。

 さらに、これは労働者以外でも対象になり得るが、安全配慮義務を怠った責任等(債務不履行責任)も問われる。
 『安全配慮義務』は、『ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において(中略)、当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務』とされる。

 特に労働者の場合には、労働契約法第5条で『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする』と規定されている。

 これも『生命及び健康を危険から保護するよう』十分配慮していたと証明できるときは、その責任も問われないこともあり得ることになるが、これも現実には難しい。

 こうした民事上の責任も発生するので、その損害補償額が労災保険の支給額を大きく超えることもある。また『慰謝料』などは、労災保険給付には元々含まれていない。
 こうした負担も頭に入れておかなければならない。
 

労働者としての賃金の支給


 労災の話が長くなったが、業務委託等として扱っていた方が『労働者だった』場合、当然だが労働時間に応じた賃金の支払いが必要になる。

 その『労働時間』が、法定労働時間を超えていたり、法定休日や深夜に係ったりする場合には、当然割増賃金の対象だ。
 

・出来高払いの場合

 出来高払いのときは、最低でも1ヶ月の報酬が、
        『最低賃金』 × 『労働時間』
を下回るようなら、最低賃金法違反なので、差額を支払わなければならない。

 また、その労働時間が割増賃金の対象となれば、その支払いも必要になる。さらに、労働者として計算しなおした『出来高払制の保障給』(37.歩合給の最低賃金参照)を下回るようならその支払いも必要だ。
 

・定額だった場合

 稼働時間を定めずに毎月定額の報酬だった場合は、労働時間が『1日8時間・週40時間・週6日』を超えていたり、深夜の時間帯があれば、その分の割増賃金が必要になる。

 この場合の割増単価は、その定額の報酬を基にして基礎賃金を計算し、そこから算出することになる。数式は省くが、たとえば『月50万円』契約の場合、時間外の割増単価は3,600円/h程度以上にはなる。

 

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2023年05月16日