労働時間・休日規制の例外 2
労働基準法の適用除外
公務員は、労働者であることには何の疑いもないが、労働基準法が全部または一部適用除外になっている。船員についても意味合いは違うが、一部適用除外だ
① 国家公務員 全面的に適用除外
② 地方公務員 一部適用除外
③ 船員 一部適用除外
ただし、行政執行法人(以前の独立行政法人)の職員や、公務員でも現業の方は、労働基準法が全面的に適用される。ということは、労働時間・休日の規制についても、一般の労働者と同様の規制がある。
国家公務員は全面適用除外
国家公務員については、労働基準法制定当初(1947年)は全面適用だったが、その後国家公務員法の施行により、全面適用除外となっている。
地方公務員は、労働時間・休日規定は適用だが…
地方公務員についても、国家公務員と同様の経過をたどったが、地方公務員の場合は労働基準法の『一部適用除外』であり、あまり意味のない『比率』であることは承知の上だが、全138条のうち約8割は除外されていない。
地方公務員について労働基準法が除外になる部分は、以下に記した(地方公務員法58条3項)。
なお、地方公務員の勤務条件については、『条例で定める』ことになっている(同24条5項)。
・地方公務員が除外される労働基準法の条文
2条
『労働者と使用者が、対等の立場において決定すべき』等、労働条件の決定
14条2.3項
有期労働契約に関する規制部分
24条1項
賃金支払いの原則で、直接払い・全額払い・通貨払いの部分
32条の3~5
フレックスタイム・1年単位や1週間単位の変形労働時間制
38条の2 2.3項
事業場外労働のみなし労働時間が所定労働時間を超えるときの労使協定部分
38条の3
専門業務型裁量労働制
38条の4
企画業務型裁量労働制
39条6~8項
年休の計画的付与・年5日の取得義務部分
41条の2
管理監督者
75条 ~ 93条
災害補償・就業規則の部分
102条
『労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。』(全文)
意外と少ないと思うかもしれないが、適用除外はこれで全部だ。
・労働時間・休日の規定は労働基準法適用
ここで、32条の労働時間『1日8時間・週40時間』・35条の休日『週1休』は除外されていない。従って、労働時間・休日に限って言えば、地方公務員は労働基準法に守られていることになる。つまり、地方公務員も法定労働時間は民間と同じだ。
ただ、前項の最後にあるように、労基法102条は適用除外なので、監督署の権限は及ばないという違いはある。
さらに、時間外労働・休日労働をさせるために必要な労使協定(有名な『36協定』)条項の36条も除外されていない。
これだけ見ると、地方公務員についても『1日8時間・週40時間』の法定労働時間を超え、『週1休』の法定休日に働かせるためには、36協定の締結・届出が必要と思われる。
・36協定は不要・『臨時』の判断も行政官庁
しかし、《官公署の事業については36協定は不要》(1948.7.5労働基準局長通達)となっているので、実際には36協定は不要となる。
また、除外されていない労働基準法33条では、『公務のため臨時の必要がある場合においては、…中略…官公署の事業に従事する国家公務員及び地方公務員については、…中略…労働時間を延長し、又は…中略…休日に労働させることができる』となっている。
これについても、「元々予定していて『臨時の』必要でない場合は?」とツッコみたくなるところだが、これについても《「公務のために臨時の必要がある」か否かについての認定は、一応使用者たる当該行政官庁に委ねられており、広く公務のための臨時の必要を含むものである》(1948.9.20労働基準局長通達)ということだ。
つまり、事実上行政官庁が『臨時の必要』だと言ったら、使用者(行政官庁)が認定権限を持っているので、必ず『臨時の必要』があったことになるというカラクリだ。
こうした運用には個人的には疑問があるが、今もこれら通達が生きているということは、実務的にはそういうことになっていると押さえるしかなさそうだ。
・割増賃金も、原則適用
さて、気を取り直して、地方公務員のこうした残業時の割増賃金について考える。
『割増賃金』については、時間外・休日・深夜とも、労基法37条に規定されている。前項の通り、37条は除外されていないので、普通に有効。民間と同じ扱いである。
ただし、これについても職種によっては別の特別法で除外され、割増賃金どころか残業代が一切支払われない場合もある。たとえば『給与の一策31.教員の労働条件』でも触れたが、教員の場合は『教育公務員特例法』により、ごく一部の例外を除いて残業代は一切払われない。
このように、原則としては地方公務員は労働時間・休日に関しては規制のワク内にいる。ただ、様々な特別法や通達で簡単にそのワクから外れてしまうため、実際上労働基準法の適用外と言った方が近い。
船員は、船員法による
③船員については、労働様態が通常の労働者とは相当違うため、言葉の定義や基本的事項・罰則等以外については労働基準法から除外し、『船員法』という別の法律によることになっている。
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