₁₇₆.労災の遺族(補償)年金は153~245日分



遺族補償年金

 
 業務災害で亡くなった場合、労働基準法の最低基準は『平均賃金1000日分』だけだったが、労災保険では生計を維持していた一定の遺族に『遺族補償年金』が支給される。

 労災保険の年金の目的は主に被災者や遺族の生活保障なので、本人が亡くなった場合に年金が受けられるのは『その収入によって生計を維持していた』方に限られる。
 ただ ー₁₄₉.『生計維持関係』ってどういう関係?ー でも書いた通り、その方の収入が一部でも家計に貢献していれば対象になる。

 以下にその対象者(受給資格者)の順位を示すが、これは遺産相続のように『配偶者と親は2:1』というような仕組みではなく、より早い順位の方(たとえば妻)が100%受給できる。子や父母・兄弟などで最先順位者が複数いる場合はその方々で等分となる。
 

遺族補償年金をもらえる人(受給資格者)

 
  被災者死亡時の状況                   続柄

①                              妻
① 60才以上      又は          障害状態の 夫
② 18才到達年度末まで 又は          障害状態の 子
③ 60才以上      又は          障害状態の 父母
④ 18才到達年度末まで 又は          障害状態の 孫
⑤ 60才以上      又は          障害状態の 祖父母
⑥ 18才到達年度末まで 又は 60才以上 又は 障害状態の 兄弟姉妹
⑦ 55才以上の                       夫
⑧ 55才以上の                       父母
⑨ 55才以上の                       祖父母
⑩ 55才以上の                       兄弟姉妹

※ ①~⑩すべて、生計維持関係にあった者に限る
※ 障害状態とは、労災保険の障害等級で5級以上(厚生年金で少なくとも2級以上)
※ ⑦~⑩は、60才到達までは支給されない(若年停止)
 

 「何で夫が2人も出てくるんだ。若い夫と年配の夫がいる場合は年配の夫が優先されるということか?」という方には日本の民法の重婚禁止規定をご理解願うしかないというのは冗談だが、妻以外の要件がごちゃごちゃしているのはその通りだ。

 もっとも労災保険上は、事実上婚姻関係と同様の事情にあった(内縁関係にあった)者は配偶者とみなす。
 

・ 兄弟が夫より優先される場合も!

 
 被災者に『妻』がいる場合は(ほぼ)何がどう転んでも妻に受給権がある。
 「子のいない若い妻は5年で打切りと聞いたが…」という勉強家がいそうだが、それは厚生年金の話だ。労災の場合は再婚等がない限りずっと支給される。

 『妻』以外は色々条件によって順位が変わるので、単純に配偶者だからといって受給できるとは限らない。

 妻の死亡時夫が59才・妻の兄が60才なら、夫は第⑦順位・妻の兄は第⑥順位なので、年金は妻の兄に支給される。もちろん両者ともに妻と生計維持関係にあった場合はだ。

 妻と夫の扱いの違いについては最近、遺族厚生年金の方で問題になっているので、そのうち改定される可能性はある。
 

遺族補償年金は 153~245日分

 
 遺族補償年金の額は、これを受給する資格のある遺族(上記①~⑩に該当する方)の人数により、次の通りとなっている。

遺族の数   遺族補償年金の額(『給付基礎日額』の)

 1人     153日分 (55才以上か障害状態の妻なら175日分)
 2人     201日分
 3人     223日分
 4人以上   245日分
 

・ 特別年金・一時金も支給

 
 この場合は年間の賞与を基礎とした『遺族特別年金』も同じ日数分支給されるので、大体亡くなる前の年収の42%~67%は補償されることになる。
 これとは別に、一時金の『遺族特別支給金』300万円も支給される。
 

・ 対象遺族が増えるのは、胎児出生のみ

 
 子・孫・兄弟姉妹は18才の年度末で『受給資格者』から外れるので、その時点でこの人数にはカウントされなくなる。『障害状態』によって対象となっていた方がその状態を脱した場合も同様だ。

 また、上記要件は死亡時点で判定するので、その後に一緒に住むようになっても増えることはない。
 唯一増えるのは、胎児だった被災者の子が出生したときだけだ。そのときは、被災者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子とみなされる。
 

・ 受給資格者が減る場合

 
 対象となる遺族が減る場合は、上に書いた場合も含めて遺族が次の状況になったときだ。

ア. 死亡した
イ. 婚姻(事実婚含む)した
ウ. 直系親族以外の養子になった
エ. 離縁により、被災者との親族関係が終了した
オ. 子・孫・兄弟姉妹が18才到達年度末になった
カ. 障害により受給資格者となっていた方が、障害状態でなくなった
 

 これらの場合は遺族補償年金の受給資格はなくなるので、それによって受給資格者がだれもいなくなったら、年金は打切りとなる。
 少々補足すると、
 

 イ.は事実婚も含むので、単に婚姻届けを出さないだけで実態が婚姻状態なら、当然受給できなくなる。

 ウ.は、たとえば妻が被災者の親の養子になったときなどは含まない。

 エ.『離縁』とは『養子縁組の解消』のことで、最近話題になる婚姻関係終了届の提出による俗にいう『死後離婚』とは違う

 カ.は、その障害状態だった方が夫・父母・祖父母・兄弟姉妹で被災者死亡当時55~59才だった場合は、『障害により』受給資格者となっていたわけではないので資格はなくならないが、⑦位~⑩位へ順位が下がることになる。
 

1000日分まではまとめてもらえる(前払一時金)

 
 この『遺族補償年金』、年金が原則だが、1000日分まで(200日分の倍数に限る)はまとめて一括で受給することもできる。期限は支給開始決定から1年間だ。『遺族補償年金前払一時金』という。

 年3%の利息については『₁₇₂.労災保険の障害補償給付』のところの『障害補償年金前払一時金』と同じ。
 1000日分一時金で受給した場合でいうと、給付基礎日額1000日分を年3%の元利均等払ローンで借り、年間153~245日分のペースで年金で返済していき、元利金をすべて返済し終わったらまた年金の支給が始まるイメージだ。
 

・ 若年停止者も請求可

 
 『遺族補償年金をもらえる人』の表で⑦~⑩の、被災者死亡時55~59才の方(若年停止者)が最先順位の場合も、前払一時金は請求できる。
 

スライド・最低・最高限度額も適用

 
 遺族補償年金についても賃金スライド制が適用になるのはもちろん、『₁₇₅.給与水準や年代による労災年金額の変更』で述べた『最低・最高限度額』制度も適用される。

 たとえば24才の労働者が業務災害で死亡し、22才の妻と1才の子が残されたとする。
 当初は妻が201日分の年金を受給していたが、25才で子連れで再婚し、受給権を失った…というケースだ。

 この場合、そのとき4才位になっている子に受給権が移動し、153日分の年金を受給することになる。

 もし、被災者の給付基礎日額がその年代の最低限度額程度だったとしても、被災者が生きていた場合の年齢が30才・35才・40才の節目を迎えるたびに『最低限度額』は上昇するので、その都度『153日分』の年金が上がっていくことになる。

 もっともこの例ではその亡き父親が40才のときには子は17才位なので、その翌年あたりで年金は打切りになる。

なお、受給資格を持つ方がいったん結婚で資格を失ったら、3日で離婚しても受給資格が戻ることはない

 

次 ー ₁₇₇.労災の年金受給者がいなければ一時金 ー

 

※ 追加
・ 受給資格者が減る場合  イ.の補足を追加  '24.10.08

 

2024年10月01日