障害補償給付の7級以上は年金
障害補償については、労基法ではその障害等級に応じて平均賃金の『50~1340日分』だった。つまり『1回ポッキリ』の補償だったのに対して、労災保険の障害補償は全1~14級の半分、すなわち1級~7級までは『障害補償年金』として定められている。
つまり、7級以上の場合、障害に変更等がない限り、『給付基礎日額』(ー₁₆₉.給付基礎日額と平均賃金ー 参照)131~313日分を毎年、一生涯を通じてずっと年金として受けられることになっている。
8級以下の場合は労災保険でも一時金で、労基法の障害補償(50~450日分)に対して56~503日分とさして違いはないが、これにも後で述べるように『特別支給金』がつく。
・ 『障害特別年金』は賞与額が基準
ということで、1~7級は年金給付だ。『障害補償年金』には、前回の『傷病補償年金』の場合同様、賞与額を基準とした『障害特別年金』が支給される。
・ 『障害特別支給金』は8級以下の一時金にも支給
一時金の『障害特別支給金』も、傷病特別支給金同様に支給される。この特別支給金は7級以上の年金だけでなく、一時金の8~14級の場合にも支給される。金額は342万円(1級)から8万円(14級)までとなっている。
障害補償給付等の支給額
前回の傷病補償年金のときと同様に、毎月勤労統計調査による2023年の平均的労働者(給与月額32万9778円・賞与合計79万2776円・年収475万0112円)の場合で、各障害等級のときの給付額を参考値として計算すると次のようになる。
なお、年金額は赤字・一時金は青字とした。
障害等級 労働基準法┏━━━━━━━━━━ 労災保険 ━━━━━━━━━━━┓
(一時金) 障害補償給付 障害特別年金 給付額 障害特別一時金
平均賃金の 給付基礎日額の 算定基礎日額の (参考) (一時金)
1級 1340日分 313日分(年金) 313日分 407万円 342万円
2級 1190日分 277日分( ” ) 277日分 360万円 320万円
3級 1050日分 245日分( ” ) 245日分 319万円 300万円
4級 920日分 213日分( ” ) 213日分 277万円 264万円
5級 790日分 184日分( ” ) 184日分 239万円 225万円
6級 670日分 156日分( ” ) 156日分 203万円 192万円
7級 560日分 131日分( ” ) 131日分 170万円 159万円
8級 450日分 503日分(一時金) 545万円 65万円
9級 350日分 391日分( ” ) 424万円 50万円
10級 270日分 302日分( ” ) 327万円 39万円
11級 200日分 223日分( ” ) 242万円 29万円
12級 140日分 156日分( ” ) 169万円 20万円
13級 90日分 101日分( ” ) 110万円 14万円
14級 50日分 56日分( ” ) 61万円 8万円
1級~14級の障害の程度
それぞれの等級の障害の程度については 労災保険法施行規則別表1にかなりのボリュームで掲載されているが、現実に発生し得るあらゆる障害を網羅するのはどう考えても不可能だ。そうした場合は、この『別表1』に準じて扱う。
別表そのものは厚労省のサイトですぐに確認できるのでそちらを参照してもらうとして、ここでは代表的な場合を示した。
また、『外貌の醜状』については、以前は男女間で格差があったが、2011年の改正で、より重度とされてきた女性の等級に合わせる形で男女間の格差はなくなっている。
1級 両眼失明・神経.精神障害で常時要介護・両上肢の肘関節以上の喪失等
2級 神経や精神の著しい障害で随時要介護・両上肢の手関節以上の欠損等
3級 神経や精神の著しい障害で終身労務不能・両手指全喪失等
4級 聴力の完全喪失・両眼視力0.06以下・1上肢のひじ関節以上の欠損等
5級 神経や精神の著しい障害で、特に軽易なものを除いて労務不能等
6級 両眼視力0.1以下・咀しゃくや言語機能の著しい障害・脊柱の著しい変形等
7級 1眼失明かつ他眼の視力0.6以下・両睾丸喪失・外貌に著しい醜状等
8級 1眼の視力0.02以下・1足の指全喪失等
9級 両眼視力0.6以下・両眼視野狭窄・1耳の聴力喪失・外貌に相当の醜状等
10級 1眼の視力0.1以下・咀しゃく及び言語機能の障害・下肢の3cm以上短縮等
11級 両眼まぶたの著しい欠損・10歯以上に歯科補てつ・脊柱変形等
12級 1耳の耳かくの大部分欠損・手の小指喪失・外貌に醜状等
13級 1眼の視力0.6以下・1眼の視野狭窄・5歯以上に歯科補てつ
14級 3歯以上に歯科補てつ・四肢の露出面の掌大の醜状・局部神経症状等
障害が2つ以上の場合(併合)
業務災害等による障害はいくつか重なっていることも多い。同一の事故により発生した障害が複数ある場合は、次の順序で算定する。これを『併合』という。
① 重い方の等級とする
② 次の要件に当てはまる場合は、その等級とする
⑴ 13級以上が複数ある場合は、重い方を1級繰上げ(※例外あり)
⑵ 8級以上が複数ある場合は、重い方を2級繰上げ
⑶ 5級以上が複数ある場合は、重い方を3級繰上げ
※ 9級と13級のときのみ両者合算とする。これは、9級を1級繰上げ8級(503日分)とすると、9級(391日分)+13級(101日分)の492日分を上回るので、これを回避するための措置。下の表では㊕とした。
つまり、3つ以上の障害が生じても、それらの上位2つの障害によって障害等級が算定され、第3以下の障害は考慮されない。
これを表にすると次のようになる。ただし、ある障害により派生した神経症状は1個の障害と評価する。
軽い方の障害
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2
3 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 3
4 1 1 2 2 2 3 3 3 3 3 4
重 5 2 3 3 3 4 4 4 4 4 5
い 6 4 4 4 5 5 5 5 5 6
方 7 5 5 6 6 6 6 6 7
の 8 6 7 7 7 7 7 8
障 9 8 8 8 8 ㊕ 9
害10 9 9 9 9 10
11 10 10 10 11
12 11 11 12
13 12 13
14 14
これはあくまで『同一の事故』による障害の場合で、それまでにあった障害と『併合』することはない。
年金が一時金になる場合
1~7級の『年金』でも、年金を『一時金』として受取る場合が2つある。
・ 前払一時金
障害補償年金支給決定から1年間以内なら、労基法の『障害補償』の日数を限度として、請求により、その後に支給されるはずの年金を一時金として受取ることができる。これを『障害補償年金前払一時金』という。
金額は、上の『障害補償給付等の支給額』の左側の列に示した労基法の最低保証(1級1340日分~7級560日分)までで、満額あるいは200日分の倍数となる。もちろん基準は『給付基礎日額』だ。
この場合、その後何年かにわたって支給されるはずの年金を先にもらうことになるので、当然利息が付く。そのため年金が支給されなくなる期間は、前払いされた日数分を単純に年金額で割った年数よりは長くなる。
この利息は現在年3%(1年後以降・単利)となっていて、最近引下げられたとはいえまだ高率なので、住居の改築等『絶対、先にもらわないと困る!』という方や『俺は資産運用はプロ級。確実に年平均3%以上で運用できる!』という自信のある方以外にはお勧めしない。
・ 障害補償年金差額一時金
これは、障害補償年金を受給中の方がその業務災害以外の原因で亡くなったとき、それまでに受給した年金額が上記労基法の最低保証日数(1340~540日分)に満たないときに、その差額を一定の遺族に支給するもの。一定の遺族の順位は次の通りだ。
生計が被災者と
同一の ①配偶者・②子・③父母・④孫・⑤祖父母・⑥兄弟姉妹
同一でない ⑦配偶者・②子・③父母・④孫・⑤祖父母・⑥兄弟姉妹
※ 追加
『年金が一時金になる場合』を編集上の都合でここに追加しました。 '24.9.30