59.残業『平均80時間以内』は合計で管理

 

 36協定では、『通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間(労使で協定した通常の限度時間)を超えて労働させる必要がある場合』に、これをオーバーできる時間数を協定できる。36協定の『特別条項』という。
 この『特別条項』にも上限がある。

時間外労働(勤務日の時間外+所定休日の労働)について、
     ① 45時間を超える回数は年間6回以内
     ② この期間を含めて年間720時間以内

残業時間(時間外労働+法定休日労働)について、
     ③ 2~6ヶ月平均で80時間以内・単月100時間未満

 ③の『2~6ヶ月平均80時間以内・単月100時間未満』というのは、前回軽く触れたとおり『普通の』36協定でも同様だが、単月の時間外労働の限度45時間で100時間ということは、最低でも休日労働だけで55時間ということになる。

 法定休日は月4,5回なので、法定休日1回に8時間ずつ働いたとしても5回で40時間だ。前にも書いたが法定休日には法定労働時間がないので、『1日8時間』という数字そのものには意味はないが、休日労働月55時間ということは、5回の法定休日すべてで11時間以上働くことになる。4回なら13時間45分ずつだ。

 時間外労働には所定休日も含めるので、これらを月45時間以内に抑えておいて法定休日だけ集中的にこれだけ残業をテンコ盛りにするということは、通常あり得ない。平均80時間でも似たようなものだ。

 常識的には③の『2~6ヶ月平均で残業80時間以内・単月100時間未満』も、特別条項を念頭に置いたものと考えてよい。
 

・労災認定基準は『週40時間』超で評価


 この『2~6ヶ月平均で80時間以内・単月100時間未満』という基準は、脳・心臓疾患での労災認定基準からきている。

 『発症前1か月間に(休日労働を含めて)おおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、(それだけで)業務と発症の関連性が強いと評価できる』(脳血管疾患及び虚血性心疾患等〈負傷に起因するものを除く。〉の認定基準・2010.05.07改正)とされているからだ。(『』内のカッコ内広田)。

 ただし、労災認定基準の方は、『週40時間を超えた』労働を『時間外労働』としているので、週44時間の特例事業の場合は、これより月17時間程度少ない残業時間でも認定ということになる。

 気を付けてほしいのは③の単月100時間『未満』で、残業の規制としては月100時間ちょうどだと1発アウトだ。ここは、100時間『以内』か『未満』かで国会で結構もめたところだが、関係者からは『オイオイそこかよ?』という感想も出た。

 元々の労災認定基準が『おおむね○○時間』なので、『以内』か『未満』かでもめたところであまり生産的ではないからだ。とにかく法律は100時間『未満』に決まった。
 

平均を取ってからでは遅すぎる


 それより問題は『2~6ヶ月平均80時間以内』の方だ。
 労基法は『取締法規』でもある。取り締まる側としては『2~6ヶ月平均80時間以内』に収まっていない部分があれば『違法』と判断できるので、この平均で計算することになる。

 しかし、事業者側としては、平均を計算してから『○月~△月平均が違法だった!』と分かったところで、それからでは手の打ちようがない。

 残業が多い会社では、事前に計画的に労働時間を管理するのは前提として、前月までの時間外労働・休日労働時間の集計がととのった時点で、絶対的なリミットとして当月までの2~6ヶ月平均残業時間が80時間以内になるように『今月』の残業時間の限度を割り出し、最大でもその範囲内に抑える必要がある。
 

・平均でなく、合計の残業時間からリミットを割り出す


 具体的には、平均80時間ということは、2ヶ月~6ヶ月の各合計『total上限』が、160時間・240時間・320時間・400時間・480時間ということになるので、この時間数から各々前月まで1ヶ月~5ヶ月の残業時間の合計を引いたものの最少が、『今月』の残業時間のリミットになることが分かる。

 たとえば、6月までの残業時間(時間外+法定休日)が次表の左の状況だったなら、それまでの1~5か月間の合計は『6月』欄の右に記したようになる。

        6月  5~6月計  4~6月計 3~6月計  2~6月計
2月  45h                         ⤵
3月  95h                   ⤵     ⤵
4月  60h             ⤵     ⤵     ⤵
5月  85h       ⤵     ⤵     ⤵     ⤵
6月  70h  70h   155h   215h   310h   355h
total上限   160h   240h   320h    400h   480h
7月上限    90h   85h   105h    90h   125h

 この場合、7月を含めたtotal上限から2~6月各合計を引けば、各々の合計からの7月上限が算出できる。この最小値『85h』が、実際の7月の残業時間のリミットとなる。
 もちろん、単月100h以上はあり得ないので、最小値が100以上の場合は『100h未満』がリミットだ。
 

・Excelで管理するには

 冒頭の上限①・②についてきちんと管理していることを前提として、これをExcelで管理すると、次のような表が考えられる。

  A B C D E F G h
残業 上限 1前 2前~ 3前~ 4前~ 5前~
36 2 45 85 85 104 99 134 194
37 3 95 99.999 115 120 139 134 169
38 4 60 65 65 100 105 124 119
39 5 85 85 100 85 120 125 144
40 6 70 75 75 95 80 115 120
41 7   85 90 85 105 90 125
42 8              

 右の5列は、たとえばF41のセルには『=320-SUM($B38:$B40)』を入れておく。慣れた方には蛇足だろうが、320h(『3ヶ月前~当月』の残業上限)から『1~3ヶ月前の残業合計』を引く意味だ。これで、F41では、
        〝 320h ー(60h+85h+70h)= 105h 〟
の計算をやってくれる。

 この右5列の最小値を『C列』に出力すれば、『2~6ヶ月平均80時間以内』に収めるための、当月の残業上限(この場合は85h)が分かる。ここでは、最小値が100h以上のときには『99.999』を表示するようにしている。たとえばC41には『=MIN($D41:$H41,99.999)』を入れておく。

 一旦こうしておけば、後は毎月残業時間を集計する都度『残業』列に前月の残業時間を入力すれば、当月の『上限』列に当月の残業上限が表示される。

 実際には法改正やメンテナンスのために、セルに入れる数式内の160,240,…,480や99.999等の数字は定数として分かりやすい場所に入れておいて、各数式でこれを絶対参照($○$△)するようにした方が良い。また、計算に必要な数字が未入力の場合は、見づらくなるので空白等を表示するようにする。

 

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※ 訂正します。

『特別条項にも上限が』
11行目  平均80時間 ➡ 100時間
18行目  一部加筆              '23.06.14
12行目  平均55時間 ➡ 55時間

・労災認定基準は『週40時間』超で評価
5行目  発祥 ➡ 発症            '23.06.23

※ メインタイトル変更

『特別条項』にも上限が  ➡  残業『平均80時間以内』は合計で管理
                                  '23.06.26

 

2023年06月13日