₁₈₃.労災年金受給者への学資の支給



労災就学援護費等

 
 労災年金の主な目的は生活保障だ。子どもや本人が学校や保育所・幼稚園等(以下『学校等』)に通っている場合は、それとは別に学資等がかかる。

 これを援助するのが『労災就学援護費』や『労災就労保育援護費』(以下『援護費』)で、この仕事も労災保険のワクの中でやっている。
 

対象者

 
 援護費の対象は、業務災害または通勤災害によって
 

① 死亡した被災労働者の遺族(補償)年金の受給権者または子
② 障害(補償)年金1~3級の受給者のうち、特に重篤な者
③ 傷病(補償)年金の受給者のうち、特に重篤な者

 
のうちいずれかで、学資等の支出が困難と認められる者であって、
 

① 受給権者本人または子学校に在学している
② 受給権者本人または家族が、就労のため児童を幼稚園・保育所等に預けている

 
方。ということになっている。

 ここで、『学資等の支出等が困難』でない例として厚労省は
 

労働者の死亡に伴う損害賠償金等の所得(実収見込)が6000万円を超える
 

ような場合を挙げている。(2022.3.31基発0331第27号)
 

大学の学資が出る場合・出ない場合

 
 ここで、子の遺族(補償)年金については普通(障害等がない場合)、18才の年度末で受給資格がなくなる(労災の遺族(補償)年金は153~245日分)ことを思い出して頂きたい。

 つまり、母子・父子家庭で親が業務災害で死亡し子どもだけが残された場合、この『援護費』も18才で打ち止めになる。つまり大学の学資は出ない

 これは、たとえ死亡した後に死亡した方の親(子の祖父母)と暮らし始めたとしても同様だ。この場合はたとえ祖父母の養子になっても子の受給権は消えないが、それも18才までが限度だ。

 理不尽な気もするが、『援護費』はその本体としての労災年金がなくなればもらえない。
 

・ 元々祖父母と同居の場合は可

 
 上の例で、元々祖父母と同居など生計維持関係にあった場合は話が別になる。

 その場合、18才未満の子が年金を受給するが、55才以上の祖父母も受給の資格はあるので、その後、子が18才年度末になったときに祖父母が60才以上なら、祖父母に年金受給権が移るが、
 

 18歳になったことにより遺族補償年金の受給権等を失った者であって、遺族補償年金受給権者と生計を同じくする大学等に在学する者  (※省略してあります)
 

には、引き続き援護費を支給することになっているので、この場合も対象になる。
 

支給額

 
 労災就学援護費等の支給額は、最近毎年のように変わっているが、2024年度現在は次のようになっている。カッコ内は昨年度の金額だ。
 

         2024年度 (2023年度)      2024年度 (2023年度)

幼稚園・保育所   9000円 (1万1000円)
小学校     1万5000円
中学校     2万1000円 (2万円)   通信制 1万8000円(1万7000円)
高等学校    2万円    (1万9000円)  ”   1万7000円(1万6000円)
大学      3万9000円          ”    3万円

 
・ さかのぼって受給も可

 
 ちなみに援護費は、昔は『請求のあった月から』の支給ということで、請求が遅れるとそれだけソンする仕組みだったが、今は『支給事由が生じた月から』の支給なので、請求が遅れても時効にかからない限りさかのぼって受給できる。
 

・ 『通常の修業年限』以内に限る

 
 たとえば一般の高校なら3年・短大なら2年・一般大学なら4年が『通常』なので、落第して卒業が伸びても受給期間は伸びない
 

・ 『高専』は、高・大それぞれと扱う

 
 高等専門学校(修業年限5年)の場合は、1~3学年は高校生扱い・4~5年は大学生扱いになる。
 

給付基礎日額(≒平均賃金)1万6001円以上だとダメ

 
 ここで、他の要件はすべて満たしても、給付基礎日額が1万6000円を超える場合は、労災就学援護費等は一切もらえない。給付基礎日額は必ず1円単位で端数はないので、1万6001円以上だとダメということになる。

 給付基礎日額1万6000円というと月給換算で48万円以上ということになるが、実際の遺族(補償)年金で20~33万円、障害(補償)年金で33~42万円だ(他の年金との調整で、減額になる場合がある)。

 とにかくこの給付基礎日額を超すと援護費の支給はない。援護費には『減額』とか『一部支給』とかはないので注意した方がいい。

 ただ、注意しろと言っても『給付基礎日額』はその原因となった業務災害前3ヶ月間の勤務状況と給与または年齢(最高限度額が関係してくる場合)でカッチリと決定されるので、意図的に操作できるものではない。
 

・ 審査請求しない方がいい場合も

 
 『注意』できるのは、この給付基礎日額に納得できずに審査請求等をするなどの場合に限られる。

 たとえば、妻と子2人(小学生と中学生)を残してご主人が労災で死亡した場合、年間で223日分の遺族補償年金が支給されるので、給付基礎日額が1万6000円キッカリだと遺族補償年金は、
 

1万6000円/日 × 223日/年 ÷ 12ヶ月/年

 
 で、月額29万7000円程度になる。

   ※ 実際にはこれに賞与に対応した分(遺族特別年金)が加わるが、ここでは考慮しない。
   ※ 基礎年金や厚生年金も支給される場合は労災年金は減額されるが、これもないとする。

 

 従って『援護費』を含めた支給額は月額

    ・ 遺族補償年金  29万7000円程度
    ・ 労災就学援護費  3万6000円(2人分)

        計     33万3000円程度

だ。

 ここで、給付基礎日額があと500円高いはずだと審査請求等をしてこれが認められたとすると、遺族補償年金は30万7000円程度(16500×223÷12)に上昇するが、給付基礎日額が1万6000円を超える影響で、就学援護費はなくなる。

 結局、月々の支給額は計2万6000円ほど下がってしまう。

 しかも、子どもは普通18才で『遺族等』の数から外されるので遺族補償年金もその時点で下がることになるが、『就学援護費』については大学等に進学する場合でもこの場合は継続して支給される。

 大学生の援護費は4年間で187万円ほどになるので、給付基礎日額変更があり得る場合は、子どもの進学希望や学校卒業後の妻の平均余命等も考えた方がいい。と言ってもほとんどタラレバの話になるかもしれないが。

 

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2024年10月29日