平均寿命到達でリターン10倍
ー ₁₅₇.産前産後は国民年金も保険料免除 ー で少し触れたが国民年金には『付加年金』という選択肢がある。
この『付加年金』、コストパフォーマンスの点でいえば日本最強の年金保険と言える。
なにしろ月400円の保険料で老齢基礎年金が月額200円増える。つまり2年で元が取れるのだ。20才から59才まで40年間480ヶ月『付加保険料』を払い続けたとすると、支払総額19万2000円に対して老齢基礎年金は年額9万6000円増える。
普通に65才から受給した場合、65才・66才の2年間で、支払った保険料はすべて取り戻したことになるので、67才以降は長生きすればするほどお得。ほぼ平均寿命の85才まで生きれば実に10倍のリターンということになる。
民間保険のように1人で何口も加入してそれだけ年金額を増やすようなことはできない(そんなことができるシステムにしたら、年金財政はおそらく速攻で破綻する)ので、金額的には限られるが、何度も言うがコスパは最強なので利用しない手はない。
付加年金の要件
この付加年金、付帯するための要件は、
① 第1号被保険者または任意加入被保険者
② 保険料を免除・猶予されていない(産前産後の免除期間は可)
③ 国民年金基金の加入員でない
ことだ。
① 第1号被保険者または任意加入被保険者
第1号被保険者は当然だが、任意加入被保険者、つまり59才までに老齢基礎年金が満額にならなかったので60~64才の間で任意で加入し保険料を支払っている方にも扉は開かれている。
② 保険料を免除・猶予されていない(産前産後の免除期間は可)
これはつまり『全額納付期間』でないとダメということだ。付加年金は老齢基礎年金を補充するものなので、たとえ『4分の1』でも免除になっていれば付加保険料は納付できない。
付加保険料の納付は、毎月分の国民年金保険料を満額納付することが前提となっている。例外は『産前産後の免除期間』だけで、これは前に書いたように全額納付期間『扱い』なので、付加保険料だけ納付することはできる。
気を付けてもらいたいのは、免除期間や猶予期間の保険料を後から『追納』する場合、そこで満額になっても『付加保険料』は追納できないということだ。
③ 国民年金基金の加入員でない
国民年金基金について説明すると記事何本分かにはなるので詳しくは書かないが、国民年金基金は付加年金とはライバル関係になる。
付加年金は前述した通りMax19万2000円の積立で年金額が9万6000円増えるのでコスパは絶大だが、19万2000円積み立てるには最低40年かかる。今風に言えばタイパ(タイムパフォーマンス)は悪いのだ。
国民年金基金の方は、コスパはそれほどでもないが、掛金の限度は『iDeCo』との合計で月6万8000円。付加保険料の170倍になる。
また、運用実績によっては老齢年金の原資を大きくふやす可能性もあり、また、これも全額『社会保険料控除』の対象になるので、最大年額81万6000円を所得から控除できる。
この両方に加入するのはちと虫が良すぎるということなのか、国民年金基金に加入している方は、付加年金には加入できない。
逆に、年間60日以上農業に従事する一定の方が加入できる『農業者年金』の加入者は、付加保険料の納付が必須となっている。
付加保険料の納付は『申出月』以後
付加保険料を納付する場合はその旨の『申出』が必要だ。そして『申出』した月分以降の期間についてだけ付加保険料を納付できる。つまり申出の前月分以前の分についてはさかのぼって納付することはできない。
『先月分の保険料の納付期限は今月末だから、先月分からお願い!』というのはダメだ。
それでは、付加保険料納付を『申出』してからうっかり納付を忘れたらどうなるか。付加保険料は本体の国民年金保険料に『付加』して払うものなので、本体たる国民年金保険料を納付して付加保険料だけうっかり忘れる事態というのは想定できない。
『うっかり忘れた』からには本体も同時に忘れたということになるだろう。当然付加保険料の納付期限も本体と同じく『翌月末日』だが、この期限を過ぎたら付加保険料の扱いはどうなるのか?
上の厳格な定めからすれば、期限が過ぎて未納状態になってしまったらそれからの納付はムリっぽい気もするが、こうして『申出』して一旦『付加保険料を支払う者』となっていれば、期限後2年間は本体と同じように納付することができる。
未納期間があっても可
ここでは説明の都合上、40年間ずっと付加保険料を納付し続けた場合を想定して試算しているが、この間ずっと『第1号被保険者』だったという方は少ないだろうし、第1号被保険者であっても、何らかの事情で未納にしてしまった期間がある方もいるかもしれない。
そういう方がどこかの時点で一念発起して保険料を満額納付し、さらに付加保険料も納付しようと思ったとき、それは可能なのか?
これは全く問題ない。過去の未納期間は未納期間として残るのはやむを得ないが、『これから満額納付して付加保険料も支払います』と申出すれば、その月分から『付加保険料を支払う者』となる。
改心?した方の未納の『前科?』は問われないのだ。
障害年金や遺族年金には無関係
付加年金は老齢基礎年金だけに付加される。
基礎年金には他にも『障害基礎年金』・『遺族基礎年金』・『寡婦年金』等があるが、これらの年金を受給することになっても、支払った付加保険料は全く反映されない。
唯一、36ヶ月以上付加保険料を支払った(ということは当然国民年金保険料も36ヶ月以上満額支払っている)方が死亡し、他に何の給付も受けない場合に一定の遺族に支給される『死亡一時金』が8500円加算されるだけだ。
繰上げ・繰下げ時は、同様に減額・増額される
老齢基礎年金の支給開始年齢は原則65才だが、けっこう知られているように最大で60才まで繰上げ、または75才まで繰り下げることができる。
この場合の年金の減額・増額率は、付加年金についても本体の老齢基礎年金と同様なので、満額の老齢基礎年金と満額の付加年金を受給できる場合には、年金額は次のようになる(2024年度価格)。
受給開始年齢 増減率 老齢基礎年金 付加年金 計
繰
60才 ー24% 62万0160円 7万2960円 69万3120円 上
62才6ヶ月 ー12% 71万8080円 8万4480円 80万2560円 げ
65才 ±0% 81万6000円 9万6000円 91万2000円
67才6ヶ月 +21% 98万8720円 11万6160円 110万3520円 繰
70才 +42% 115万8720円 13万6320円 129万5040円 下
72才6ヶ月 +63% 133万0080円 15万6480円 148万6560円 げ
75才 +84% 150万1440円 17万6640円 167万8080円
平均余命から考えれば70才より後への繰下げは、特に男性の場合は健康に相当自信がある方以外にはお勧めできないが、『付加年金+繰下げ』である程度の金額は確保することはできそうだ。もっともこれだけで生活…というレベルではない。