脱退一時金は、最高で支払い保険料の半額
最近は、海外から日本に住居を移して働く方が増えたが、個人事業所の場合、従業員5人未満や5人以上でも牧場や農園などの第一次産業・サービス業等だと、(狭い意味での)国民年金に加入することになることが多い。
こうした方々が短期間で帰国すると、納付した保険料が掛け捨てになる場合がある。そのため、次の要件を満たした方に限って、支払った保険料の最大約半額が、請求によって返還されることになっている。これを『脱退一時金』という。
・ 脱退一時金の要件
① 日本国籍がない
② 日本国内に住居がない
③ 国民年金や厚生年金の被保険者でない
④ 障害基礎年金の受給権を持ったことがない
⑤ 老齢年金の受給資格期間が10年未満
⑥ 納付済みの保険料が(満額の月額保険料の)6ヶ月分以上ある
⑦ 最後に被保険者資格を喪失した日(その日に日本に住所があった場合は日本に住所がなくなった日)から2年以内である
②『日本国内に住所がない』の規定により、この請求は転出届を出してから(ただし2年以内)に行わなければならない。
⑤の『資格期間が10年未満』というのは、10年以上あればどこに住んでいても日本の老齢年金の対象になるからだ。
なお、ここで④障害年金については書かれているのに遺族年金の記載がないのは、ちょっと考えれば分かる。
遺族基礎年金は被保険者の遺族がもらうものなので、海外から来た方が被保険者期間中に亡くなれば『被保険者死亡』ということで、当然(原則)18才未満の子がいれば子か配偶者に遺族年金が支給されるが、その場合は亡くなった本人の脱退一時金は出る幕がないので書いていないだけだ。
⑥の『納付済みの保険料が(満額の月額保険料の)6ヶ月分以上』というのは、支給額の算定は、支払った保険料『満額6ヶ月分』が単位となっているからだ。
・ 『資格期間』はゼロになる
脱退一時金を受けた場合、その『額の計算の基礎となった第1号被保険者であった期間は、被保険者でなかったものとみなす』ことになっている。要するに年金の『資格期間』としては計算しない…つまりゼロになるということだ。
支給額は保険料『満額6ヶ月分』ごとにその半分
支給額については細かく規定されているが、ザックリ言えば『保険料満額6ヶ月分ごとに(最大60ヶ月分)その半分』ということになる。さらにザックリと
『払った保険料の約半分』
でもいいだろう。
『満額』を強調するのは一部免除期間を想定するからで、実際に支払った保険料が満額(2024年度だと16,980円)何ヶ月分に相当するかが脱退一時金の根拠になるからだ。正確には
納付済期間 + 1/4免除期間×3/4 + 半額免除期間×1/2 + 3/4免除期間×1/4
(満額納付)
が『6』ヶ月に到達するごとに『6』とし、これを合計した数(『60』が限度)を『M』とすると、
脱退一時金 = 最後の年度の保険料月額満額 × M ÷ 2
になる(『M』はここでの説明のためだけの記号)。
たとえば、被保険者期間が9年(108ヶ月)で、2024年度中に帰国した方が
・全額免除期間 3年 (36ヶ月)
・4分の3免除期間 3年 (36ヶ月)
・半額免除期間 8ヶ月 (8ヶ月)
・全額納付期間 2年4ヶ月 (28ヶ月)
の場合は、
まず資格期間は9年で10年未満なので、脱退一時金の対象になる。
・ 納付額は
この方は72ヶ月(6年)にわたって保険料を納付しているが、納付『額』は、
28ヶ月 + 8ヶ月 × 1/2 + 36ヶ月 × 1/4 = 41ヶ月(分)
になる。41以下で6の倍数の最大は36なので、
・ 支給額は
脱退一時金の支給額は、
16,980円/月 × 36ヶ月(分) ÷ 2 = 305,640円
ということになる。
支給額を計算するときの『保険料満額』は、帰国直前の最後の被保険者期間の保険料をもとに計算する。従って、最近のように国民年金保険料が上昇基調にあるときは、支給額が納付額の半額を上回ることもある。
限度の『60ヶ月分』については、以前は36ヶ月分だったが、期限付き在留期間が最長5年となったことなどを踏まえ、2021年度に引き上げられた。
上に書いたように請求は日本に住所がある間はできないが、準備だけはしておいた方がいいだろう。
国民年金は厚生年金と違って個人で加入するものだが、働いていた個人事業所の事務の方にやってもらえる場合はそこに頼むか、社労士等に委任することもできる。
必要書類は一般に以下の通りだが、在日期間中に年金事務所に確認しておいた方がいい。
・ 脱退一時金請求のために必要なもの
・ パスポートのコピー
・ 基礎年金番号通知書または年金手帳
・ 受取口座と銀行の証明(ゆうちょ銀行は不可)
・ 代理人に委任する場合は委任状
脱退一時金をもらわない方がいい場合も
脱退一時金をもらうと、その期間は被保険者でなかったことになるので、もらわない方がいい場合もある。
・ あと少しで10年の場合
資格期間が10年に到達すれば受給資格が得られ、日本国から年金をもらう権利が生じるので、その後も来日して通算10年に達する可能性があるのなら、脱退一時金をもらうかどうかはよく考えた方がいい。
・ 年金の資格期間の通算協定がある国の方の場合
また、もう日本に来る予定がなくても、次の国々の方であれば年金資格期間を日本と通算する協定があるので、脱退一時金を受けなくても日本で支払った保険料や資格期間がムダになることはない。
・アイルランド ・スイス ・ドイツ ・フランス
・アメリカ ・スウェーデン ・ハンガリー ・ベルギー
・インド ・スペイン ・フィリピン ・ルクセンブルグ
・オランダ ・スロバキア ・フィンランド
・カナダ ・チェコ ・ブラジル
また、次の国とは資格期間の通算はできないが、保険料の二重払い防止の協定はある。
・イギリス ・イタリア ・韓国 ・中国