90.年次有給休暇と全労働日


 ここでは、年次有給休暇の権利の有無の判断基準となる『出勤率』算定のための分母『全労働日』について考える。
 

全労働日に含めない日とは

 
 年次有給休暇の付与基準『出勤率80%以上』における出勤率を求める式
 

『出勤率』 = 『出勤日数』 ÷ 『全労働日』


の分母の『全労働日』とは、労働義務がある日、すなわち『所定労働日』のことであるが、次の日は含めない

 ちょっと説明方法に一貫性がないようだが、「そうじゃなく、含める日を説明してくれ。」と言われても、『所定労働日のうち、次に挙げるいずれの日でもない日』としか言いようがない。
 

・全労働日に含めない日

 
① 不可抗力による休業日
② 使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日
③ 正当な争議行為(同盟罷業等)により、労務の提供がなされなかった日
④ ①~③のほか、労働者に責任がない不就労日で、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないもの
⑤ 休日出勤日(所定休日含む)
⑥ 代替休暇を取得し、終日出勤しなかった日

 
① 不可抗力による休業日

 『不可抗力による休業日』とは、大地震や台風直撃などで事業所が休業した場合。
 

② 使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日

 『使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日』とは、原材料が入荷せず、工場が操業停止になったような場合だ。
 

③ 正当な争議行為(同盟罷業等)により、労務の提供がなされなかった日

 『正当な争議行為(同盟罷業等)により、労務の提供がなされなかった日』は、言うまでもなく、ストライキ等の場合だ。
 

④ 労働者に責任がない不就労日で、当時者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないもの

 実は、上の①~③については、この④『労働者に責任がない不就労日で、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないもの』の具体例として挙げたものだ。

 つまり、①~③以外でも、④に該当する状況であれば『全労働日に含めない日』として扱うことになる。
 

⑤ 休日出勤日

 『休日』は、法定休日か否かを問わず所定労働日でないので元々労働義務がない。だから出勤したとしても除外するのだが、誤解されることもあるので、あえてここに入れてある。

 年間何十日休日出勤しようとも、全労働日にも『出勤日』にも含まれないので、これは頭に入れておいた方がいいかもしれない。

 『全労働日には入れないが出勤日にだけは算入する』という日は決してないので、『出勤率』が100%を超えることはない
 

⑥ 代替休暇を取得し、終日出勤しなかった日

 『代替休暇を取得し、終日出勤しなかった日』が全労働日に入らない理由は『21.代替休暇と出勤率』で書いた。

 分かりやすく8時間の所定労働時間をすべて代替休暇で消化した場合で考える。

 この場合、一般的にその方は、有給になった8時間分の給与を含めて『月60h超時間外労働32時間分』の割増賃金率を(1.25倍から)1.5倍とすることに同意したことになるので、代替休暇取得日の8時間は、そもそも労働義務がなかったものと同様に考えられる。

 この場合、元々の出勤率が100%の場合を除いて出勤率が減ることになるので、8割到達がギリギリになっている場合は、注意した方がいい。
 

傷病休職は『全労働日』に含めるのが基本

 
 私傷病による休暇・休職は、上記『全労働日に含めない日』リストにないので、出勤率算定上は『全労働日に含め、欠勤扱い』が基本だ。もちろん年次有給休暇を充てた場合は、その期間は前回触れたように出勤扱いになる。

 傷病休職の場合、『労働義務が免除された期間なので、全労働日から除くことになっている』という方もいるが、そんな法令も通達もどこにもないので注意してほしい。

 もし、傷病休職を全労働日から除くということになると、4月1日に入社し、7年目以降に病気を患い10月1日(基準日)から休みに入った方が、最初の10月1日は年休を取得し、10月2日からから翌年9月30日までほぼ1年間傷病休職した場合には、出勤率は100%となるので(1 ÷ 1)、翌年10月1日には20日の年次有給休暇が付与されることになるが、 これは公平性の観点から如何なものだろうか。

 あるいは、普通に10月1日から翌年9月30日まで丸1年間休職した場合は、また前回紹介した0 ÷ 0 の呪縛に悩まされることになる。

 大体、『労働義務が免除』されていることと『全労働日』から除くか除かないかということには何の関連もない。

 任意に労働義務を免除する『慶弔休暇』・『夏季休暇』等はもちろん、法定で労働義務が免除される『生理休暇』・『子の看護休暇』・『介護休暇』等も『全労働日』からは除かれない。

 基本的な考え方として、『労働義務がある』日が『労働日』であって、休日か休暇かという話もそこから始まる(労働義務がある休みが『休暇』・ない休みが『休日』)。

 次に、労働義務がある日だからこそ、その労働義務を『免除するかしないか』という話が出てくるのだ。

 労働義務を『免除』された休職期間を、それを理由として『労働日』から除くというのは、自己矛盾に陥っているのではないかとも思う。

 もちろん、論理だけで物事を推し進めていくとうまくいかない場面も出てくるので、総合的に考えて国は『全労働日』から除外する日を決めたわけだ。

 私はそれほど過激な人間ではないので、人道的見地から『傷病休職時は全労働日から除外すべきである』とか『除外した方がいい』という意見は尊重するし、状況によっては同意する部分もある。ましてや会社が熟考の上でそうしたルールを導入することに口を差し挟むつもりも毛頭ない。

 しかし、決まってもいないことを、よく知らない一般の方に『そうすることになっている』と断言する態度はいただけない。

 

次 ー 91.年次有給休暇を取得できない日 ー

 

 

※ 訂正
⑥代替休暇を取得し、終日出勤しなかった日
4行目  有休になった ➡ 有給になった
傷病休職は欠勤が基本
24行目  綜合的 ➡ 総合的        '23.10.17
タイトル変更
傷病休職は欠勤が基本 ➡ 傷病休職は『全労働日』に含めるのが基本
1行目 『リストにないので』の後 『出勤率算定上は』を挿入 '23.10.21

 

2023年10月13日