この『年次有給休暇』だが、
『6ヶ月継続勤務・出勤率8割以上の労働者には、年10日の年次有給休暇を与える』
のが基本。
たとえば、'23年4月1日入社の場合、6ヶ月目の10月1日が最初の『基準日』となり、4月1日から9月30日までの『出勤率』が8割以上だと、年10日の年次有給休暇が付与される(通常の労働者の場合)。
次の付与日は翌年'24年10月1日で、'23年10月1日から'24年9月30日までの『出勤率』8割以上で年11日付与。
以後1年ごとに12日・14日・16日・18日と増えていき、入社6年6ヶ月以降は年20日で固定化される。
ここで、『出勤率』の算定は、次の式で行う。
『出勤率』 = 『出勤日数』 ÷ 『全労働日』
『出勤日数』に含める日
ここで、今回のメイン『出勤日数』に含める日は以下の通り。
① 出勤日
② 業務災害による休業日
③ 産前産後休業期間
④ 育児介護休業期間
⑤ 年次有給休暇期間
⑥ 使用者から正当な理由なく就労を拒まれたため就労できなかった日等、
労働者に責のない不就労日で、出勤日数に算入すべきもの
※ 私傷病(通勤災害を含む)による欠勤や休職・子の看護休暇等、上記以外の休暇は含
めない。
※ 休日出勤等、『全労働日から除かれる日』も含めない。従って、出勤率が100%を超え
ることはない。
それでは、1つずつ見ていこう。
① 出勤日
『出勤日』は読んで字のごとく出勤した日で、所定労働時間の一部でも出勤していれば『1日』と数える。極端なことをいえば、所定労働日に1分でも出勤し、あとの7時間59分欠勤しても『出勤日数1日』ということになる。
では、所定の始業~終業時刻には1度も出勤せず(年次有給休暇も取らず、欠勤状態)、終業時刻を過ぎてから出勤してきて1時間労働した場合はどうなるか。
この場合も、『所定労働日に出勤した』ことは事実なので、『出勤日数1日』とカウントする。
あくまで『出勤日数』は原則、所定労働日の暦日中に出勤した場合はカウントすることになるからだ。この点、次回扱う予定の『所定休日に出勤した場合』とは、明確に判断が分かれる。
② 業務災害による休業日
②『業務災害による休業日』は、要は労働災害による欠勤日で、労働災害はよほどのことがない限り会社の責任となるので、これを労働者の不利益に扱うことは許されないということは、ほとんどの方が納得するところだろう。
③ 産前産後休業期間 と
④ 育児介護休業期間
③の『産前産後休業期間』・④の『育児・介護休業期間』を『出勤日数』に含めるのは政策的な判断で、たとえば複数の産休と育休を連続して5年取得したとしても、復帰後すぐに(次の『基準日』を待たずに)年次有給休暇を取得することができる。
⑤ 年次有給休暇期間
⑤の『年次有給休暇期間』自体を『出勤日数』に含めるのは、実は法定されているものではなく、1994年の通達による。
たしかに、年次有給休暇付与基準である出勤率8割確保が微妙な勤続6年半以上の方が、年次有給休暇を1日取得したことで次期の有給休暇20日間が0日になるのでは、休暇を取ろうという気も失せてしまうだろう。
⑥ 使用者から正当な理由なく就労を拒まれたため就労できなかった日等、労働者に責のない不就労日で、出勤日数に算入すべきもの
⑥『使用者から正当な理由なく就労を拒まれたため就労できなかった日等、労働者に責のない不就労日で、出勤日数に算入すべきもの』だけ、長すぎるというだけでなくてちょっと異質だ。
これは、年休権の存否を争った2013年6月6日の最高裁判決を受けて、厚労省が翌月10日に急いで発出したもの。その前は、使用者の責に帰すべき休業の際はすべて、全労働日からも出勤日からも除くものとされていた。
この事件の発端は、解雇を言い渡され就労を拒否された労働者が、解雇無効を主張し提訴したことに始まる。
2年後、解雇無効の確定判決があり復職を果たし、その方はその後6ヶ月間に計5日間の年次有給休暇を請求して休んだが、会社は年休の請求を拒否して5日間分の賃金を支払わなかった。
これに対して労働者は、年休権の存在確認を訴え出た。会社は『基準日前1年間の全労働日が0日(従って出勤日数も0日)なので、年休権の成立要件を満たしていない』として争ったものだ。
0 ÷ 0
極限などを扱わない小学校レベルの算数だと、0 ÷ 0 は『 □ × 0 = 0 』の『 □ 』の部分を求めることになり、答は『不能』ではなくて『不定』。要は何でもよいということになる。つまり、0%でも70%でも90%でも10000%でも構わない(どんな実数でも等号が成立する)。
こうなると、年休権があると解釈してもいいし、ないと解釈してもいい。たしかにこれでは困る。しかし、この会社の言うように『年休権がない』ことの根拠にもならないとは思うが…
ただ、この裁判当時は、『労働日が零(0)となる場合』は『前年の労働日のあることを前提とする法39条の解釈上、8割以上出勤するという法的要件を充たさないから、年次有給休暇の請求権は発生しない』(1952.12.2基収5873号・2013.7.10削除)
という通達が生きていて、行政解釈上は会社の言うとおりだったようだ。
結局、最高裁は0 ÷ 0 の解法には触れずに判例を変更し、こうした場合は
『出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれる』
ものとした。確かにこの場合、本人に責任がないのに『年休権がない』という結論なら、ちょっと正義に反する事態と私も思う。
次 ー 90.年次有給休暇と全労働日 ー
※ 訂正等
① 出勤日 6行目
この場合も ➡ (2つめ)トル '23.10.13
・0 ÷ 0 8~11行目
『ただ、この裁判当時は…発生しない』の通達と、発出・削除日を挿入しました。
数学的にはどうあれ行政的には、この裁判時には『全労働日が0なら年休請求権ナシ』という扱いだったようです。確認不足で申し訳ありません。
ただ、この通達は13年7月10日に削られているので、この日後は再び(行政的にも)0 ÷ 0 問題の発生があり得ることになります。 '23.11.28