付与が義務となっている『法定休暇』のうち、『有給』(会社が給与を出すこと)が義務となっているのは『年次有給休暇』だけだが、他の社会保険等から給付金等が支給される休暇もある。
特に、少子化対策ということもあって、産休・育休期間中には比較的手厚い給付があるので、これらを中心に、法定休暇中に支給される手当等をまとめてみた。
産前産後休業 … 出産手当金
出産手当金は、出産日と予定日のどちらか早い日以前42日から、産後56日までの間、健康保険から標準報酬日額の3分の2が支給されるもので、健保組合や協会けんぽ等の加入者本人が対象となる。他の条件はない。
再三登場する月給の月影さんが出産したとすると、標準報酬(保険料算定の基礎となる月収)26万円として、標準報酬日額と出産手当金の日額は、
標準報酬 固定 10円未満四捨五入
260,000円 ÷ 30 ≒ 8,670円(標準報酬日額)
標準報酬日額 円未満四捨五入
8,670円 × 2 / 3 = 5,780円(出産手当金日額)
となるので、産前産後98日とすると、総額で566,440円となる。
・ 出産手当金は『給与』支給で減額
この『出産手当金』は、支給されるその日その日について、給与が支給される場合はその分減額される。さらに、標準報酬日額の3分の2以上の給与が支給される日は不支給となる。
そんな大盤振舞いする会社はないだろうと思うかもしれないが、特に産休を開始した月(正確には賃金計算期間)には、こうした例が見られる。
例えば月決めの手当(職務関連かどうかは無関係)を日割りせず満額支給する…等だ。この分は出産手当金からしっかり日割で引かれる。
この減額については誰も気づかないことが多いが、会社のためにも本人のためにも良くない。
『会社のため』というのはムダな出費になるからだが、『本人のためにも』というのは、通勤手当の非課税分以外は所得税の対象だからだ。出産手当金は全額免税なので、そちらをもらった方が良い。
もちろん、国の財政や社会保険財政の行く末を案じてあえて会社が支給するというのなら立派な心がけであり、私ごときがとやかく言う筋合いではない。
ただ、産前休業可能な期間であっても、出産手当金より給与100%の年休を本人が選ぶというのはあり得ることで、これは別とする。
国保組合の場合はその組合の規定によるが、支給される場合もある。
普通の国民健康保険や社会保険の被扶養者は、残念ながらもらえない。
・ 出産費用(出産育児一時金)は、23年4月から増額
出産費用については、公的医療保険加入者なら(つまり、ほぼ誰でも)『出産育児一時金』が支給される。以前は42万円だったが、23年4月から50万円に増額された。
育児休業期間 … 育児休業給付金
育児休業給付金は、基本的には1才に満たない子を養育する従業員に、産休や育休に入った月の前月分まで6ヶ月間の平均給与の67%(6ヶ月経過後は50%)が雇用保険から支給されるものだ。
上記月影さんの例で、平均給与26万円とすると、給付額は、
6ヶ月平均給与 固定 円未満切捨
260,000円 ÷ 30 ⇛ 8,666円 (賃金日額)
賃金日額 月額給付額(円未満切捨)
6ヶ月目まで 8,666円 × 30 × 67% ⇛ 174,186円
7ヶ月目以降 8,666円 × 30 × 50% ⇛ 129,990円
・育児休業と育児休業給付金とでは、要件が違う
雇用保険に加入していることは前提として、過去2年間(産休・病休期間は計2年間までプラスしてよい。)に12ヶ月以上被保険者期間がある方が、育児休業給付金の対象になる。
『被保険者期間』については、簡単な説明はムリだが、ここでは『給与支給の対象となった日が月に11日以上あった月』と考えてほしい。ただし、入社前で、すでに失業給付資格等の基礎となった期間は除く。
例として、入社前に被保険者期間がなく、'22年2月1日にフルタイムで入社し、'22年12月1日から産休に入り、'23年3月8日に産休を終えた女性の場合、次のようになる。
・出産手当金 … 満額受給できる
・育児休業 … 問題なく取得できる
・育児休業給付金 … もらえない(過去2年間に被保険者期間が12か月ない)
また、育児休業中、自社のアルバイトは可能だが、その給与が平均給与の13%(6ヶ月経過後は30%)を超えると給付金は減額され、さらに原則月11日以上の常用的労働となると、支給対象から外されてしまう。
他の休暇等
・ 裁判員休暇 … 日当等
裁判員・補充裁判員には1日10,050円以内、裁判員候補者・選任予定裁判員には1日8,050円以内の日当が支給される(旅費・宿泊料は別途)。
この日当等については、趣旨目的が違うので当然だが、会社から給与が支給される場合でも減額されることはない。
『裁判員休暇』でなく、任意で(給与支給のある)年休を取って参加する場合も多いと思うが、これももちろん全く問題はない。
・ 業務災害による休業は?
業務災害による休業は『休暇』ではない。ただ、実際の扱いについては『休み』のなかでもVIP扱いだ。まあ、当然の措置だろう。
業務災害で休業したときには事業主は『休業補償』を支給する義務がある。普通は4日目から『労災保険』が事業主に代わって休業補償してくれるが、このとき一定額以上の『給与』を支給してしまうと、労災保険の『休業補償給付』は、減額でなく、その日について一気に不支給となる可能性がある。
これについては、後で詳しく述べる。
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※ 見出しを訂正します。
『産前産後休暇』➡ 『産前産後休業』