₁₈₈.『特定作業従事者』の労災特別加入



 労災保険第2種特別加入『一人親方等』の2つめ『等』にあたるのが、この『特定作業従事者』だ。

 『労働者でない』ことを大前提として『特定作業』に従事する個人事業者とその家族従事者が対象になる。もちろん前回の『一人親方特別加入』可能な業種の方はそちらで加入できるので、それ以外の場合だ。

 この『特定作業』はかなり込み入っていて、最近大きな改定もあったので、1つずつ見ていく。
 

① 特定農作業従事者

 
 ①『特定農作業従事者』は要件として、

年間農業生産額が300万円以上 または 耕地面積2ha以上 で、

             かつ

  ⑴ 土地の耕作・開墾
  ⑵ 植物の栽培・採取
  ⑶ 家畜(ミツバチ・蚕を含む)の飼育

             のいずれかを行なう農業者で、

  ⑴ 動力により駆動する機械作業
  ⑵ 2m以上の高所作業
  ⑶ サイロ・むろなどの酸素欠乏危険場所での作業
  ⑷ 農薬の散布作業
  ⑸ 牛・馬・豚に接触又は接触するおそれのある作業

             の、いずれかの作業に従事する方 ー となっている。

 なお、最初の販売額や耕地面積の要件は、農業作業者が共同で作業を行う場合は、その営農集団等の規模が300万円以上または2ha以上なら、各構成農家は対象になる。
 

② 指定農業機械作業従事者

 
 次の機械を使用して、土地の耕作・開墾や植物の栽培・採取を行なう農業者をいう。

  ⑴ 動力耕運機その他の農業用トラクター
  ⑵ 動力溝掘機
  ⑶ 自走式田植機
  ⑷ 自走式の防除用機械
  ⑸ 自走式芝刈機・コンバイン他自走式収穫機械
  ⑹ トラック他自走式運搬用機械
  ⑺ 次の機械
     ・動力揚水機 ・動力草刈機 ・動力カッター ・動力摘採機 ・動力脱穀機
     ・動力剪定機 ・動力剪枝機 ・チェンソー ・単軌条式運搬機 ・コンベア
  ⑻ 農薬・肥料・種子・融雪剤散布や調査用無人航空機
 

③ 国・地方の訓練従事者

 
 国や地方公共団体が実施する訓練として行われる次の作業に従事する方
 

  ⑴ 職場適応訓練
  ⑵ 事業主団体等委託訓練
 

④ 家内労働者と補助者

 
 家内労働法による『家内労働者』及びその補助者のうち、特に危険度が高いとされる次の作業に、原則として年間200日以上・1日4時間以上従事する方
 

  ⑴ プレス機・型打機・旋盤・ボール盤等による、金属・皮・ゴム等の加工作業

  ⑵ 金属製洋食器・刃物・バルブ・コックの製造・加工のうち次の作業
   ア.研削盤やバフ盤による研削・研磨
   イ.溶解した鉛で行う金属の焼入れ・焼き戻し

  ⑶ 有機溶剤等による以下の製品の製造・加工作業
   ア.化学物質・皮・布製の、履物・鞄・袋物・服装用ベルト・グラブ・ミット
   イ.木または合成樹脂製の漆器

  ⑷ 陶磁器製造作業の以下のもの
   ア.粉じん作業
   イ.鉛化合物を含有する釉薬による施釉の作業
   ウ.鉛化合物を含有する絵具による絵付けの作業
   エ.施釉・絵付けを行ったものの焼成の作業

  ⑸ 動力による合糸機・燃糸機・織機を使用する作業

  ⑹ 木工機械による、仏壇・木.竹製の食器の製造加工の作業
 

⑤ 労働組合等の一人専従役員

 
 『45.労働時間規制のない、事業主と法人代表』で触れたが、労働組合の副委員長や書記長は普通に労災保険の対象だが、委員長は使用者扱いになるので、普通の労災保険には入れない。従って、専従の『委員長』が労災保険に入ろうとすれば特別加入するしかない。
 

⑥ 介護作業従事者及び家事支援従事者

 
 介護や家事支援に従事する労働者以外の方について特別加入の対象となったのは最近で、特に家事支援従事者については2018年だ(47.どんな家政婦が労働者?

 これらについては、実際に行うのが『介護作業』・『家事支援作業』のどちらであっても『介護作業従事者および家事支援従事者』として特別加入することになる。
 

  ⑴ 介護作業従事者

     入浴・排泄・食事などの介護その他の日常生活上の世話
     ・機能訓練または監護の作業を行なう人

  ⑵ 家事支援従事者

     家事(炊事・洗濯・掃除・買物・児童の日常生活上の世話及び必要な保護
     その他家庭において日常生活を営むのに必要な行為)を
     代行または補助する作業を行なう人
 

⑦ 芸能関係作業従事者

 
 放送番組(広告を含む)・映画・寄席・劇場等における音楽・演芸その他芸能の提供の作業またはその演出若しくは企画の作業に従事する人で、具体的には
 

  ⑴ 芸能実演家

    ・ 俳優(舞台俳優・映画・テレビ等映像メディア俳優・声優等)
    ・ 舞踏家(日本舞踊・ダンサー・バレリーナ等)
    ・ 音楽家(歌手・演奏家・作詞家・作曲家等)
    ・ 演芸家(落語家・漫才師・奇術師・司会・DJ・大道芸人)
    ・ スタント 他

  ⑵ 芸能制作作業従事者

    ・監督 ・撮影 ・照明 ・音響 ・効果 ・録音 ・衣装 ・メイク
    ・大道具製作(建設事業を除く) ・美術装飾 ・結髪
    ・スクリプター ・ラインプロデュース ・アシスタント ・マネージメント
 

等が含まれる。
 

⑻ アニメーション制作作業従事者

 
 アニメーション制作作業に従事する人で、具体的には次の作業をする人が含まれる。

・キャラクターデザイン ・作画 ・ 絵コンテ ・原画 ・背景
・監督 ・演出 ・脚本家 ・編集
 

⑨ ITフリーランス

 
 情報処理システムの設計・開発・管理・監査等に従事する人で、具体的には
 

・ITコンサルタント ・プロジェクトマネージャー等 ・システムエンジニア等
・Webデザイナー ・Webディレクター 等
 

が含まれる。
 

保険料率は業種ごと

 
 保険料率は次のようになる。単位は給付基礎日額1年分に対する千分率だ。家内労働はさらに細分化されているので別にまとめた。
 

・特定農作業(①)                       9‰
・介護・家事支援作業                      5‰
・指定農業機械作業(②)・訓練従事者(③)・一人専従(⑤)   3‰
   芸能関係(⑦)・アニメ製作(⑧)・ITフリーランス(⑦)

・ 家内労働(④)

・木工機械による仏壇・竹食器等の製造              18‰
・粉塵や鉛化合物を扱う陶磁器製造                17‰
・プレス・型打ち・旋盤・研磨盤等による金属・皮・布等の加工   14‰
・有機溶剤等による皮・布・合成樹脂等の製品製造           5‰
・動力による合糸機・撚糸機・織機を使用する作業           3‰
 

他のほとんどの要件は『一人親方』と同じ

 
 他のほとんどの要件や加入方法は前回の『一人親方』と同じだ。加入の際には同業者による『特別加入団体』を通して行なう必要がある。また、健康診断が必要な方も、同様の要件となっている。

 ただし、以下の業種については一部、他の業種と違う点がある。
 

・ 家内労働は日額2000円から加入可

 
 自分で決める『給付基礎日額』も3500円から2万5000円で変わらないが、④『家内労働』の方だけ、これ未満の2000円・2500円・3000円でも加入できることになっている。

 仮に、動力織機による家内労働作業(3‰)に給付基礎日額2000円で加入した場合、年間保険料は
 

2000円/日 × 365日 × 3/1000 = 2190円
 

で済む。これが、全特別加入者の年間保険料の最安値ということになる。
 

・農作業・家内労働は通勤災害不可

 
 他は通勤災害でも普通に保険給付の対象になるが、①『特定農作業』・②『指定農業機械作業』・④『家内労働』については、通勤災害は給付の対象にならない

 

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2024年11月15日