₁₈₇.一人親方の労災特別加入



 今回は特別加入の②つ目『一人親方』の話になる。

 記憶力のいい方は《『₁₈₄.社長も労災保険に入れる?』のところで『② 一人親方(第2種)』と書いてあったのに『等』はどこに行ったんだ》と思うかもしれない(そこまでしっかり読んでいただいている方がいたら感謝状を差し上げたい)。

 実は『一人親方』(第2種特別加入)には次の2種類あるのだ。
 

Ⅰ. 一人親方
Ⅱ. 特定作業従事者
 

 ここではまず『一人親方』特別加入について解説する。
 

『一人親方』ってどんな人?

 
 一人親方とは、一般的には
 

他人を雇用せずに仕事をする個人事業主

 
であればどんな業種も含まれる。筆者のような『労働者のいない個人の士業』や『店と雇用関係のないホスト・ホステス』等も含まれる。

 しかし『労災に特別加入できる一人親方』という観点では、業種は限定される。

 この点は、いかなる業種でも加入できる前回の『中小事業主等の特別加入』とは違うので、注意してほしい。
 

労災に特別加入できる一人親方の業種

 
 現在、労災保険に特別加入できる一人親方は、次の業種の方に限定されている。
 

・ 一人親方特別加入可能な業種

 
 ① 個人タクシー・個人貨物運送業者等
 ② 建設業
 ③ 漁船による水産動植物採捕の事業(⑦を除く)
 ④ 林業
 ⑤ 医薬品の配置販売
 ⑥ 廃棄物の収集・運搬・選別・解体
 ⑦ 船員が行う事業
 ⑧ 柔道整復師が行なう事業
 ⑨ 高年齢者雇用安定法等に基づき高年齢者が行う事業
 ⑩ あんま・マッサージ指圧師・はり師・きゅう師が行なう事業
 ⑪ 歯科技工士が行なう事業
 ⑫ 一定の『特定フリーランス事業』
 

・ ⑫特定フリーランス事業とは

 
 ⑫の『特定フリーランス事業』とは、次の事業をいう。

  ・ 営業
  ・ 講師・インストラクター
  ・ デザイン.コンテンツ制作
  ・ 調査・研究・コンサルティング
  ・ 翻訳・通訳
  ・ データ.文書入力 他
 

というわけで、筆者のような個人事業の士業等は入れない。
 

年100日未満なら人を雇用しても可

 
 一人親方は『他人を雇用しない』ことが原則だが、1年間に100日未満であれば労働者を使用していても特別加入の対になる。

 この規定は建設業に限らないが、特に建設業の一人親方の場合、ほとんど1人で仕事をしつつもちょっと大規模な工事を請負ったときだけアルバイトを雇って給与を支払うような場合もあるので、この規定はありがたいと思う。
 

・ 一人親方がアルバイトを雇う場合

 
 今回のテーマとは離れるが、一人親方が元請の工事で1日だけでも臨時で雇ったアルバイトがケガでもしたら大変なことになるので、元請で年1回でもアルバイトを雇う可能性があるのなら、必ず労働者対象の普通の労災保険に加入しておかなければならない。

 もちろん自分の個人事業が労働者対象の労災保険に加入するのと、自分自身が一人親方として労災特別加入することは何ら矛盾しない。
 

個人タクシー・漁船等は、通勤災害の対象外

 
 一人親方特別加入の場合、業種によっては通勤災害が対象にならないものがある。次の2つだ。

  ・ ①の、個人タクシー業者・個人貨物運送業者
  ・ ③の、漁船による自営漁業者
 

保険料がちょっと違う

 
 中小事業主等の特別加入者の保険料は労働者と同じだったが、一人親方の保険料率は別に設定されていて、労働者・中小事業主等に比べると若干高くなるものが多い。
 

・ 一人親方の保険料率

 
 業種      保険料率(‰)(労働者・中小事業主等の場合)

林業(④)       52‰    60‰
船員(⑦ )      48‰    47‰
漁船による漁業(③)  45‰    18~38‰
建設業(②)      17‰    6.5~15‰
廃棄物処理(⑥)    14‰    13‰
個人タクシー等(①)  11‰      4‰
医薬品の配置販売(⑤)   6‰      3‰
他(⑧~⑫)        3‰      3‰

 

特別加入団体への加入が必須

 
 一人親方の労災特別加入の要件として、必ず同業者による特別加入団体の一員となる必要がある。

 というのは、一人親方が労災特別加入する場合、その同業者で構成する加入団体を『事業主とみなして』労災保険を成立させることになるからだ。

 だから「一人親方は一匹狼だ。いかなる組織にも所属するつもりはない。自分だけの力で道を切り開くんだ!」という方は、心構えとしては立派だと思うが、労災特別加入は残念ながらできない。

 加入する場合は普通、保険料以外に、団体の入会費(5000円程度)・会費(月1000円程度)が必要だ。
 

・ 団体の事務所は近県でないとダメ

 
 この『特別加入団体』は、その事務所が、同じまたは近隣の都道府県になければならない。

 たとえば北海道なら、北海道か青森に団体の事務所がある必要がある。
 東京なら、東京・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川・山梨・静岡の各県、大阪なら、大阪・三重・滋賀・兵庫・奈良・和歌山・鳥取・岡山・徳島・香川・京都の各府県のいずれかに事務所がなければならない。

 この都道府県の限定は相互主義的なので、逆に茨城・栃木・群馬…の方なら東京に、三重・滋賀・兵庫…の方なら大阪に事務所があれば加入可能だ。
 

・ 自分で団体設立する?

 
 範囲内に加入可能な同業者の団体がなく、何としても加入したいという鉄の意志があるのなら、自分で仲間を集めて『団体を設立』することもできる。

 厚労省『特別加入制度の仕組み<一人親方その他の自営業者用>』に、『新たに特別加入団体をつくって申請する場合』の方法が書かれているので、これを切り口に団体設立を目指すのもいい。
 

・ 建設業の場合

 
 建設業の場合は、数が多く歴史も古いこともあって各都道府県に『SR一人親方組合』などの特別加入団体があるので、そこで加入することができる。

 ただし『SR一人親方組合』等の場合は、その会員である社会保険労務士を通じて業務委託契約することになるので、突然1人でその組合に行って『入れてください』ということはできない。
 

健康診断等は中小事業主等と同じ

 
・ 加入時健康診断が必要になる方の条件
・ 保険給付の要件(一部業種の通勤災害を除く)
・ 保険給付額
 

等については、中小事業主等とほぼ同じだ。

 

次 ー ₁₈₈.『特定作業従事者』の労災特別加入 ー

 

 

2024年11月12日