ここまではそれぞれの給付の名称の『補償』の部分を取ると通勤災害時の給付になるものがほとんどだったが、ここだけは業務災害時は『葬祭料』、通勤災害時は『葬祭給付』となる。
これも分けて書くと煩雑になるので『葬祭料』とだけ書くが、中身は『葬祭給付』も同じだ。
葬祭料は言うまでもなく葬祭費用だが、もちろん業務災害(葬祭給付の場合は通勤災害)によって死亡した場合に限る。
ここで、何が葬祭費用に入るのかとか、そういう細かい話はしない。理由は、労災の葬祭料の金額は平均賃金(正確には『給付基礎日額』)で自動的に決まるからだ。
従って健康保険の埋葬費等とは違い、領収書等も必要ない。
葬祭料は誰に?
前に書いたように葬祭料は『葬祭を行う者』に対して支払われる。
『葬祭を行う者』は普通遺族なので。その場合は遺族に葬祭料が支払われる。これがもっとも一般的で、特に何の問題もない。
・ 『社葬』でも、遺族がいれば遺族に
場合によっては種々の事情で『社葬』として会社が葬儀を出すこともあるだろう。そのときは会社が葬祭料を受け取ることになるのか?通達では
社葬を行った場合において、葬祭料を葬祭を行った会社(事業場)に支給すべきか否かは社葬の性質によって決定すべきであり、社葬を行うことが会社の恩恵的或いは厚意的性質に基づくときは葬祭料は遺族に支給すべきであり、葬祭を行う遺族がない場合、社葬として会社によって葬祭を行った場合は、葬祭料は当該会社に対して支給されるべきである。(1928.11.29基災収2965号)
とされているので、遺族がいる場合にたとえ社葬であっても遺族が受け取るのが普通だろう。また、業務上死亡した労働者が天涯孤独またはそれに近い状況で、だれも葬祭を行う者がいないから会社が行った…という場合は会社が受けることになる。
自治会・町内会葬、市区町村民葬等の場合も同様に考えて、遺族がいる場合には遺族が受け取るのが普通と思われる。
『国葬』の場合も同様だと思うが、仮に身寄りのない労働者が国葬になることがあった場合、国が実質的に取り仕切るのだろうから国庫に入ることになるのだろうか。
ただ労災保険は国営なので、その保険給付を国が受け取るというのも如何なものか…という気もする。
まあ、お前がそこまで心配する必要はないと言われそうなので次に移る。
葬祭料(葬祭給付)の額
葬祭料は、労基法では『平均賃金の60日分』だが、労災保険では、
① 給付基礎日額の60日分
② 31万5000円+給付基礎日額の30日分
の、どちらか『大きい方の額』が支払われる。
『₁₆₉.給付基礎日額と平均賃金』で書いたように、過去3ヶ月(正確には死亡直前の賃金〆切日以前3ヶ月間など、平均賃金算定期間)内にイレギュラーな事態がなく、平均賃金が極めて低額でなければ、『平均賃金』は『給付基礎日額』とほぼ同額になる。
②は、給付基礎日額が定額の場合の救済規定。ザックリ言って月額給与が31万5000円より低い場合は『31万5000円』の定額が効いて労災保険の規定の方が高額になる。労基法と労災保険の葬祭料を比べると次のようになる。
・ 最低でも43万7700円(2024年度)
平均賃金 労基法 労災保険
・給付基礎日額
4,090円 24万5400円 43万7700円
5,000円 30万円 46万5000円
7,500円 45万円 54万円
10,000円 60万円 61万5000円
10,500円 63万円 63万円
12,500円 75万円 75万円
15,000円 90万円 90万円
17,500円 100万円 100万円
20,000円 120万円 120万円
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平均賃金・給付基礎日額が4,090円のところを赤ゴチックにしたのは、2024年度現在、給付基礎日額の最低額は4,090円(児童変更対象額)となっているので、労災保険の場合の葬祭料の最低額も計算上この43万7700円になるからだ。
葬祭料請求に必要なもの
葬祭料の請求には、以下の事項を記載した請求書を監督署に提出しなければならない。
① 死亡した労働者の氏名・生年月日
② 請求人の氏名・死亡した労働者との関係
③ 事業の名称・事業場の所在地
④ 負傷又は発病及び死亡の年月日
⑤ 災害の原因・発生状況
⑥ 平均賃金
⑦ 死亡した労働者が複数事業労働者であるときはその旨
⑧ 死亡診断書・死体検案書・検死調書記載事項の市町村長の証明書
ここで、④~⑥については事業所の証明を受ける。
ただ、業務災害で死亡した場合に他の給付を請求せず、葬祭料だけ請求するというのは非常にレアケースと思われる。他の労災年金・給付を受けていた場合は省略できる項目もあるので、詳しくは厚労省のパンフレット等を参照してほしい。