前回、遺族年金については場合によっては所得制限があり得ることを見たが、今回は、障害者自身が所得者の場合、収入や所得によって障害年金を受けられなくなることがあるのか…という話題だ。
基本的に、障害年金に収入・所得要件はない
もったいぶってもしょうがないので単刀直入に言うと、基本的には障害年金に収入や所得の制限はない。いくら所得があっても障害年金は堂々と全額もらえる。
ただし、20才前にその障害についての初診日がある場合は『20才前傷病』による障害年金として、所得制限の対象になる。
これはどういうことかというと、障害年金の『保険料納付要件』と関係がある。国民年金は社会『保険』なので、年金を受け取るためには原則保険料の納付が必要だ。
障害基礎年金の場合、具体的には次の要件を満たしている必要がある。
・ 障害基礎年金の保険料納付要件
初診日の前日において
① 初診日の前々月までの加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付又は免除されていること
② 初診日に65歳未満であり、初診日の前々月までの直近の被保険者期間1年間に保険料の未納がない。
ここで、①と②は、いずれかの要件が充足していれば対象になる。
さて『初診日の前日』が基準とされるのは、『初診日』基準とすると、障害の原因となった傷病が発生したその日のうちに保険料を可能な限り遡って(過去2年分は可能)納付すれば、それまでずっと未納状態でも②によりだれでも受給できることになり、『保険』でなくなってしまうからだ。
また、保険料納付が『初診日の前々月まで』となっているのは、国民年金保険料の納付期限が『翌月末日』となっていることによる。
たとえば6月14日が初診日とすると、『初診日前日』(6月13日)において『初診日の前月』(5月)分の保険料はまだ納付期限前なのだ。納付期限前の保険料をその時点でまだ納付していないからといって不利益な扱いはできない。そこで、すでに納付期限が過ぎている『初診日の前々月』(4月)分までの保険料納付状況だけを要件にすることになっている。
逆に言うと、保険料の納付期限をわずか1日超過したばかりに障害年金を受けられなくなる場合もあるし、それまでずっと保険料が未納だった方が心を入れ替えて『明日、滞っていた保険料を1年分まとめて払おう』あるいは『明日、免除申請をしてこよう』と思ったその日に大けがをして、障害年金が不支給になるということもある。
・ 未納と免除では扱いが天と地
同じ基礎年金でも老齢年金なら保険料納付月数によって年金額が少しずつ違ってくるだけだが、保険料についてだけいうと障害年金の場合は上記の要件さえ満たせば納付期間に関わらず1級か2級(それぞれ年102万円・81万6000円。2024年度)の年金が支給される。
納付要件が満たせなければゼロだ。その意味で障害年金は『オール・オア・ナッシング』と考えてよい。
いざここに至っては、未納と免除の差もはるかに遠い。
ここで、『納付要件』の『保険料納付期間』には、『免除期間』も納付期間と同様にカウントされる。つまり、障害年金の保険料納付要件において、『納付期間』と『免除期間』は全く同様なのだ。
20才前傷病による障害年金には所得制限あり
・ 20才前傷病に、保険料納付要件はない
ここまで保険料納付要件についてくどくど述べてきたが、国民年金の被保険者期間は20才から始まる。つまり国民年金の保険料納付義務は20才からなので、20才前に初診日がある方は、それまでに『保険料を支払わなければならなかった期間』はない。
民間の保険なら被保険者でなかった期間に原因の生じた損害に対する補償はしないのが普通だが、国民年金は20才前に初診日がある障害も対象とするので、こうした20才前の傷病の方は、上の②『初診日に65歳未満であり、初診日の前々月までの1年間に保険料の未納がない』は必ず満たしていることになる。
つまり、必ず障害年金の対象になる。これを『20才前傷病による障害年金』という。
ただ『20才前傷病による障害年金』は保険料の納付を要件としないことから、権利としてはやや弱く、所得によっては支給制限がかかる場合がある。
・ 所得370万4000円超で半額・472万1000円超で全額停止
具体的には所得が
・ 370万4000円超で半額停止
・ 472万1000円超で全額停止
になる。もちろん『所得』基準なので、非課税の障害年金そのものは含まない。また『子の加算』が付いている場合、これは停止の対象にはしない。
給与収入ならそれぞれ518万4000円以上・645万2000円以上となるので、給与所得者の平均年収(2022年)は上回る水準だ。
ところで、厚労省の『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』によると、
・ 1級
他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずる(行う)ことができない程度
・ 2級
必ずしも他人の介助を受ける必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度
となっている。もちろん具体的な認定基準はもっと細かく詳しく定められている。
国にこういう『程度』の障害と認定された方がこれだけの所得を得、この所得が給与所得や営業所得だとすれば、人並外れた努力とたぐいまれな才覚とひょっとすると一部強運のたまものかもしれないと個人的には思うので、支給制限するのはどうかとも考えるが、法律上はこうなっている。
もちろん、中学校や高校を出てすぐに就職した場合のように、厚生年金加入期間中に初診日がある場合は、20才前でも『20才前傷病』ではなく、普通の障害厚生年金の対象なので、こうした所得制限はない。
※ 訂正
障害基礎年金の保険料納付要件
4行目 前々月までの1年間 ➡ 前々月までの直近の被保険者期間1年間 '24.07.22