₁₂₈.欠勤控除の、給与明細上の表記



 ここで、欠勤控除額がある場合の給与明細上の表記の仕方を考える。
 ある月給者について、定額の給与が次のようになっているとする。

★ 1ヶ月の定額の給与

・基本給   200,000円   ・住宅手当   15,000円
・役職手当   30,000円    ・家族手当    8,000円
・資格手当   17,500円    ・通勤手当    4,200円

 また、労働条件として、

・所定労働時間  1日8時間 ,週40時間
・土日祝日は休日
・年間所定労働日数 245日

とする。この場合、職務関連の給与は247,500円なので、基礎賃金は

247,500円/月 × 12ヶ月 ÷ (8h/日×245日)≒ 1,515円/h

になる。
 

・欠勤時の給与の規定

 
 また、この会社では、欠勤の場合の給与として、

・ 職務関連の定額の給与については、1日につき所定労働時間分の基礎賃金を控除する。
・ 通勤手当は、1日につき月額を当月の所定労働日数で除した金額を控除する。

という規定になっていたとする。
 この方が、21日出勤の時にこの月3日欠勤し、残業等もなかった場合、規定に沿って当月の支給額を計算すると、まず控除額は

・職務関連給与の控除額 1,515円/h × 8h/日 × 3日 = 36,360円
・通勤手当の控除額   4,200円/月 ÷ 21日/月 × 3日 = 600円
・控除額合計          36,360円 + 600円 = 36,960円

となるので、

・職務関連の支給額は  247,500円 ー 36,360円 = 211,140円
・通勤手当は          4,200円 ー 600円 = 3,600円

となる。住宅手当・家族手当の減額はない。この場合の給与明細の記載方法を考えてみる。
 

非課税通勤手当は別枠で

 
 給与明細は、限られた紙面に必要事項を細大漏らさず記載しなければならないし、給与ソフトを使用している多くの会社ではソフトの規格上、その時その時の思い付きで項目を増やしていくと後々収拾がつかなくなるので、項目の追加は極力避けたい。

 そこで思い付くのは控除金額を一括することだ。

・基本給   200,000円   ・住宅手当  15,000円
・役職手当   30,000円    ・家族手当   8,000円
・資格手当   17,500円    ・通勤手当   4,200円
・欠勤控除等  36,960円

 この記載方法はどうか。
 確かに欠勤によって給与がいくら減ったのかは一目瞭然だ。しかし、これではどの項目からいくら控除したのか分からない。

 実際問題として基本給・役職手当・資格手当といった職務関連の定額の手当は一括控除で問題ないことが多いが、通勤手当は非課税分が絡んでくるので、ここまで一括するのはよくない。

 給与計算担当者なら『4,200円』という金額を聞いただけでピンと来るはずだが、おそらくこの金額は通勤距離2km~10km未満の非課税限度からきていることがほとんどだろうから、非課税の通勤手当がこの月いくら支給されたのか分からないのは困る。

 この場合は会社側ではこの月の通勤手当として3,600円と正しく算出しているのでこの先の所得税の計算にも誤りはないはずだ。
 しかし給与を支給された方としては、かなりの知識がなければ、この表記では支給された金額のうち4,200円は非課税と考えてしまうので、課税収入を600円少なく捉えることになる。

 たかが600円と言うなかれ。特に親の扶養に入っている方や、被扶養配偶者でも障害者控除を受けている方などにとっては、課税給与収入『103万円の壁』はシビアに家計に響いてくるので注意すべき点だ。とにかく、非課税通勤手当がいくらなのか分からないというのは致命的と心得よう。

 こうした誤解を生む表記は避けるべきなので、ここは

・基本給   200,000円   ・住宅手当  15,000円
・役職手当   30,000円    ・家族手当   8,000円
・資格手当   17,500円    ・通勤手当   3,600円
・欠勤控除額  36,360円

とすべきだろう。
 

控除額を基本給にまとめるのは?

 
・基本給   211,140円   ・住宅手当  15,000円
・役職手当       0円   ・家族手当   8,000円
・資格手当       0円   ・通勤手当   3,600円

 これは、通勤手当の分は正しく表記されているが、これ以外の欠勤控除した分を『基本給・役職手当・資格手当』合計額から引いて、計算された金額を基本給のところにまとめて表記したものだ。

200,000円 + 30,000円 + 17,500円 ー 36,360円 = 211,140円
 基本給     役職手当    資格手当   欠勤控除額   職務関連支給額

ということで、全体の支給額はあっているが、役職手当・資格手当がこの月だけいきなり『0円』というのも違和感がある。

 実際にはこの例の『3日分』控除というような比較的少額の場合はこの形式はあまり見ないが、後で見るように、欠勤日数が出勤日数より多い場合は『欠勤控除額』より『支給額』を先に計算した方が合理的な場合もあるので、その場合にはよく見られる。

 こうする理由ははっきりしていて、理屈で言えば基本給・役職手当・資格手当の3つ(職務関連定額給与)は均等に控除されるはずなので、按分計算すると正しくは

    元の金額    控除額      支給額
基本給   200,000円   29,381.818…円  170,618.181…円
役職手当   30,000円    4,407.272…円   25,592.727…円
資格手当   17,500円    2,570.909…円   14,929.090…円
( 計 )  247,500円    36,360円     211,140円

なのだろうが、各々の控除額を記載するようなムダなスペースは普通の明細書にはないし、それぞれの支給額を

・基本給   170,618円
・役職手当   25,593円
・資格手当   14,929円

としても、かえってわけが分からなくなる。この按分計算自体もけっこう骨が折れるし、また各々の控除額を四捨五入して足すと控除額合計と運よくピタッと合うとは限らない。

 給与明細については社内の共通理解が図られている場合は問題ない場合が多いが、可能なら、前項の控除額を明記する方法が望ましいだろう。
 

まぜるな危険!欠勤控除は支給項目へ

 
 次の表記はどうか。

  ・支給項目          ・控除項目
基本給   200,000円   健康保険料   16,534円
役職手当    30,000円   厚生年金保険料 25,620円
資格手当    17,500円   雇用保険料     1,442円
住宅手当    15,000円   源泉所得税     4,550円
家族手当    8,000円   住民税     16,500円
通勤手当    3,600円   欠勤控除額   36,360円

 これは、ミソも○○も一緒にしたようなミスと言える。欠勤控除は『控除』の名が付いているので『控除項目』に入れてしまった例だ。

 同じ『控除』の名前でも、欠勤『控除』と、給与全額払いの例外としての税・社会保険料等『控除』(親睦会費等も含む)とでは位置付けがまったく違う。

 実際には、欠勤控除した結果が『総支給金額』になり、そこから社会保険料等の『控除項目』を引いていくことになるので、欠勤控除額は『支給項目』に記載するのが正しい。

 大体これでは雇用保険料や所得税が正しく計算されているのか不安になる。ひょっとすると担当者は正しく計算しつつも『支給項目』に『控除』金額が載るのは分かりづらいと考え『親切心』でこういう表記にしたのかも知れないが、これではかえって誤解を生む。

 

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2024年03月15日