₁₁₅.記念品・制服等の物品支給は賃金?



 今回は、前回扱った食事や住居以外の物品支給の扱いについて考える。
 

記念品の支給は賃金ではない

 

 記念品等の物品を従業員に配布する場合の扱いのなかでも、『増資記念品代』については賃金総額に算入しないことが厚労省から例示されている。

 他の記念品等についても、臨時的・恩恵的なものであれば『賃金』には該当せず、労働保険上も社会保険(狭義)上も賃金や報酬とはならない。

 ただ『どんな高価なものでもか』と問われるとそこまでは保証できないので、『常識の範囲内で』としかお答えできない。
 

・ 税法上の基準は1万円以下・5年以上の間隔

 
 税法上は、記念品等であっても非課税の要件はかなり厳しく査定される。例として創業記念品等の記念品の支給については、
 

 ① 社会一般的に記念品としてふさわしく、
 ② 評価額が税抜き1万円以下で、
 ③ 一定期間ごとに行事で支給するものは、概ね5年以上間隔


 の場合は非課税とされる。

 また、永年勤続者に支給する記念品や旅行・観劇の招待については、
 

 ① 勤続年数・地位に照らし、社会一般的に相当な金額以内であり、
 ② 勤続概ね10年以上を対象とし、
 ③ 前回の表彰から概ね5年以上の間隔があいている


場合が非課税という扱いのようだ。
 

・ 商品券は、額面金額が課税対象

 
 ただし、これらの記念品等であっても、商品券の場合は額面金額が課税対象となるらしい。これはたまたま安く手に入ったとしても同様だ。

 商品券を換金しようとすれば額面より安く買い叩かれるのが普通だが、そういった事情は考慮しないものらしい。

 カタログギフトなど、本人が記念品を自由に選択できる場合も、その価額が給与として課税される。
 

・ 表彰金等は、社会保険上の『報酬』にならない場合も

 
 こちらは『表彰』とあるように現金だ。この場合でも例として『永年勤続表彰金』については、次の要件に当てはまれば社会保険上の報酬に含まないことになっている。
 

 ① 企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施され、
 ② 勤続年数のみを要件として一律に支給され、
 ③ 社会通念上『祝い金』の範囲内で、表彰の間隔が概ね5年以上


 ただ、この要件のうち1つでも欠ければ直ちに『報酬』とすることはなく、総合的に判断される。
 

『女性の制服のみ非課税』はホント?

 
 『女性従業員に制服を支給するのは非課税だが、男性従業員にスーツを支給するのは課税対象』という話は、一般の方でもどこかで聞いたことがあると思う。

 『制服の支給は賃金とはみなさない』ことについては前々回もチラッと触れた。これについては税法上も非課税だ。もちろんそこに男女の差別的取扱いはない。
 

・ 制服が非課税となる条件

 
 国税庁は、事務服・作業服の支給等が非課税とされる条件として、
 

① 専ら勤務する場所において通常の職務を行う上で着用するもので、私用には着用しない又はできないものであること

② 事務服等の支給または貸与が、その職場に属するものの全員又は一定の仕事に従事する者の全員を対象として行われるものであること(更に厳格に言えば、それを着用する者がそれにより一見して特定の職員又は特定雇用主の従業員であることが判別できるものであること)が必要である


としている。

 ここから、(一般的な)スーツの支給では、特定の職員とも特定の事業所の従業員とも判別できないので課税対象という結論になる。

 小売業・サービス業・運輸交通・医療現場等の場合には、客や患者から見て誰が従業員かどうかの見分けがつきづらいという問題があるので、男女問わず制服があることが多いし、製造業や建設業等も業務上の必要から制服着用のところが多い。

 これらの制服については、当然、皆平等に非課税だ。
 

・ 会社の、服装の決め方の問題

 
 それに対して、事務系や営業系になると男性は(一般的な)スーツ・女性は制服というパターンが多い。こうした区別は『男女雇用機会均等法』に照らして問題ありとする見解も多いが、その問題に立ち入るとちょっとやそっとで元に戻れなくなるのでここでは触れない。

 また、このパターンの理由は何となく分かるような気もするが、全く専門外なので見当はずれに決まっている想像は書かない。その辺は、おそらく文化人類学の対象だろう。

 いずれにしてもこうなると、会社で着用する服を同じように支給しても、結果的に男性は課税・女性は非課税ということになる。

 つまり、この違いの原因は性差ではなく、その会社の服装の決め方にあるということだ。
 

労働協約はいる?

 
 さて、現物給与の場合なら労働協約の締結が要件になることについては『ー86.給与『通貨払いの原則』ー』で書いた。これとの関係はどうなるのか。

 たとえば、ある従業員に無料で住宅を貸与し、他の(貸与されていない)従業員にも住宅手当等の『均衡給与』は支給していない場合を考える。

 このとき、その従業員に対する『住宅の貸与』は労基法上の賃金ではない(―₁₁₄.食事や住宅貸与は賃金?―)。従って労働協約は不要だ。

 もちろん『住宅の貸与』であることに変わりはないので、居住スペースによる『社会保険上の報酬』には計上されるし、土地や住宅の課税標準額・床面積等に応じて課税対象とはなる。

 要は『労基法上の』現物給与なら労働協約が必要だが、そうでなければ不要。ただし、他の法律で賃金総額に含まれたり報酬認定されたり課税対象となったりする場合には、きちんと対処しておかなければならない。

 

次 ー ₁₁₆.通勤手当ー非課税枠の限界 ー

 

※ 訂正
・制服が非課税となる条件
11行目 他の客等から ➡ 誰が
14行目 制服について ➡ 制服については '24.01.26

2024年01月23日