ここでは、食事の支給や住宅の貸与の扱いをとり上げる。現物についても基本的には現金と同じで、賃金となり保険料や課税についても同じ扱いだが、これらについては様々な経緯からそれぞれの条件に合致すれば優遇措置が認められている。
ただこの『条件』というのが労働法・労働保険・(狭義の)社会保険・税法によってそれこそ『混乱を極めて』いると言っていいくらい複雑怪奇なので、前回はこれらを含めず後回しにしておいたものだ。
食事の支給
・ 労働保険では、条件を満たせば賃金でない
食事の支給については、以下の条件を満たしている場合は賃金とせず、全額を福利厚生として扱うので、賃金部分はない。
① 食事の支給のため、賃金を減額しない
② 食事の支給が明確な労働条件の内容になっていない
③ 食事の利益の客観的評価額が、社会通念上僅少と認められる
つまり、当初から『賄い付き』をうたっていた(労働条件としていた)など、食事の支給が常態となっている場合等、上の条件を満たしていない場合には賃金ということになる。
ただ、その場合も全額が賃金とはならず優遇措置がある。具体的には次の金額が賃金とみなされる。
・食費を徴収していない場合 ……………… 『厚生労働大臣が定める告示額』の1/3
・食費の徴収額が『告示額』の1/3未満 … 『告示額』の1/3 ー 徴収額
・食費の徴収額が『告示額』の1/3以上 … 0円
ここで『厚生労働大臣が定める告示額』は、日本年金機構のHPに載っている。こちらは労働保険であり、日本年金機構は(狭義の)社会保険の機関なので戸惑う方もいるが、労働保険に関しても全く同じものを使う。
これは『都道府県ごとの単価』で示され、次のようになっている(2024年4月分~)。なお、首都圏を抑えて沖縄がトップだ。理由は分からない。これ以外についてはねっと検索ですぐ見つかるので省略する。
1ヶ月当たり 1日当たり 朝食 昼食 夕食
北海道 23,100円 770円 190円 270円 310円
長野(最低額) 21,600円 720円 180円 250円 290円
沖縄(最高) 24,000円 800円 200円 280円 320円
山形・東京(3位) 23,400円 780円 200円 270円 310円
石川・島根・山口
・ 社会保険では、告示額の2/3未満なら差額が報酬
社会保険の場合も上と同じ『告示額』を使うが、こちらは『告示額』の2/3が基準になる。つまり、
・ 食費を徴収していない場合 … 『告示額』の2/3
・ 食費の徴収額が『告示額』の2/3未満 … 『告示額』の2/3 ー 徴収額
・ 食費の徴収額が『告示額』の2/3以上 … 0円
が、『現物供与の価額』として社会保険の報酬額となる。
・ 税法上は負担割合と金額が基準
税法上の基準は、上の2つに比べれば分かりやすい。税法なので『告示額』には関係なく、
① 食事の価額の半額以上を本人が負担し、
② 使用者負担が月3,500円以下
であれば、課税しないことになっている。この要件が満たせない場合は、差額が課税対象だ。
ここで、『食事の価額』は、弁当や店屋物を支給する場合は購入金額だ。
使用者が調理する場合(別に社長が調理しなくても、会社『側』が調理すれば可)は、『主食・副食・調味料等に要する直接費の額』(要は学校給食費と同じ)となっているので、人件費や水道光熱費及び食材購入の際の消費税などは除く。
住宅の貸与
・ 労働保険では、『均衡給与』支給なら賃金
『住宅の貸与』については、貸与を受けない者に対して一定の均衡給与が支給されている場合はその相当額が賃金とみなされる。そうでない場合は賃金ではない。
・ 社会保険では、家賃が『家屋面積×単価』未満なら報酬
社会保険上の報酬額は、まず『住宅の貸与』の通貨への換算額を次の式で算出する。
通貨への換算額 = 住宅面積(m²)÷ 1.65m² × 都道府県ごとの単価
ただしここで『住宅面積』については、玄関・台所・トイレ・浴室・廊下あるいは店・事務所等の『居住用でないスペース』は除く。
『1.65m²』というのは畳1畳分(1/2坪)で、(0.303…m×6)² ÷ 2(=1.65289…m²)だが、ここでは正確に『1.65m²』を使う。
『都道府県ごとの単価』は毎年改定され、現在(2024年4月~)は北海道で1,110円、最も低い青森で1,040円・最も高い東京で2,830円、次が神奈川の2,150円等となっている。これも検索すると簡単に出てくるので後は省略する。
この『都道府県ごとの単価』は、本店と支店が別の都道府県に所在していれば、本店は本店、支店は支店の所在する都道府県の単価を使う。
こうして『通貨への換算額』が出てくれば、家賃が『換算額』以上であれば、『住宅貸与による報酬額』は0円、家賃が0円を含めて『換算額』未満のときはその差額が『報酬額』として算定される。
・ 税法上は『課税標準額』と総床面積による基準
税法上は、役員の場合や超豪華住宅を除いて、その住宅に『通常支払われるべき賃貸料の月額』を次の金額とし、この半額以上を家賃として徴収している場合は課税しないが、半額未満の場合は半額との差額が給与収入として課税対象とされる。
通常支払われるべき賃貸料の月額
= 家屋の課税標準額 × 0.2% + 12円 × 総床面積 + 土地の課税標準額 × 0.22%
例えば、家屋・土地の課税標準額がいずれも1000万円であり、総床面積30坪の社宅の場合、
1000万円 × 0.2% + 12円/坪 × 30坪 + 1000万円 × 0.22%
= 42,360円
が『通常支払われるべき賃貸料の月額』となるので、家賃21,180円未満で賃貸している場合は差額が課税対象となる。
ただし、これにも『課税されない社宅』という例外もあるので、詳しくは国税庁のHP等を参照願いたい。
次 ー ₁₁₅.記念品・制服等の物品支給は賃金? ー
※ 2024年度価額に変更 '24.10.30