パートやアルバイトで入社した方がフルタイムになった・あるいは逆に週の所定労働日数や時数が少なくなった…というのはよくある話だ。この場合の年休付与について考えてみる。
パート労働者がフルタイムに
古成さんは、高校2年のゴールデンウィーク2022年の5月1日から、学業に差し支えのないよう土日のみ1日5時間・週2日のパートとして入社。法令通り年休を付与している。
つまり、
年次有給休暇
'22年5月1日入社
'22年11月1日 3日付与
'23年11月1日 4日付与
というように、これまでに計7日の年休を付与されている。
'24年の4月1日から、同社の法令順守の姿勢に安心した古成さんは、高校卒業を機にフルタイムの正社員として働くことになった…という設定だ。
・ フルタイム化後の年次有給休暇は?
そういうわけで、労働条件としては、週2日5時間ずつから、週5日8時間ずつに変更となる。
なおこの会社では、労使協定により時間単位年休が年5日分まで認められている。
(法律上当然といえば当然だが)週2日のパートの高校生に規定通り年休を付与しているきちんとした会社だからこそ、余計気になるのが、正社員となった4月からの年休をどうするかということだ。
ちなみに、古成さんは'24年3月までに、年次有給休暇を 2日と3時間 取得している。
① 『1日年休』の取得時間は、所定時間の変更日から変更
'24年4月からは所定労働時間が8時間になるので、『1日年休』といったら前の5時間ではなく終日8時間取得させなければならない。これは、まあ、常識の範囲内と思う。
『付与日数』については、4月の変更はない。あくまで年休の付与は基準日なので、'24年11月1日の『基準日』前までは、請求されたときに年休の残日数まで年休を取得させるだけでよい。
② 時間単位年休の『1日』の時間数も変更
さて、つぎはこの『残日数』だ。初回の年休付与が'22年11月なので、まだ時効(近いうちに説明します。)にかかる分はない。
1日年休や半日年休しか取っていない場合は、付与日数(この場合は7日)から使った日数を引くだけでよい。
2日使っていれば5日、4.5日使っていれば2.5日が残日数となる。0.5日(半日)の扱いは、事業所の定めによる。
古成さんは24年3月までに年休を2日と3時間使っているのだが、この時間年休分の余りについてはどうなるのか。
24年3月を終えた時点で年休の『残日数』は繰越し分を含めて4日と2時間ということになる。
・ 『残時間数』は比例計算で切上げ
日数の方は、上で説明したように『4日』そのままでいい。
余りの『2時間』は、『1日』の所定労働時間で比例計算になる。つまり、所定労働時間が1日5時間から8時間になった瞬間?に、残された『2時間』も、8/5倍に引き伸ばされる。
つまり、『時間単位年休』に関しては、4月からの所定労働時間(1日8時間)に合わせて、これまでの『1日=5時間』換算から『1日=8時間』換算に切替えて、『残時間』を計算しなければならない。すると、
2時間 × ( 8時間 ÷ 5時間 ) = 3.2時間
となるが、時間単位年休は1時間未満の端数は認められない。ここで四捨五入して3時間とすれば、0.2時間分『年休権を奪った』ことになってしまうので、端数は切上げと決まっている。結局、
2時間 × ( 8時間 ÷ 5時間 ) = 3.2時間 ➡ 4時間
(切上げ)
と計算し、古成さんの24年4月1日時点の年休残日数は、『4日と4時間』となる。
③『出勤率』=『出勤日数』÷『全労働日』は変わらない
さて、めでたく次の基準日24年の11月1日が到来した。
年休付与のため、前日まで1年間の『出勤率』を算出しなければならない。真面目そうな古成さんのことなので出勤率8割はクリアすると思うが、何の8割かが問題だ。
ここは、そう頭を使うところではない。3月までは週2日、4月から週5日になったわけだが、まとめて23年11月から24年10月まで1年間の『出勤日数÷全労働日』で計算して問題ない。
おそらく、この場合の『全労働日』は、23年11月から24年の3月までのパート勤務の分が40日前後、24年4月から10月までの正社員としての分が150日位、計190日くらいと思われるが、これに対する全体の『出勤日数』が、すなわち『出勤率』となる。
中身を考えると色々ありそうだが、『出勤率』の出し方も法律で決まっているので、これ以上複雑なことを考える必要はない。
④ 基準日の条件で年休付与
24年11月1日の基準日は古成さんにとって3回目の付与となる。3月までは週2日・4月から週5日の所定労働日数だが、週何日勤務の労働者として年休を付与すればいいのか。
これも当たり前だと思う方が多いだろうが、わりと何でもないところで考え込む方もいるので、あえて触れた。
これは、基準日24年11月1日現在の週所定労働日数が5日なので、週5日(早い話が、比例付与でない『通常の労働者』の日数)の労働者だ。付与日数は、基準日現在の所定労働日数で考える。
この場合は、『通常の労働者』の入社2年半後の付与日数である12日の年休を付与することになる。
また、今回の話題とは離れるが、付与日数がここではじめて10日以上となるので、この時点から古成さんも年5日の取得義務の対象となる。
これは、たとえ週1日のアルバイトが、基準日当日に週5日のフルタイムになったとしても同じことだ。また、定年再雇用等で逆パターンの場合も同様に考えればよい。
古成さんの場合のまとめ
古成さんの年休の状況について、ここまでまとめると、次のようになる。ちなみに、古成さんは、フルタイムになって10月までに、年休を2日取っていたものとする。
付与日数 取得日数 残日数 所定の日数・時間 イベント
'22. 5. 1 2日/週・5h/日 パート入社
'22.11. 1 3日 3日 年休初回付与
1日 2日
'23.11. 1 4日 6日 年休2回目付与
1日・3h 4日・2h
'24. 4. 1 4日・4h 5日/週・8h/日 フルタイム正社員化
2日 2日・4h
'24.11. 1 12日 14日・4h 年休3回目付与
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