年次有給休暇は2年で時効
賃金請求権の時効は、最近3年に伸びたが(退職金は元々5年)、年休を使える期間の時効についてはその趣旨により(付与時から)2年のままだ。もちろん、取得した有給休暇分の賃金請求権の時効は3年になる。
通常勤務の方の場合は付与日数は6ヶ月後の10日から1年ごとに11日・12日・14日・16日・18日と増えていき、就職6年半後に20日となる。
前2年間に、年休付与は最大20日なので、年5日の取得義務を果たしていても、付与時に、ある方が持っている最大の年休取得権は、前回から繰り越した20日と新規に付与された20日の、合わせて40日ということになる。
・ 『新しいものから取得』も可
通常は意識せずに、前に付与された年休から順に使っていくことになるが、就業規則上の根拠があり、労使の合意がある場合には、新しく付与された年休から使っていくことにすることも可能だ。
この場合には、先の例で言うと、この方が1年間で20日間年休を取得した段階で次の付与日が来た場合、繰り越した15日分(5日分は前年度、義務で消化しているはず)の年休は時効消滅することになる。
ちょっと意地の悪い制度とも思えるが、見方を変えれば、年休を毎年毎年完全消化するか、遅くとも次の期までに完全取得しておけば、何の問題もない。
・ その期の年休、その期のうちに
『そのうち何かあった時に年休をまとめて取ろう』と考えていても、まとめて年休を取るほど『何かある』確率は低い。
結果的に何事もなく毎年年休を消滅させてしまい、結局取得率が低迷している企業の多くの方に、年休の早期取得を積極的に推進する制度とも捉えることが可能だ。経営陣の姿勢如何でいかようにも取れる制度と言えるかも知れない。
ただし、通常の取得順序よりは時効消滅の可能性が高まるという意味で労働条件の『不利益変更』とは言えるので、通常の取得順から変える場合には、原則として従業員の同意を得なければならない。
ちなみにこれを図示すると、たとえば次のようになる。'20年4月1日にフルタイムで入社し、各々の期間の出勤率8割はクリアした場合である。
なお、それぞれ4回目付与の前日時点で、全ての年休は使い切っているものする。要は、それぞれの期に付与された年休が、その後2年の間にどうなったか…という表だ。
※ 先に付与されたものから取得(通常の場合)
4回目 5回目 6日目 7回目 8回目 取得日数
23.10.1 14日付与
10日取得 10日
24.10.1 16日付与
4日取得 14日取得 18日
25.10.1 完全消化 18日付与
2日取得 6日取得 8日
26.10.1 完全消化 20日付与
12日取得 14日取得 26日
27.10.1 完全消化 20日付与
5日取得 0日取得 5日
28.10.1 1日消滅
※ 後に付与されたものから取得
4回目 5回目 6回目 7回目 8回目 取得日数
23.10.1 14日付与
10日取得 10日
24.10.1 16日付与
2日取得 16日取得 18日
25.10.1 2日消滅 完全消化 18日付与
8日取得 8日
26.10.1 20日付与
6日取得 20日取得 26日
27.10.1 4日消滅 完全消化 20日付与
5日取得 5日
28.10.1
年休の時季変更と時効
ほかに、時効との関係で問題になるのは、時効(普通は次の基準日)が迫っているときに年次有給休暇の請求があり、『事業の正常な運営を妨げる』ので、時季変更権を行使するというときに、その時季の変更先が、どうしても時効期限の後になるような場合だ。
この場合は、会社が時効に固執しないのであれば、この変更先の年次有給休暇については会社が『時効を援用しない』ことにすれば解決する。
・ 時効の援用
民法145条(時効の援用)は、
『時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な権利を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判することができない』
と定める。実は、この()内は2020年の民法改正で挿入された部分で、丁度いいタイミングで、この項の法的根拠の説明が簡単になった。
この場合で言うと、時効になると年次有給休暇を与える義務を免れる『会社』側が『年次有給休暇の消滅時効について正当な権利を有する者』すなわち権利者ということになる。
また、『援用』とは、日常それほど使う言葉ではないので説明すると、民法上は『権利を行使することを伝える』くらいの意味だ。
『裁判所が…』というのも少々回りくどい表現だが、日本は法治国家という建前になっているので、『裁判所が…裁判をすることができない』というのは、『法的に判断できない』、この場合で言えば、『時効かどうかは判断できない。』ということだ。
・ 時効を行使しないという選択
つまり、会社側が時効を行使すると伝えなければ、時効は無効ということになる。
これは、借金の時効と同じで、時効期間が経過したからといって直ちにスパッと権利義務が消滅するものではない。時効期間が経過した後、借金した側(『時効』の権利者)が『時効の権利を行使する』ことを相手に伝えて(時効を援用して)はじめて時効が成立する。
年次有給休暇の場合も、普通は時効を援用するので『10年前に付与された余った年休下さい』と言われても拒否するのが当たり前だ。
しかし、時季変更の場合は会社の都合で時効期限を超えてしまう(しかも直後)という状況なので、『時季変更権行使によって』時効期限を超える日数については『時効を援用しない』というのが、一番簡単な解決方法といえる。
法的には、『原則として、(労働者の)裁判上の請求でない限り時効中断の効力は生じない』とされているが、これをタテに時効に固執するのは、この場合は得策ではないだろう。
ただ、義務的取得以外に計画性が全く感じられず、毎年忙しい時期と重なるラスト1ヶ月を切ったタイミングで余った2週間以上の年休を毎回突然請求してくる…とかいった特殊な場合は、ここでは考慮しない。
次 ー ₁₀₂.年次有給休暇の5日取得義務 ー
・ 新しいものから取得も可 5行目
20日分の年休は ➡ 15日分(5日分は前年度、義務で消化しているはず)
・メインタイトル変更
年休の使用順序と時効 ➡ 年休の消化順序と時効 '23.12.1