さて、ここからしばらく、給与の支払い方に関する決まりごとを見ていく。給与の支払い方については、『賃金支払の5原則』というものがあり、基本的にはこれに反する支払い方はできないが、例によってこれにもそれぞれ例外がある。
・賃金支払の5原則とは
賃金(給与)は、
① 毎月1回以上
② 一定の期日を定めて
③ その全額を
④ 通貨で
⑤ 直接労働者に
支払わなければならないことになっている。これを、賃金支払の5原則という。
労働基準法上は、③~⑤は24条1項・①と②は24条2項に規定されているもので、無理やり1つの文にまとめようとしたら順序が逆になってしまったが、ご了承ください。
『毎月1回以上』『一定の期日』は生活の安定が趣旨
まずは『毎月1回以上』『一定の期日を定めて』の原則だ。
毎月1回『以上』なので、たとえば『毎月15日と末日の2回』と定めるのも可能だし、毎週支給のところもあるが、こうした場合は社会保険料や源泉所得税の徴収の仕方がややこしくなるので、専門書等でしっかり確認する必要がある。
言うまでもなく一般的には『毎月1回』『○日支給』(『末日』も可)とする場合がほとんどだ。『毎月第4金曜日』とかいうのは、日にちのバラつきがありすぎるのでダメということになっている。
・銀行休日後ろ倒しも可
『○日支給』としても、振込の場合は支給日が銀行休日なら支給できない。この場合前倒し・後ろ倒しもやむを得ないが、しっかり社内規則に従って施行していれば問題はない(前倒しが多いが、後ろ倒しが禁止されているわけではない。)
ただ、末日払いも含めて27日以降払いの会社だと、後ろ倒しすると月によっては翌月に持ち越しになる場合がある。これは『毎月1回以上払い』の原則からいって避けるべきだろう。
・前倒しで前月支給も許されるが…
逆に各月5日以前の振込払いだと、前倒しすると前の月になってしまう月が出てくる。実際問題1日~4日払いのところはあまりないが、5日払いのところは結構多い。
この場合、1月1日が水曜日だと、1~5日が全て銀行休日となるので12月30日に支給しなければならなくなる。すると、1月の給与支給日がなくなる。頻度としては平均で7年に1度ではあるが(直近では2025年がこれに当たる)、これは問題にならないのか。
また、5月1日が土曜日の場合にも同様の問題が生じる。
実は、これは翌月に支払うべき給与をあえて先払いしたとみなして、問題とはされないようだ。『毎月1回以上』『一定の期日を定めて』の原則の趣旨は、労働者の経済生活の安定を企図したものなので、前倒しの結果、たまたま前月支給になってしまうのは許される。
年13回の給与支給は、扶養控除等に影響も
ただし、労基法上は問題がなくても、『12月分』給与の場合は別の問題が生じる。12月に2回給与が支給されることにより、前年12月分・当年1月分~12月分と、この年13回給与が支給されることになる。
この結果、扶養から外れる場合が出てくるのだ。ここでいう扶養とは、所得税の扶養控除等(ここでは配偶者控除を含む)のことであり、社会保険の扶養関係には影響しない。
この方が例えば世帯主に扶養されていて、月85,000円の給与を得ていたとしよう(この場合は税金の話なので、通勤手当の非課税部分等は除外した金額とする)。
賞与がなければ年間102万円。103万円以下なので、扶養者(世帯主など)は扶養控除等を受けることができる。ところがこの年12月30日に追加の13回目の給与が入金になると、年額110万5000円となり、扶養の範囲をオーバーしてしまう。
この場合、この方が単なる配偶者であれば、配偶者控除が配偶者特別控除に名を変えるだけでほとんど実害はない。
しかし扶養されているのが、配偶者であっても障害者控除を受けている方だったり、配偶者以外の被扶養者 ー 特に年末時点で19才~22才の『特定扶養親族』に該当する方・『同居老親等』に該当する方だったりすると、それらの控除も一気になくなり、住民税と合わせると、(この例では)世帯主がかなりの負担増となることも予想される。
・前倒しで税負担20万円増も
たとえば扶養されている配偶者が同居特別障害者の場合、ザックリ試算すると、扶養者が給与収入800万円の場合、配偶者の年間給与収入が102万円から110万5000円になると、特別障害者控除がなくなる影響で、扶養者の所得税が23万円程度から38万円程度・住民税が36万円程度から41万円程度へ上昇し、計20万円程度税負担が重くなる。
もちろん他の条件によっても多少の違いはあるので、あくまで参考例ではあるが、この場合、被扶養者の収入2ヶ月分以上が丸ごと吹っ飛ぶ計算だ。
そしてその翌年は(給与月額が変わらなければ)11回の給与で年収93万5000円となり、扶養の枠を1ヶ月分余してしまう。
こういった問題の対象者が多い場合には、やはりこの方法は再考した方が良い。『12月分の給与だけは、銀行休日後ろ倒し』と規定することもやむを得ないのではないか。
12月分のみ当月支給は可
これとは似て非なる話だが、『翌月5日払い』の会社の中にも『12月分のみ年内支給』(つまり当月支給)と規定しているところもある。
これは毎年必ず給与支給が12回と固定されるので(2月~11月1回ずつ・12月2回)、1月に支給日がないことは原則に反するが、12月分給与の先払いとして問題とはされないようだ。この運用なら、前述の問題も生じない。
ところで、〆日から支給日まで5日間というところもある。少人数で現金支給のところはぎりぎり間に合うかもしれないが、振込のところは『手数料の優遇扱いは支給日の2営業日前の○時まで』というところが多いので、〆日から10日程度の余裕を見ておいた方が間違いない。
・ 『支給日』と『支給を受けた日』
ついでに国税の方から出ている通達では、『収入の確定する日』は、契約や慣習により支給日が定められている給与についてはその支給日・支給日が定められていない給与についてはその支給を受けた日となっている。
ここで労働者に関して言えば『支給日が定められていない』ということは法律上あり得ないので、合法的に支払っている限り『支給日=支給を受けた日』ということになる。
ただ労基法上あってはならないことであり、さすがに周りでは聞いたことはないが、間違ってたとえば契約で定められた12月30日に入金依頼したが、時刻が遅かったなどの事情で入金が翌年1月になってしまった場合などは、定められた支給日である12月30日に支給されたものとして、源泉徴収簿・源泉徴収票を作成することになるだろう。
次 ー 85.給与全額払いの原則と例外 ー
※ メインタイトル変更
賃金支払の5原則とは ➡ 給与『月1回以上・一定期日払い』の原則
※ サブタイトル変更
『毎月1回』『一定の期日』は ➡ 『毎月1回以上』『一定の期日』は
・前倒しで前月支給も許されるが…
7行目 5月の場合を追加
年13回の給与支給は、扶養控除等に影響も
1行目 この場合は『12月分』の給与なので ➡ 『12月分』給与の場合は '23.10.03
※ サブタイトル・1項追加
最下段 『支給日』と『支給を受けた日』 '24.04.22