労働時間・休日 規制の 例外 9
みなし労働時間制の場合
労働時間の算定が難しい場合に一定の時間を労働時間と『みな』す、『みなし労働時間制』として認められているのは、次の3種である。
① 事業場外みなし労働時間制
② 専門業務型裁量労働制
③ 企画業務型裁量労働制
事業場外みなし労働時間制
①の事業場外みなし労働時間制は、外勤業務で会社に帰らず直行・直帰する場合等、労働時間を算定しがたいときに認められる。
その場合は基本的に所定労働時間労働したものとみなし、『業務遂行のために通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合』は、通常必要とされる時間の労働とみなす。
この場合、みなされた労働時間が、算定しがたいとされた実際の労働時間より長い場合もあれば短い場合もあるが、みなされる時間が法定労働時間を超える場合は労使協定の締結と届出が必要。
厚労省は、①の事業場外労働に関するみなし労働時間制を適用できない場合として、次の3つを例示している。
・みなしを適用できない場合の例
ア・グループで事業場外労働をする場合で、そのメンバー中に労働時間を管理する者がいる
イ・無線やポケットベル(知らない方は年長者に聞いてください・広田)等によって随時使
用者の指示を受けながら労働している
ウ・事業場において、訪問先・帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で
指示通り業務に従事し、その後事業場に戻る
等の場合だ。
これを見ると、大航海時代ならいざ知らず、携帯電話の普及した現代で『事業場外みなし』を適用できる条件を満たすことは少ないだろうと思う方もいるかもしれないが、『算定しがたい』は『算定できない』わけではないので、諸般の事情で『算定しがたい』ときは『みなし労働時間制』を適用できる場合もある。
たとえば、東京労働局では、『営業社員に携帯電話を持たせているが、各自の判断で担当する取引先と緊急時の連絡を必要とするときにのみ使用されている』場合は、『みなし労働時間制を適用できる』としている。
・司法は狭く判断
ただ、あくまでこれは行政(監督署等)サイドの判断なので、司法の判断はまた別だ。
『阪急トラベルサポート残業代等請求事件』(2014.01.24最高裁)では、募集型の企画旅行における添乗員の業務について、以下の事情から『労働時間を算定しがたいとき』に当たるとは言えないとした(つまり、事業場外のみなし労働時間制は適用できない。)。
ア・当該業務は、旅行日程がその日時や目的地等を明らかにして定められることによって、その内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られている。
イ・当該業務について、上記企画旅行を主催する旅行業者は、添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示したうえで、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日記(自己申告)によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされている。
ただ、労働時間の『算定が可能』であれば直ちに『労働時間を算定しがたい』が否定されるものでもない。算定が『可能か不可能か』という問題は、算定『しやすいのか、しがたいのか』という問題とは全く違うからだ。
『(算定)不可能』を否定するには『可能』なただ1つの例を示せば足りるが、『(算定)しがたい』を否定するには、『しやすい』か、少なくとも『しがたい』とは言えない程度に難易度が低いことを示す必要がある。
『阪急トラベル…』事件の場合は、上記のような具体的事情から(算定の難易度が低く?)『労働時間を算定しがたい』ときには当たらないとしたものだ。
このように、司法は『労働時間を算定しがたいとき』を狭く判断するのが主流だ。
特に最高裁の判例は後の裁判を相当程度拘束するので、事業場外労働に関するみなし労働時間制を導入する場合は、実務的にはこうした点も検討すべきと言える。
テレワークとみなし労働時間制
コロナ禍が契機となって、事務作業等ではテレワークも増えてきた。自宅でのテレワークに『事業場外みなし労働時間制』は適用できるのか?
これも、テレワークだからといって特別な法律はないので、前述したような要件に合致しているかどうかを確認すればよいが、厚労省からは『自宅でのテレワークで、事業場外みなし労働時間制が利用できる要件は?』というQ&Aも発出されているので、一応紹介しておく。
ここでは、事業場外みなし労働時間制適用の要件として、次の3つが挙げられている。ただし、これもあくまで『行政』の判断なので、一応お断りしておく。
・自宅のテレワークで『事業場外みなし』を適用できる要件
① 業務が自宅で行われる
② パソコンが使用者の指示で常時通信可能な状態となっていない
労働者が、使用者の指示に即応しなければならない状態のときは『通信可能な状
態』としてNGだが、単に回線が接続されているだけで、労働者がパソコンから離
れることが自由な場合はOK。
③ 作業が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていない
業務の目的・目標・期限やこれらの変更を指示することは『具体的な指示』では
ないのでOK。
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※ 誤字訂正
・テレワークとみなし労働時間制
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