36協定に限らず労使協定は誰と誰が結ぶのか(締結当事者は誰か)は労働基準法に明記されていて、
『使用者』と『過半数労働組合』(これがない場合は労働者の過半数を代表する者)
となっている。
使用者とは?
さらに、『使用者』というのは、
① 事業主(法人又は個人事業主)
② 事業の経営担当者
③ 事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者
とされる(労基法第10条)。
この労基法10条の最後『…行為をするすべての者』は、『すべての』がなくても意味は通じる。というかほとんど変わらない。そこにわざわざ『すべての』を入れているあたり、なるべく『使用者』の範囲を広く捉えさせようとする労働基準法の『意志』が感じられる。
つまり、使用者には、部長・課長・係長あたりまで含まれることになる。
労基法の『使用者』の定義としてはこれでいい。労基法は労働者保護が主眼なので、そのために『使用者』の行動に制限をかける条項が多い。同じような不当な指示を部長から受けたら労基法違反だが、係長から受けたら違反にならない…というのでは保護にならないからだ。
係員にとっては係長『でも』部下に対する権限を持つ上司だ。 ただし、実質的な権限がなく、上司の命令の伝達者に過ぎない場合は『使用者』ではない。
もちろん、係長はもちろん、課長も部長も、取締役等の役員でなければ基本的に労働者なので、『その方々(係長・課長・部長)に関する事項について事業主のために行為をする者』は、その係長・課長・部長にとって『使用者』である。
つまり、『使用者』とは、かなり相対的な概念なのだ。
・締結当事者には権限が必要
『使用者』の定義としてはいいが、労使協定の締結当事者たる『使用者』の範囲がこんなにあいまいでは困る。
労使協定は事業場単位で結ぶものなので、使用者側の締結当事者は、その事業場全体の経営について権限を持っていなければならない。
協定の締結当事者たる『使用者』は、一般的には個人事業なら個人事業主・法人なら代表取締役等の法人代表がなるのが普通だ。
事業場が何十何百あろうと、代表取締役は、普通それぞれの事業場の経営についての当事者であり、権限を持っているので問題はない。
また、事業場全体の経営について権限を持っているのであれば、部長等が使用者側の協定当事者となることはあり得る。
過半数代表とは?
次に労働者の方だが、労働者(役員以外の、普通労働組合に入れない『管理監督者』も含む)の過半数を擁する労働組合がある場合は、その労働組合となる。
さて、中小企業には労働組合がない場合が多いので、その場合を含めて過半数労働組合がない場合は、従業員に頼んで『労働者代表』を選出してもらわなければならない。
たとえば単一の労働組合がある事業場に12人の労働者がおり、1人は管理監督者・6人は労働組合に加入しており、5人は非組合員のアルバイトとする。この場合は過半数労働組合は『ない』ことになるので、改めて『労働者代表』を選出してもらう必要がある。
もちろん、この6人の労働組合の委員長が組合員を含めて7人以上の支持を得て『労働者代表』に選出されれば、その方が『労働者代表』となる。
・民主的に選出すれば、話し合いでもOK
『労働者代表』を選出する場合、労使協定の締結当事者を選ぶことを明確にして民主的に行えば、投票・挙手以外でも、話し合いによる選出でもよい。もちろん使用者による指名は認められない。
・管理監督者に『被選挙(等)権』はない
ここで、組合員からもアルバイトからも人望が厚い古参の労働者がいたとしても、その方が『管理監督者』なら代表にはなれない。
労働者代表を選ぶ場合、管理監督者は労働者として1票を投じたり、代表を決める話し合いに参加したりする権利(『選挙(等)権』)はあるが、『被選挙(等)権』はないからだ。
・長期休業者も含める
さて、『過半数』というからにはその母数(分母)を明確にしておかなければならない。
役員以外の管理監督者やアルバイトも含めることは先に書いたが、何らかの事情で長期休業中で、労働者代表の任期期間中職場に戻れない見込みの方も、この母数に入れなければならない。
また、派遣労働者がいる場合は、その方は派遣元の労働者としての母数に入るので、派遣先の労働者の母数には入らない。
・過半数代表者の権限
こうして選ばれた『過半数代表者』は、当然ながら労使協定締結の拒否権も持つ。36協定なら、ここで拒否された場合には、そのままなら少なくともその任期中は時間外・休日労働はさせられないことになる。
折合いがつくところまで時間外・休日労働の時間数等を協議することになるだろう(36協定の場合)。
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※ 誤字訂正
・使用者とは?
15行目 取締等 ➡ 取締役等 '23.06.26